夢主は半ば呆然として斎藤の後ろをついて歩いた。

伊東甲子太郎が来た。

新選組が混沌とした時代の渦に巻き込まれていく。
斎藤は、間者として新しい仕事が待っている。自分と関わったまま任務を遂行できるのだろうか。
私は……その間、どう過ごせば良いのだろうか……。

「入るぞ」

休息所に着いたが気付かない夢主に知らせる為、斎藤は再び腕を取った。

「あっ、はいっ」

心ここに在らずの夢主を見て斎藤はふぅっと溜息を吐いた。
夢主を押し込むように先に中に入れて、斎藤は通りを確認してから中に入る。
向かい合って座ると斎藤は早速口を開いた。

「さて、分かりやすいお前のその異変の理由を教えてもらおうか。奴がどうした」

正座した夢主は膝の上でぎゅっと両手を握り締めた。

「そうです……わかりやすいですよね……伊東さんのことです……」

握り締めた拳を開くと、今度はもじもじと指と指を自ら弄び始めた。
話しあぐねて考えている。

「構わん、話せ」

「はぃ……斎藤さんは……」

手を止めて、斎藤の顔を見上げた。
端正な顔立ちだ。決して優しく穏やかな顔とは言えないが、凛々しいその顔は強く真っ直ぐな意思を感じる。
時折見える影さえも、斎藤のものとなれば色気を加える彩りとなる。

「斎藤さんっ、とってもお強いですっ」

斎藤は何の話が始まるのかと眉をひそめるが、真摯に耳を傾けている。

「さ……斎藤さんの事を信じています……斎藤さんのお力……判断力……行動力……心の、強さ……」

「どうした」

話を進められない夢主がもどかしく、心配になった斎藤は、落ち着けと間を取らせた。

「斎藤さんのこれからを……少しお話しても構いませんか。動きが取りにくくなってしまうかもしれないけど……このままだと斎藤さん優しいから、その……」

「構わん、話せ」

斎藤はいつもの確かな声色で返事をした。

「はい……伊東さん、そのうちに新選組を二分する存在になるんです。頭の良いお方です、争いをせずに上手く隊を分けて出て行くんです」

「隊を」

争わずして隊を分けるなど土方が許すものだろうか。斎藤も訝しんだ。

「はい。その時……斎藤さんもご一緒に」

「何」

「はっきりは私にもわかりませんが……斎藤さんは土方さんの指示を受けて、伊東さんのもとへ潜り込んだと言われていました」

「ほぉ」

斎藤は興味深く夢主の話を聞いていた。
間者はむしろ得意の仕事。
そのような面白い事態が起きるのかと、好意的に話を聞いた。

「こんな話を先に聞いて、動き辛いと思いますけど……私を気にして伊東さんと変に距離を取られるのではと心配で」

「フン、そうか」