61.字比べ
夢主名前設定
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「でも斎藤さん、ただでさえ忙しいのに……」
「フン、俺はな、仕事が速いんだよ。気にするな。字を書くのも速い」
そう言っているうちにも斎藤は頁を捲って次の紙面を写していった。
「ほらよ」
「わぁ……」
夢主が思い出しながら書いた文章を、斎藤はあっという間に写し終えた。
再び机を夢主に明け渡し、楽な姿勢で胡坐を掻く。これぐらい朝飯前だと余裕を見せた。
「まぁ一度に全部とはいかんがな。お前が覚えた分だけその都度俺も書いてやる。正直、お前には俺の字くらいは読めるようになってもらわんとな。でなければ、何かあった時にお前に何かを書き残すことも出来ん」
斎藤の写しと自分の写しを見比べて夢主は顔を上げた。
それを待っていたように斎藤は言葉を続けた。
「大事なことを、伝え逃すかもしれない。それでは困る」
「はぃ……私も斎藤さんの居場所を知る為に覚えなくてはと……そう思いました」
首を傾げて微笑むと、斎藤は片方の口角だけをくっと上げて顔を逸らした。
「あぁ」
斎藤の態度にふふっと笑い、夢主は再び写しに目をやり小さな声で読み上げて、夕餉までの時を過ごした。
夜の巡察前の斎藤に声を掛けられるほど、夢主は熱心に取り組んでいた。
「根を詰めすぎるな。一度に覚える必要はない」
「はぃ、すみません、覚えられると思ったら嬉しくてつい……斎藤さんが出られたら寝ますね。今日は色々とありがとうございました」
夢主は居住まいを正して、気持ちを込め丁寧に深く頭を下げた。
普段、額が畳に付くほど頭を下げる習慣がない夢主が、ここまで頭を下げるのは珍しい。
それを知る斎藤は、既に出立の準備も整っていたが、下げられた頭の前に片膝を付いた。
「気にするな。そうだ、明日は例の名月だぞ。覚えておけよ」
夢主に顔を上げさせ、気を逸らすつもりなのか先日の月見の話を持ち出した。
「はぃ、覚えてますよっ。楽しみにしています」
「そうか、なら良い。……行って来る」
そう言い、ついっと踵を返すようにくるりと体を回して立ち上がった。
自らの平身が斎藤を不自然に振る舞わせた理由だとは夢にも思わず、夢主は込み上げる笑いを堪えて斎藤を送り出した。
「お気をつけてっ」
斎藤は後姿のまま頷いて出て行った。
準備万端の隊士達と合流する斎藤。
いつもより組長の機嫌が良いと、隊士達も気が付いた。
「おやおやっ、斎藤さんが珍しく浮き足立っていますね。大丈夫ですかっ?斬られちゃいますよっ、あはははっ」
横から笑いながら近付く沖田を斎藤はきつく睨み、フンと鼻をならした。
「気のせいだろう。あぁそうだ、夢主は頑張って本を写していたぞ。君も暇だろうから一冊写しを書いてやれ。あいつが字を覚えるのに役立つ」
「はぁ……僕が写しですかっ。いいですよ、喜んで!」
難しいことや、そちら方面の面倒な仕事は普段遠ざける沖田だが、夢主の為ならひとつ頑張ろうと決心した。
「明日の酒も、忘れるなよ」
「えぇっ、僕が用意するんですかっ」
「嫌か」
「い、嫌じゃありませんけど……斎藤さんも何か用意してくださいよー。僕が斎藤さんの下男みたいじゃないですか」
「フッ、小さいな」
「なんですって!」
久しぶりの巡察前の小競り合い。隊士達は苦笑いで二人の幹部を眺めた。
「行くぞ、いつまでもこんな所で時間を潰すわけにはいかん」
「貴方が言わないで下さい!」
二人は視線をぶつけて火花を飛ばし、満足したのか間もなく歩き出した。
後に続く隊士達は、二人の組長の様子からして今夜は荒れると予感し、気を引き締めた。
男達の予感通り、その夜は激しい捕縛劇が繰り広げられた。
「フン、俺はな、仕事が速いんだよ。気にするな。字を書くのも速い」
そう言っているうちにも斎藤は頁を捲って次の紙面を写していった。
「ほらよ」
「わぁ……」
夢主が思い出しながら書いた文章を、斎藤はあっという間に写し終えた。
再び机を夢主に明け渡し、楽な姿勢で胡坐を掻く。これぐらい朝飯前だと余裕を見せた。
「まぁ一度に全部とはいかんがな。お前が覚えた分だけその都度俺も書いてやる。正直、お前には俺の字くらいは読めるようになってもらわんとな。でなければ、何かあった時にお前に何かを書き残すことも出来ん」
斎藤の写しと自分の写しを見比べて夢主は顔を上げた。
それを待っていたように斎藤は言葉を続けた。
「大事なことを、伝え逃すかもしれない。それでは困る」
「はぃ……私も斎藤さんの居場所を知る為に覚えなくてはと……そう思いました」
首を傾げて微笑むと、斎藤は片方の口角だけをくっと上げて顔を逸らした。
「あぁ」
斎藤の態度にふふっと笑い、夢主は再び写しに目をやり小さな声で読み上げて、夕餉までの時を過ごした。
夜の巡察前の斎藤に声を掛けられるほど、夢主は熱心に取り組んでいた。
「根を詰めすぎるな。一度に覚える必要はない」
「はぃ、すみません、覚えられると思ったら嬉しくてつい……斎藤さんが出られたら寝ますね。今日は色々とありがとうございました」
夢主は居住まいを正して、気持ちを込め丁寧に深く頭を下げた。
普段、額が畳に付くほど頭を下げる習慣がない夢主が、ここまで頭を下げるのは珍しい。
それを知る斎藤は、既に出立の準備も整っていたが、下げられた頭の前に片膝を付いた。
「気にするな。そうだ、明日は例の名月だぞ。覚えておけよ」
夢主に顔を上げさせ、気を逸らすつもりなのか先日の月見の話を持ち出した。
「はぃ、覚えてますよっ。楽しみにしています」
「そうか、なら良い。……行って来る」
そう言い、ついっと踵を返すようにくるりと体を回して立ち上がった。
自らの平身が斎藤を不自然に振る舞わせた理由だとは夢にも思わず、夢主は込み上げる笑いを堪えて斎藤を送り出した。
「お気をつけてっ」
斎藤は後姿のまま頷いて出て行った。
準備万端の隊士達と合流する斎藤。
いつもより組長の機嫌が良いと、隊士達も気が付いた。
「おやおやっ、斎藤さんが珍しく浮き足立っていますね。大丈夫ですかっ?斬られちゃいますよっ、あはははっ」
横から笑いながら近付く沖田を斎藤はきつく睨み、フンと鼻をならした。
「気のせいだろう。あぁそうだ、夢主は頑張って本を写していたぞ。君も暇だろうから一冊写しを書いてやれ。あいつが字を覚えるのに役立つ」
「はぁ……僕が写しですかっ。いいですよ、喜んで!」
難しいことや、そちら方面の面倒な仕事は普段遠ざける沖田だが、夢主の為ならひとつ頑張ろうと決心した。
「明日の酒も、忘れるなよ」
「えぇっ、僕が用意するんですかっ」
「嫌か」
「い、嫌じゃありませんけど……斎藤さんも何か用意してくださいよー。僕が斎藤さんの下男みたいじゃないですか」
「フッ、小さいな」
「なんですって!」
久しぶりの巡察前の小競り合い。隊士達は苦笑いで二人の幹部を眺めた。
「行くぞ、いつまでもこんな所で時間を潰すわけにはいかん」
「貴方が言わないで下さい!」
二人は視線をぶつけて火花を飛ばし、満足したのか間もなく歩き出した。
後に続く隊士達は、二人の組長の様子からして今夜は荒れると予感し、気を引き締めた。
男達の予感通り、その夜は激しい捕縛劇が繰り広げられた。