60.恋文
夢主名前設定
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夕暮れ前に斎藤は変わった様子もなく戻ってきた。
「お帰りなさい」
「あぁ」
文を見せて訊ねたい夢主だが、躊躇してしまい機会を掴めず夕餉の時間になってしまった。
文を渡して満足げな沖田と、考え事をして箸が止まりがちな夢主、その様子をどうしたのかと気に掛ける斎藤。
はたから見ても不思議な三人の表情の並びだ。
部屋に戻ると斎藤は素早く巡察の仕度を進めた。
二人に文を貰ってから何時経ったか。
明日になれば更に聞き辛くなる。かと言って自分の力で読めるようになるのはいつの日か。
夢主は勇気を出した。手には既に文を二通抱えている。
「あの、斎藤さん……」
「なんだ」
先程から考え込んでいた夢主がようやく声を掛けてきたと、斎藤はほっとした顔だ。
「あの、この文なんですけど。斎藤さんの……」
沖田の文と並べて斎藤に向けた。斎藤の文はいわば漢文の様式だ。
整然と並ぶ美しい字。
だが文字は複雑に崩され、文字と文字がどこまでも繋がっている。夢主には判読できない。
しかし見比べると気付くものがあった。
「フッ、気が付いたか。そうだ、似たような内容さ。沖田君にはやられたな」
フンと笑いながら口元を歪めて腕を組んだ。そして文から一瞬視線を外して短く息を吐いた。
「お前を守ってやると言っただろう、それを書いただけさ。ただそれだけだ」
それ以上ではないと言いたげだ。照れ隠しだろうか。
「その後の二行が……貴女と言うのは分かりました。沖田さんのと似ているし、一行目にも入ってるなら……」
二行目と三行目にも貴女という言葉が入っているようだ。
「それから……日と……月……くらいしか……」
夢主は悲しそうに文に目を落としている。
伏目になった瞼、長く黒々と美しい睫が悲しい瞳を隠しているが、目の前で見つめる斎藤には瞳の表情が読み取れた。
……己の渡した文が読めずに哀しんでいるとはなんとも……
夢主の表情を密かに監察していた斎藤は静かに笑みを浮かべて口を開いた。
「日もすがら……貴女に陽が差さん事を、夜もすがら……貴女に月が輝かん事を」
「えっ」
斎藤が突然に文を読み上げ、夢主は声を漏らして顔を上げた。
瞳を隠していた睫も上を向き、驚きを表している。
「陽と月……」
「あぁ。昼間はお前に明るい陽が差すように、光がお前を照らすように……夜は美しい月がお前の頭上に輝くように……そういう意味だ」
「あ……ありがとうございます……」
優しく美しく、そして温かい斎藤の表現に夢主は感激して言葉を失った。
「そんなに呆けるな、阿呆みたいな顔だぞ」
クッと笑うと斎藤は巡察の仕度をし終えた。総髪を結び直したのだ。
「フン、正気を取り戻したら寝ていろよ、行って来る」
「は、はぃっ……行ってらっしゃい……」
夢主は咄嗟に文を胸に抱いて斎藤を送り出した。
「光で照らされるように……月が……輝くように……斎藤さんてば……」
沖田以上にロマンチストなのではないかと、夢主は斎藤をくすりと笑った。
もう一度文を開いて眺めていると、ふと最後の幾文字かが斎藤の言葉と比べても意味を成さずに余っている気がした。
「あれ……やっぱり字数が合わない……ここは何て書いてあるんだろう」
筆の強弱を使い、その幾つかの文字は特に念入りに誇張されて書かれているようだ。
「また聞いてみよぅ、ふふっ」
嬉しそうに文を片付けながら斎藤の言葉を思い返した。
だが斎藤は真意を込めたその数文字については教えてくれない。
夢主はそれを知らず、斎藤が帰る夜明けを待ち侘び、穏やかな顔で床に入った。
「お帰りなさい」
「あぁ」
文を見せて訊ねたい夢主だが、躊躇してしまい機会を掴めず夕餉の時間になってしまった。
文を渡して満足げな沖田と、考え事をして箸が止まりがちな夢主、その様子をどうしたのかと気に掛ける斎藤。
はたから見ても不思議な三人の表情の並びだ。
部屋に戻ると斎藤は素早く巡察の仕度を進めた。
二人に文を貰ってから何時経ったか。
明日になれば更に聞き辛くなる。かと言って自分の力で読めるようになるのはいつの日か。
夢主は勇気を出した。手には既に文を二通抱えている。
「あの、斎藤さん……」
「なんだ」
先程から考え込んでいた夢主がようやく声を掛けてきたと、斎藤はほっとした顔だ。
「あの、この文なんですけど。斎藤さんの……」
沖田の文と並べて斎藤に向けた。斎藤の文はいわば漢文の様式だ。
整然と並ぶ美しい字。
だが文字は複雑に崩され、文字と文字がどこまでも繋がっている。夢主には判読できない。
しかし見比べると気付くものがあった。
「フッ、気が付いたか。そうだ、似たような内容さ。沖田君にはやられたな」
フンと笑いながら口元を歪めて腕を組んだ。そして文から一瞬視線を外して短く息を吐いた。
「お前を守ってやると言っただろう、それを書いただけさ。ただそれだけだ」
それ以上ではないと言いたげだ。照れ隠しだろうか。
「その後の二行が……貴女と言うのは分かりました。沖田さんのと似ているし、一行目にも入ってるなら……」
二行目と三行目にも貴女という言葉が入っているようだ。
「それから……日と……月……くらいしか……」
夢主は悲しそうに文に目を落としている。
伏目になった瞼、長く黒々と美しい睫が悲しい瞳を隠しているが、目の前で見つめる斎藤には瞳の表情が読み取れた。
……己の渡した文が読めずに哀しんでいるとはなんとも……
夢主の表情を密かに監察していた斎藤は静かに笑みを浮かべて口を開いた。
「日もすがら……貴女に陽が差さん事を、夜もすがら……貴女に月が輝かん事を」
「えっ」
斎藤が突然に文を読み上げ、夢主は声を漏らして顔を上げた。
瞳を隠していた睫も上を向き、驚きを表している。
「陽と月……」
「あぁ。昼間はお前に明るい陽が差すように、光がお前を照らすように……夜は美しい月がお前の頭上に輝くように……そういう意味だ」
「あ……ありがとうございます……」
優しく美しく、そして温かい斎藤の表現に夢主は感激して言葉を失った。
「そんなに呆けるな、阿呆みたいな顔だぞ」
クッと笑うと斎藤は巡察の仕度をし終えた。総髪を結び直したのだ。
「フン、正気を取り戻したら寝ていろよ、行って来る」
「は、はぃっ……行ってらっしゃい……」
夢主は咄嗟に文を胸に抱いて斎藤を送り出した。
「光で照らされるように……月が……輝くように……斎藤さんてば……」
沖田以上にロマンチストなのではないかと、夢主は斎藤をくすりと笑った。
もう一度文を開いて眺めていると、ふと最後の幾文字かが斎藤の言葉と比べても意味を成さずに余っている気がした。
「あれ……やっぱり字数が合わない……ここは何て書いてあるんだろう」
筆の強弱を使い、その幾つかの文字は特に念入りに誇張されて書かれているようだ。
「また聞いてみよぅ、ふふっ」
嬉しそうに文を片付けながら斎藤の言葉を思い返した。
だが斎藤は真意を込めたその数文字については教えてくれない。
夢主はそれを知らず、斎藤が帰る夜明けを待ち侘び、穏やかな顔で床に入った。