63.伊東甲子太郎
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それから暫くの後、江戸へ隊士募集に出向いていた面々が帰京した。
十二月、夢主が一番対面を恐れていた人物が新選組に入隊する。
伊東甲子太郎である。
刀を差したまま屯所の廊下を歩く伊東と夢主は出くわした。
後ろには江戸から共に来た新入隊士が数名ぴたりとついている。
「あら……」
小さく声をあげた伊東と目が合った。
本能的に、歩いてきたこの男が伊東甲子太郎だと勘付いた夢主は、関わらないように顔を伏せて廊下の端により、道を開けた。
家の女が頭を下げる。至ってありきたりの状況だ。何も無ければこのまま通り過ぎる。
だが夢主は目の前に人影が寄ってくるの感じ、反射的に身を縮めた。肌が粟立つのを感じる。
「貴女が噂の……」
あろうことか伊東は壁を背にした夢主の前に立ち塞がった。
供の男がその後ろに控え、まるで夢主が取り囲まれているようだ。
視界に入る皺ひとつ無い仙台袴の縦縞を辿って視線を上に運ぶと、やがて白い首筋が見えてきた。
「ぁっ……」
目に入ったのは予想を裏切る穏やかな顔立ちだった。
「狐……」
夢主は思わず呟いてしまった。
伊東が狐に見えたのではない、狐みたいな男だと思っていたが、実際は全くそんな気配が無かったのだ。
「狐?あら、私が狐みたいということかしら」
おっとりとした口調の声に厭味は含まれていなかった。
「いえっ、失礼なことを……あの、とても雅びやかな……」
「ほほ、雅とは言って下さいます。貴女が夢主さんでしょう、江戸で藤堂さんからお話は」
にこりと含み笑いをして、伊東は今から入る空き部屋に体を向け、静かに去っていった。
「……はぁぁ……」
脱力した夢主はその場にずるずると座り込んでしまった。
拍子抜けをした、それと同時に得体の知れない伊東の本性に対する恐怖を覚えた。
「どうした」
「さっ……斎藤さん……」
廊下にへたりと座り込む夢主を見つけた斎藤が近寄ってきた。
「すみません……なんでもありません……」
しゃがんで様子を見る斎藤の顔をぼんやりと眺めていたが、伊東が歩き去った廊下の先に目を移した。
「新しく入隊された伊東さんだ」
「はぃ……」
「大丈夫か」
「はぃ」
斎藤は虚ろに返事を繰り返す夢主の体を抱き起こして立たせると、頬を撫でるように軽く叩いた。
「しっかりしろ」
「斎藤さんっ」
「やれやれ……ちょっと来い」
「あっ……」
くっと腕を取り夢主の体を引っ張ると、屯所の外に連れ出した。
途中、隊士達に見られる前に手は離れた。
十二月、夢主が一番対面を恐れていた人物が新選組に入隊する。
伊東甲子太郎である。
刀を差したまま屯所の廊下を歩く伊東と夢主は出くわした。
後ろには江戸から共に来た新入隊士が数名ぴたりとついている。
「あら……」
小さく声をあげた伊東と目が合った。
本能的に、歩いてきたこの男が伊東甲子太郎だと勘付いた夢主は、関わらないように顔を伏せて廊下の端により、道を開けた。
家の女が頭を下げる。至ってありきたりの状況だ。何も無ければこのまま通り過ぎる。
だが夢主は目の前に人影が寄ってくるの感じ、反射的に身を縮めた。肌が粟立つのを感じる。
「貴女が噂の……」
あろうことか伊東は壁を背にした夢主の前に立ち塞がった。
供の男がその後ろに控え、まるで夢主が取り囲まれているようだ。
視界に入る皺ひとつ無い仙台袴の縦縞を辿って視線を上に運ぶと、やがて白い首筋が見えてきた。
「ぁっ……」
目に入ったのは予想を裏切る穏やかな顔立ちだった。
「狐……」
夢主は思わず呟いてしまった。
伊東が狐に見えたのではない、狐みたいな男だと思っていたが、実際は全くそんな気配が無かったのだ。
「狐?あら、私が狐みたいということかしら」
おっとりとした口調の声に厭味は含まれていなかった。
「いえっ、失礼なことを……あの、とても雅びやかな……」
「ほほ、雅とは言って下さいます。貴女が夢主さんでしょう、江戸で藤堂さんからお話は」
にこりと含み笑いをして、伊東は今から入る空き部屋に体を向け、静かに去っていった。
「……はぁぁ……」
脱力した夢主はその場にずるずると座り込んでしまった。
拍子抜けをした、それと同時に得体の知れない伊東の本性に対する恐怖を覚えた。
「どうした」
「さっ……斎藤さん……」
廊下にへたりと座り込む夢主を見つけた斎藤が近寄ってきた。
「すみません……なんでもありません……」
しゃがんで様子を見る斎藤の顔をぼんやりと眺めていたが、伊東が歩き去った廊下の先に目を移した。
「新しく入隊された伊東さんだ」
「はぃ……」
「大丈夫か」
「はぃ」
斎藤は虚ろに返事を繰り返す夢主の体を抱き起こして立たせると、頬を撫でるように軽く叩いた。
「しっかりしろ」
「斎藤さんっ」
「やれやれ……ちょっと来い」
「あっ……」
くっと腕を取り夢主の体を引っ張ると、屯所の外に連れ出した。
途中、隊士達に見られる前に手は離れた。