夢主は強引な沖田にぶつぶつ文句を言いながら斎藤の部屋へ戻って来た。

「早いな。沖田君はもう書いたのか」

「いぇっ……って、貰いに行ったわけじゃありませんから……」

むくれて斎藤の顔を見ない夢主だが、傍に座ると何かを差し出され、そのまま受け取った。

「フン、文だ。書いてやったぞ」

「えっ……」

突然の事に驚きに、固まって斎藤を見つめ返した。
やがて我に返り、本人の目の前でゆっくり文を開いた。
急いで書いたのか。沖田の部屋に行って戻るまで、そう時間は掛かっていない。
何が書かれているのか期待と不安を感じながら畳まれた紙を転がした。

「あっ…………」

斎藤の文字を眺め、すぐに顔を上げた。

「読めません……斎藤さん、わざとですか……」

むっと眉をひそめて斎藤を軽く睨んだ。恥ずかしさで頬は緩んでいる。
線で埋め尽くされた漢字ばかりの漢詩ような文章は全く読み取れない。
斎藤は予想通りだと言わんばかりの顔をしていた。

「読めんか、仕方ないな。誰かに聞くんじゃないぞ。読めるようになるまで取っておけ。文は人に見せるもんじゃあ、無いだろう」

斎藤は勝ち誇った顔で机の前から、先ほどまで座っていた場へ移動して胡坐を掻いた。

「まぁせいぜい大事にしろよ」

「はっはい……それはもちろんですっ」

そう言い、もう一度読んでみようと文に目をやるがやはり読めなかった。
いつも以上に達筆に書いたのだろう。最後に一とあることだけは分かった。

「一……」

はじめ……思わず口にして斎藤の名前を読んでしまった。
はっと気付き赤くなって顔を上げると、気にしない様子で斎藤は夢主を見ていた。
今は読めなくて良いと笑っているようだ。

「ふふっ、斎藤さんのお名前があるだけで嬉しいです……大切にしますっ」

機嫌を直して文を畳み直すと、大事そうに胸に抱いた。

「沖田さんに見つかる前にしまっておきますね、ふふっ」

嬉しそうに沖田には内緒と、夢主は斎藤の文を片付けた。
その様子を斎藤は目で追っていた。
たいしたことを書いたつもりは無いが、夢主が読めるようになればきっと喜ぶと思って書いた。

「沖田さん遅いですね……何書いてるんだろう……」

「さぁな。まぁだいたい想像できるがな」

「ぁは……」

気まずく顔を外に向けた。
そろそろ戻ってくる頃か。渡されたら受け取らざるを得ない。受け取ったら読まねばならない。
恥ずかしい言葉が並ぶ文を斎藤の前で読む、考えると少し気が重くなる。