62.十三夜
夢主名前設定
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はしゃぎ始めた夢主の大きな声を、離れた場所で聞く者が幾人かいた。
そのうちの二人は耳を澄まして微笑んでいた。
「よろしいんですか、沖田君」
「えぇ、いいんですよ、あれくらい。楽しそうでしょ夢主ちゃん、斎藤さんも……」
沖田が用意した徳利以外にもしっかりと酒が用意された山南の部屋で、二人は静かに酒を味わっていた。
「そうですね……私は自分が不憫だと思いますが、貴方もなかなか不憫な人ですね」
「そんなこと言わないで下さいよ、僕はこれでいいと思ってやっているんですからっ。たまにはお二人で……夢主ちゃんの幸せそうな顔が浮かびますよ……」
「沖田君……」
「ははっ、さぁ男二人で呑み明かしましょう!僕が不憫だと言うのなら元気付けてください!」
「わかりました、私も貴方もついてなかっただけなんです、ただそれだけのこと」
「……月って言うのは不思議ですね。淋しくも見えるし夢主ちゃんみたいに大好きだって言う人もいる。僕は正直わからないな、月だけ見たら」
「そうでしたか。私は美しいと思いますよ」
「そうですか……」
クスッと淋しげな笑顔を向かい合わせて、沖田と山南も一晩の月見酒を楽しんだ。
一方、夢主はこの日一番の大きな声をあげていた。
「さいろーさんがいじめるぅ~!さいろーさんがぁ、いじわるぅうーーっ!!」
「うるいぞ」
「うるさくなぁあ~~いぃー、さいろぉーさぁんが、いじわるぅするぅう~~!!」
「黙れっっ!!っち、」
夢主が盃を持ったまま際限なく騒ぎ始め、斎藤は咄嗟にやや強めの剣気を叩きつけた。
「ひやっ……」
剣気を体に受けた途端、赤い頬の夢主は固まり、ぱちくりと大きな瞬きを繰り返した。
落とした盃が空だったのは幸いだ。
「あの……」
「少しは正気に戻ったか、やれやれだぜ全く」
「……えっと」
夢主は瞳だけを動かして斎藤を見た。
腰が抜けたようにその場に座り込んで腕も上がらない。
「剣気が効くとは見つけものだな、こいつはいい。酔いはどれほど残っている。頭は回っているのか」
「はぃ……すこしふわふわしますけど……あの……たぶん正気です……」
「そうか」
安堵した斎藤は大きな息を吐いた。
完全に冷めたわけではないが話が出来るほど落ち着いているなら文句は無い。
「あまりに酔っては月見が楽しめん。控えろよ」
「はぃ……」
しゅんと下を向いて、自由の戻ってきた手で空の盃を拾い上げた。
くるくると手の上で回してみる。何度盃を動かしても中は空だ。
「ほら」
「えっ……」
淋しげに俯く夢主の前に斎藤が酒瓶を掲げた。
「これで終いだ。これでちびちびと一晩やり過ごせ」
「は……はぃっ」
終いと言うが、斎藤は盃のふちまでたっぷり酒を注いでくれた。
その酒を夢主は舐めるように呑んで、一晩の月見を楽しんだ。
「ふふっ、さいとうさんは、やっぱりおやさしいですっ」
夢主が羽織る斎藤の黒い半纏。袖から覗く白い指先がやけに映えて見える。
すっかりと染まった頬の色合いも、白い肌を浮き立たせた。
瞳が僅かに涙を湛えて潤み揺らめくのは、夢主が酔った時の特徴。
……あぁ酔うと乙女椿だったな、こいつは……
「ククッ」
「さぃとお……さん?」
「フッ、何でもない。美しいな」
「はぃ、とてもきれいなお月さま……」
「あぁ」
月白の光を受けて夜空を見上げる夢主の美しい横顔。
斎藤は愛でるように優しい瞳で見つめ、静かに酒を含んだ。
「とても綺麗だ」
斎藤は夢主が気付くまで、目を離さなかった。
そのうちの二人は耳を澄まして微笑んでいた。
「よろしいんですか、沖田君」
「えぇ、いいんですよ、あれくらい。楽しそうでしょ夢主ちゃん、斎藤さんも……」
沖田が用意した徳利以外にもしっかりと酒が用意された山南の部屋で、二人は静かに酒を味わっていた。
「そうですね……私は自分が不憫だと思いますが、貴方もなかなか不憫な人ですね」
「そんなこと言わないで下さいよ、僕はこれでいいと思ってやっているんですからっ。たまにはお二人で……夢主ちゃんの幸せそうな顔が浮かびますよ……」
「沖田君……」
「ははっ、さぁ男二人で呑み明かしましょう!僕が不憫だと言うのなら元気付けてください!」
「わかりました、私も貴方もついてなかっただけなんです、ただそれだけのこと」
「……月って言うのは不思議ですね。淋しくも見えるし夢主ちゃんみたいに大好きだって言う人もいる。僕は正直わからないな、月だけ見たら」
「そうでしたか。私は美しいと思いますよ」
「そうですか……」
クスッと淋しげな笑顔を向かい合わせて、沖田と山南も一晩の月見酒を楽しんだ。
一方、夢主はこの日一番の大きな声をあげていた。
「さいろーさんがいじめるぅ~!さいろーさんがぁ、いじわるぅうーーっ!!」
「うるいぞ」
「うるさくなぁあ~~いぃー、さいろぉーさぁんが、いじわるぅするぅう~~!!」
「黙れっっ!!っち、」
夢主が盃を持ったまま際限なく騒ぎ始め、斎藤は咄嗟にやや強めの剣気を叩きつけた。
「ひやっ……」
剣気を体に受けた途端、赤い頬の夢主は固まり、ぱちくりと大きな瞬きを繰り返した。
落とした盃が空だったのは幸いだ。
「あの……」
「少しは正気に戻ったか、やれやれだぜ全く」
「……えっと」
夢主は瞳だけを動かして斎藤を見た。
腰が抜けたようにその場に座り込んで腕も上がらない。
「剣気が効くとは見つけものだな、こいつはいい。酔いはどれほど残っている。頭は回っているのか」
「はぃ……すこしふわふわしますけど……あの……たぶん正気です……」
「そうか」
安堵した斎藤は大きな息を吐いた。
完全に冷めたわけではないが話が出来るほど落ち着いているなら文句は無い。
「あまりに酔っては月見が楽しめん。控えろよ」
「はぃ……」
しゅんと下を向いて、自由の戻ってきた手で空の盃を拾い上げた。
くるくると手の上で回してみる。何度盃を動かしても中は空だ。
「ほら」
「えっ……」
淋しげに俯く夢主の前に斎藤が酒瓶を掲げた。
「これで終いだ。これでちびちびと一晩やり過ごせ」
「は……はぃっ」
終いと言うが、斎藤は盃のふちまでたっぷり酒を注いでくれた。
その酒を夢主は舐めるように呑んで、一晩の月見を楽しんだ。
「ふふっ、さいとうさんは、やっぱりおやさしいですっ」
夢主が羽織る斎藤の黒い半纏。袖から覗く白い指先がやけに映えて見える。
すっかりと染まった頬の色合いも、白い肌を浮き立たせた。
瞳が僅かに涙を湛えて潤み揺らめくのは、夢主が酔った時の特徴。
……あぁ酔うと乙女椿だったな、こいつは……
「ククッ」
「さぃとお……さん?」
「フッ、何でもない。美しいな」
「はぃ、とてもきれいなお月さま……」
「あぁ」
月白の光を受けて夜空を見上げる夢主の美しい横顔。
斎藤は愛でるように優しい瞳で見つめ、静かに酒を含んだ。
「とても綺麗だ」
斎藤は夢主が気付くまで、目を離さなかった。