62.十三夜
夢主名前設定
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「私、山南さんは労咳なんだと思ってたんです……」
突然夢主がポツリと漏らした言葉に、二人の男は静かに顔を見合わせた。
月明かりが三人を白く染めているせいか、とても静かな空気が流れている。
「労咳ですか……大丈夫ですよ、山南さん体は元気ですから」
安心してねと沖田は僅かに首を傾げて、穏やかな顔を見せた。
山南から沖田に労咳がうつったわけではないと知り、夢主は胸を撫で下ろした。
「心配するな、夢主。異変はないんだろう、沖田君」
更なる安心を促そうと、斎藤は沖田に教えてやれと顎をしゃくって見せた。
山南はもちろん、お前のことも夢主は心配しているんだと。
「もちろんですよ、至って元気です!しっかり寝ていますし、壬生菜も山ほど食べていますよーっ!」
得意そうに応える沖田から漲る元気を、夢主は心から喜んだ。
月明かりの下、斎藤と沖田が盃を空けては夢主が酒を注ぎ足すことを繰り返した。
安らぎの一時。
酒を注ぐたびに斎藤や沖田に体を寄せるのが心地良い。
ほのかに感じる二人の体温。それだけではなく、感じる温もり。
夢主は二人の盃が空になるのが待ち遠しかった。
斎藤達の酒が何度も注がれたのに対して、夢主の盃にはまだ最初の酒が残っている。
「僕はそろそろ山南さんの所に行きますね。あまり遅いと拗ねてしまいそうですから」
「山南さんによろしくお伝えください」
笑顔で大きく頷いた沖田は、盆を持って立ち上がった。
山南を気遣い、斎藤の部屋を後にした。
「山南さん、心配ですね……」
「そうだな、何事もなく隊務に復帰してくれれば良いのだが」
斎藤もいささか気になるのか、視線を盃に落とした。
酒に月が映りこみはしないかと軽く角度を変えては眺めている。
「っくしゅっ……」
突然のくしゃみに斎藤の目が夢主に移る。
「寒いか」
「えへへっ……ちょっと冷えちゃいましたね……昼間のうちに干しておいたんですっ」
立ち上がった夢主が手にして戻ったのは、斎藤の半纏。
黒く大きな半纏は、抱える夢主の体からはみ出ている。
「斎藤さんも体が冷えちゃいますよ、こちらを……」
差し出された半纏を、斎藤は手の平を夢主に向けて「いらん」と止めた。
自分の物を持ってくればいいものをと呆れつつ、自分より己を案じる夢主にくすぐったさを感じる。
「俺はこの程度では寒さを感じん」
「そうですか……」
斎藤の半纏を戻して自分の半纏を取りに戻ろうとする夢主。斎藤は「おい」と呼び止めた。
「面倒だろ、そのまま俺のを着ていろ」
「えっ……でも……汚しちゃうかもしれませんよ……」
言いながら半纏を抱える手に力が籠る。
斎藤の物を身につけていいと言われた夢主は上ずった。
何でもない一言だが、夢主には胸の奥が熱くなる一言だ。
他人と一線を置く男がした、自らの所有物を預ける発言。信頼を感じる。
「構うか、早くしないと風邪を引くぞ」
「は、はぃ……ありがとうございます」
早まる胸の鼓動を抑え、袖を通した。
久しぶりの綿の入った着物はとても暖かく体を包んでくれる。
「フッ、でかいな」
「はいっ、ふふっ……」
思わず笑うほど大きさは合っていない。
夢主の体が二人分入るのではないかと、手が出ない袖を見て斎藤は密かに笑った。
「でもとても暖かいです、斎藤さんの……」
一年ぶりに引っ張り出した半纏。ふっと目を細めて残るはずの無い斎藤の香りを探した。
「斎藤さんの半纏、とっても暖かいです」
柔らかい生地に顔を埋め、香りを探しながら暖かさを実感している。
その姿に斎藤の目元が緩んだ。
突然夢主がポツリと漏らした言葉に、二人の男は静かに顔を見合わせた。
月明かりが三人を白く染めているせいか、とても静かな空気が流れている。
「労咳ですか……大丈夫ですよ、山南さん体は元気ですから」
安心してねと沖田は僅かに首を傾げて、穏やかな顔を見せた。
山南から沖田に労咳がうつったわけではないと知り、夢主は胸を撫で下ろした。
「心配するな、夢主。異変はないんだろう、沖田君」
更なる安心を促そうと、斎藤は沖田に教えてやれと顎をしゃくって見せた。
山南はもちろん、お前のことも夢主は心配しているんだと。
「もちろんですよ、至って元気です!しっかり寝ていますし、壬生菜も山ほど食べていますよーっ!」
得意そうに応える沖田から漲る元気を、夢主は心から喜んだ。
月明かりの下、斎藤と沖田が盃を空けては夢主が酒を注ぎ足すことを繰り返した。
安らぎの一時。
酒を注ぐたびに斎藤や沖田に体を寄せるのが心地良い。
ほのかに感じる二人の体温。それだけではなく、感じる温もり。
夢主は二人の盃が空になるのが待ち遠しかった。
斎藤達の酒が何度も注がれたのに対して、夢主の盃にはまだ最初の酒が残っている。
「僕はそろそろ山南さんの所に行きますね。あまり遅いと拗ねてしまいそうですから」
「山南さんによろしくお伝えください」
笑顔で大きく頷いた沖田は、盆を持って立ち上がった。
山南を気遣い、斎藤の部屋を後にした。
「山南さん、心配ですね……」
「そうだな、何事もなく隊務に復帰してくれれば良いのだが」
斎藤もいささか気になるのか、視線を盃に落とした。
酒に月が映りこみはしないかと軽く角度を変えては眺めている。
「っくしゅっ……」
突然のくしゃみに斎藤の目が夢主に移る。
「寒いか」
「えへへっ……ちょっと冷えちゃいましたね……昼間のうちに干しておいたんですっ」
立ち上がった夢主が手にして戻ったのは、斎藤の半纏。
黒く大きな半纏は、抱える夢主の体からはみ出ている。
「斎藤さんも体が冷えちゃいますよ、こちらを……」
差し出された半纏を、斎藤は手の平を夢主に向けて「いらん」と止めた。
自分の物を持ってくればいいものをと呆れつつ、自分より己を案じる夢主にくすぐったさを感じる。
「俺はこの程度では寒さを感じん」
「そうですか……」
斎藤の半纏を戻して自分の半纏を取りに戻ろうとする夢主。斎藤は「おい」と呼び止めた。
「面倒だろ、そのまま俺のを着ていろ」
「えっ……でも……汚しちゃうかもしれませんよ……」
言いながら半纏を抱える手に力が籠る。
斎藤の物を身につけていいと言われた夢主は上ずった。
何でもない一言だが、夢主には胸の奥が熱くなる一言だ。
他人と一線を置く男がした、自らの所有物を預ける発言。信頼を感じる。
「構うか、早くしないと風邪を引くぞ」
「は、はぃ……ありがとうございます」
早まる胸の鼓動を抑え、袖を通した。
久しぶりの綿の入った着物はとても暖かく体を包んでくれる。
「フッ、でかいな」
「はいっ、ふふっ……」
思わず笑うほど大きさは合っていない。
夢主の体が二人分入るのではないかと、手が出ない袖を見て斎藤は密かに笑った。
「でもとても暖かいです、斎藤さんの……」
一年ぶりに引っ張り出した半纏。ふっと目を細めて残るはずの無い斎藤の香りを探した。
「斎藤さんの半纏、とっても暖かいです」
柔らかい生地に顔を埋め、香りを探しながら暖かさを実感している。
その姿に斎藤の目元が緩んだ。