62.十三夜
夢主名前設定
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九月十三日、十三夜の名月。
満月ではないけれど、それ故の風情がある。
この名月を夢主に教えた斎藤は、沖田と共に酒の支度を済ませ、夜に備えていた。
手回しの上手い斎藤は抜かりなく事前策を打ち、時間を確保。ついでに沖田の時間も確保したことに気付いたのは土方くらいだ。加えて月見明けの翌日の非番獲得。何から何まで思い通り。
昼間の巡察を終え、隊士達へ稽古もしっかりつけた。
夕餉も取り、すべきことは全て終えた。
普段から愛飲する酒と共に夢主の為に弱い酒も買い込んだ。
あとは自室へ戻った沖田がやってくるのを待つだけだ。
「月の高さにより色も変わって見えるだろう。白い月が青白く、一晩かけて変わりゆく姿を味わえる」
「はい。斎藤さん、本当に風流お好きなんですねっ、ふふ……」
既に斎藤と夢主の二人は座り込んで外を眺めていた。
日はもう暮れている。晴れた夜空にはしっかり月が見えていた。
「沖田さん遅いですね……」
「あぁ」
部屋には酒瓶と徳利と、斎藤にしては珍しく猪口ではなく盃を用意していた。
一晩中呑むつもりで、小さな猪口で何度も酌をするよりはと揃えたのだ。
「遅くなってすみません!」
「沖田さんっ」
「遅いぞ」
慌しくやってきた沖田は手に盆を持っていた。
上には徳利と猪口がふたつ乗っている。
「どうしたんですか、沖田さん。準備ならもう……」
「あぁ、こちらは後で、ちょっと……」
すいっと沖田は自分の後ろに盆を置いて座った。
「後で呑むんですか」
不思議そうに夢主が訊ねると、沖田は斎藤に確認を取るように目を動かした。
斎藤はなんの合図だと眉を動かす。
「えぇ、実は……名月でしょう?お話をしたら是非にと申しまして」
「どなたが……」
沖田が丁寧に語る相手とは誰だろうと夢主は首を捻った。
近藤は屯所を開けており、土方は毎夜部屋に明かりを灯して忙しそうにしている。
「山南さんです」
「山南さんっ……お元気になられたんですか」
沖田の答えに夢主は驚いた。
酒が呑めるほど回復しているとは朗報だ。
「えぇ、山南さんは元気です。その……どちらかと言うと……」
言葉に詰まる沖田を、夢主は心配そうに覗きこんだ。
斎藤は言葉の続きを察していた。
「気の病なんです。夢主ちゃんに隠しても仕方が無いからお話しますが、みんなには内密に願いますね」
「はい……勿論です……」
山南の様子が気になると同時に感じる、沖田が山南を慕う優しさ。
夢主には憂いが芽生えた。大切な人の身に起こる悲劇を、沖田はまだ知らない。
満月ではないけれど、それ故の風情がある。
この名月を夢主に教えた斎藤は、沖田と共に酒の支度を済ませ、夜に備えていた。
手回しの上手い斎藤は抜かりなく事前策を打ち、時間を確保。ついでに沖田の時間も確保したことに気付いたのは土方くらいだ。加えて月見明けの翌日の非番獲得。何から何まで思い通り。
昼間の巡察を終え、隊士達へ稽古もしっかりつけた。
夕餉も取り、すべきことは全て終えた。
普段から愛飲する酒と共に夢主の為に弱い酒も買い込んだ。
あとは自室へ戻った沖田がやってくるのを待つだけだ。
「月の高さにより色も変わって見えるだろう。白い月が青白く、一晩かけて変わりゆく姿を味わえる」
「はい。斎藤さん、本当に風流お好きなんですねっ、ふふ……」
既に斎藤と夢主の二人は座り込んで外を眺めていた。
日はもう暮れている。晴れた夜空にはしっかり月が見えていた。
「沖田さん遅いですね……」
「あぁ」
部屋には酒瓶と徳利と、斎藤にしては珍しく猪口ではなく盃を用意していた。
一晩中呑むつもりで、小さな猪口で何度も酌をするよりはと揃えたのだ。
「遅くなってすみません!」
「沖田さんっ」
「遅いぞ」
慌しくやってきた沖田は手に盆を持っていた。
上には徳利と猪口がふたつ乗っている。
「どうしたんですか、沖田さん。準備ならもう……」
「あぁ、こちらは後で、ちょっと……」
すいっと沖田は自分の後ろに盆を置いて座った。
「後で呑むんですか」
不思議そうに夢主が訊ねると、沖田は斎藤に確認を取るように目を動かした。
斎藤はなんの合図だと眉を動かす。
「えぇ、実は……名月でしょう?お話をしたら是非にと申しまして」
「どなたが……」
沖田が丁寧に語る相手とは誰だろうと夢主は首を捻った。
近藤は屯所を開けており、土方は毎夜部屋に明かりを灯して忙しそうにしている。
「山南さんです」
「山南さんっ……お元気になられたんですか」
沖田の答えに夢主は驚いた。
酒が呑めるほど回復しているとは朗報だ。
「えぇ、山南さんは元気です。その……どちらかと言うと……」
言葉に詰まる沖田を、夢主は心配そうに覗きこんだ。
斎藤は言葉の続きを察していた。
「気の病なんです。夢主ちゃんに隠しても仕方が無いからお話しますが、みんなには内密に願いますね」
「はい……勿論です……」
山南の様子が気になると同時に感じる、沖田が山南を慕う優しさ。
夢主には憂いが芽生えた。大切な人の身に起こる悲劇を、沖田はまだ知らない。