65.伊東の値踏み
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「夢主さん、貴女をもっとよく知りたいの」
「えっ……」
話しながら一歩近付いた伊東を警戒して、夢主は胸に抱えた羽織を強く抱きしめた。
後ろは障子、もたれられない。
「貴女、お酒は?今宵斎藤さんとご一緒するのよ」
「今夜ですかっ、斎藤さんと……」
「えぇ。貴女、斎藤さんにお世話になっているのでしょう」
「はぃ」
「それはどういった関係なのかしら……」
更に一歩近付くと夢主の表情を確認するように顔を寄せた。
にんまりと極めて細い瞳、にこやかな笑顔は相変わらず。
しかし夢主は変化のない伊東の表情に怖さを覚えた。
「あの……」
「まぁいいわ。今夜、ご一緒に如何かしら」
「私、お酒は……」
「あら」
伊東は顔を離すと背筋を伸ばし、扇を下ろして笑顔を消した。
初めて真顔を見せ夢主を見下ろす。
「残念ね。まぁ、また何れ……機会を設けましょう」
そしてニヤリと微笑んだ。もう一度にこやかな笑顔に戻ったのだが、夢主には歪んだ笑顔にしか感じられなかった。今度は断ることは許しませんと、伊東の無言の圧を感じる。
恐怖に怯えて黙って頭を下げると、伊東はふいっと体の向きを変え去って行った。
去り際、羽織の裾が夢主の体をかすめた。
夢主は少しだけ顔を上げて、立ち去る姿を見送った。羽織を大きく翻し、角を曲がって姿を消す。
伊東が自分に感心があるのは明らかだった。
見かけた小姓に直した羽織りを手渡して、夢主は部屋に戻った。
最近、土方をはじめ、幹部達の周りを動いて世話をする小姓が幾人かいるのだ。
平隊士同様、極力関わらないよう言われているが、直しの終わった着物や洗濯物の受け渡しで時折声を掛けていた。
戻った部屋では、さっぱりとした顔で斎藤が立っていた。
ちょうど着替えを済ませた所だ。
「斎藤さんっ!お稽古お疲れ様でした……」
「あぁ。……どうした」
部屋にいる自分の姿に驚き、元気なく挨拶をして座り込む夢主に、斎藤が首を傾げた。
「いえ、縫い物を頼まれました。伊東さんに……それは構わないのですが……失敗したらどうしようって緊張してしまって……」
「そうか。仕上がりを気にするくらいなら、はなから頼むまい。それから」
「えっ」
「それから、あとは何だ」
一つ目の気掛かりを口にし、まだ頭の中で考えているだろうと、別の事柄をさっさと話せと催促した。
「あの、斎藤さん今夜伊東さんとお酒を呑まれるんですか……」
「今夜か。そうか、動くのが速いな。確かに誘われた。今夜とは思わなかったがな」
「今夜と仰ってました。それで、一緒にどうかと誘われて……」
「受けたのか」
夢主が小さく首を振るのを見て斎藤は安堵し小さく息を吐いた。
「でもいずれ必ずと、そんな様子でした。どうしよう、斎藤さん……」
「もし酒席があれば俺か、誰かお前が信頼できる人物を必ず傍に添える。安心しろ」
「……はぃ」
斎藤の声に安心してようやく顔を上げた。
「えっ……」
話しながら一歩近付いた伊東を警戒して、夢主は胸に抱えた羽織を強く抱きしめた。
後ろは障子、もたれられない。
「貴女、お酒は?今宵斎藤さんとご一緒するのよ」
「今夜ですかっ、斎藤さんと……」
「えぇ。貴女、斎藤さんにお世話になっているのでしょう」
「はぃ」
「それはどういった関係なのかしら……」
更に一歩近付くと夢主の表情を確認するように顔を寄せた。
にんまりと極めて細い瞳、にこやかな笑顔は相変わらず。
しかし夢主は変化のない伊東の表情に怖さを覚えた。
「あの……」
「まぁいいわ。今夜、ご一緒に如何かしら」
「私、お酒は……」
「あら」
伊東は顔を離すと背筋を伸ばし、扇を下ろして笑顔を消した。
初めて真顔を見せ夢主を見下ろす。
「残念ね。まぁ、また何れ……機会を設けましょう」
そしてニヤリと微笑んだ。もう一度にこやかな笑顔に戻ったのだが、夢主には歪んだ笑顔にしか感じられなかった。今度は断ることは許しませんと、伊東の無言の圧を感じる。
恐怖に怯えて黙って頭を下げると、伊東はふいっと体の向きを変え去って行った。
去り際、羽織の裾が夢主の体をかすめた。
夢主は少しだけ顔を上げて、立ち去る姿を見送った。羽織を大きく翻し、角を曲がって姿を消す。
伊東が自分に感心があるのは明らかだった。
見かけた小姓に直した羽織りを手渡して、夢主は部屋に戻った。
最近、土方をはじめ、幹部達の周りを動いて世話をする小姓が幾人かいるのだ。
平隊士同様、極力関わらないよう言われているが、直しの終わった着物や洗濯物の受け渡しで時折声を掛けていた。
戻った部屋では、さっぱりとした顔で斎藤が立っていた。
ちょうど着替えを済ませた所だ。
「斎藤さんっ!お稽古お疲れ様でした……」
「あぁ。……どうした」
部屋にいる自分の姿に驚き、元気なく挨拶をして座り込む夢主に、斎藤が首を傾げた。
「いえ、縫い物を頼まれました。伊東さんに……それは構わないのですが……失敗したらどうしようって緊張してしまって……」
「そうか。仕上がりを気にするくらいなら、はなから頼むまい。それから」
「えっ」
「それから、あとは何だ」
一つ目の気掛かりを口にし、まだ頭の中で考えているだろうと、別の事柄をさっさと話せと催促した。
「あの、斎藤さん今夜伊東さんとお酒を呑まれるんですか……」
「今夜か。そうか、動くのが速いな。確かに誘われた。今夜とは思わなかったがな」
「今夜と仰ってました。それで、一緒にどうかと誘われて……」
「受けたのか」
夢主が小さく首を振るのを見て斎藤は安堵し小さく息を吐いた。
「でもいずれ必ずと、そんな様子でした。どうしよう、斎藤さん……」
「もし酒席があれば俺か、誰かお前が信頼できる人物を必ず傍に添える。安心しろ」
「……はぃ」
斎藤の声に安心してようやく顔を上げた。