「月を、見てみろ。お前が好きな月が今宵は格別に美しいぞ」

「はい……だぃすきです、ぉつきさま……」

しまりの無い柔らかな笑顔で、目が見えなくなるまでにこやかに微笑む夢主は、月ではなく斎藤の横顔を眺めていた。
近くにいるのに遠くを眺めるような眼差しで、瞳の色を覗くように傾げられた首。時折り動く艶やかな髪が、月明かりに照らされた白い肌との陰影を鮮やかにする。

「おい」

「はぁい」

更に首を傾げる夢主に、横目で見ていた斎藤の片目がピクリと動く。

「俺は月じゃないぞ」

「ぅふふ……でも、お月さまみたいにぃ、きれぃです。それに……お月さまで、さいとぉさんのおめめが……とっても……ぉうつくしぃ……」

「っ、フンッ」

……いかん、完全に酔っているではないか。何が酒に強くなりたいだ。

斎藤はすっかり甘くなった夢主の声と離れない視線から逃れるように、顔を背けて酒を流し込んだ。

「酒は一気に強くなるもんじゃあ、ない」

「……はぃ……」

そうは言いながらも、気付けば夢主は再び新しい酒を手酌していた。

「おい、俺の話を聞いていたか」

「はいっ」

短く応え、斎藤が口を挟む間もなく一気に呑み干してしまった。

「大丈夫か、お前は急に変わるから恐ろしいな」

「そんなぁ……きゅうにだなんてぇ……へへっ……」

「褒めてないぞ。酔っていないつもりか」

「もひろん、れすよぉ……あははっ」

「酔っとる」

瞬間的に苛立ちを覚えた斎藤は、夢主が手酌を繰り返さないよう、酒瓶を自分のそばへと移動した。

「あぁ～さいろーさん、ひろりじめぇえっ！」

「うるさい、独り占めも何もお前はもう止めておけ」

「えぇええっ、さいろぉさんはいぃいっつもぉ、おさけをぉとりあげるんれすねぇえ」

不満げに口を尖らせて睨む夢主だが、斎藤は相手にせん！とばかりに目を逸らした。

「いいんれすぅ、らぁって、もうひろつぅ、ありますからぁ……」

「っ、馬鹿がっ、止めろ阿呆っ！」

斎藤が呑んでいた酒瓶に手が届いた夢主は、自分の酒が無理ならこちらをと手を伸ばした。
酔っており動きは鈍く、手が届く前に酒瓶は斎藤に取り上げられる。

「あぁんっ！！もぉぉ～～さいろぉさんてばぁあ！！」

「うるさい、静かにせんか！月見は静かにするもんだ」

威嚇のつもりでキッときつく睨みつけるが、酔う夢主には通じず、相変わらず不貞腐れて今度は頬を膨らまして睨み返してきた。

「そぉおんな、こわいかおぉ……しないでくださぁいぃ……夢主は……いっしょにたのしみたいんれすぅう」