60.恋文
夢主名前設定
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「えぇと……土、土方さんのお名前ですか?これは……沖田さん、それから……」
夢主は流れるような土方の優しい字を一生懸命に辿っていった。
「隊士名簿……ですか」
「うーん、まぁそんなもんだな。行軍録って名付けるつもりなんだ。その予備案って言うか、色々と試行錯誤してるのさ。またいつ伏見の時みたいな出陣要請が来るか分からねぇからな。まぁ江戸から新しい隊士が増えれば、これもまた変えなきゃならねぇし、いくら考えても終わらねぇな」
「ふふっ、大変ですね」
机の上には書き損じた紙や気に入らなかった案の書かれた紙が、いくつも丸めて置かれていた。
「まぁな。面白いけどよ。所でお前はよ……戦になったら出て行くのか」
土方は突然夢主を凝視した。
夢主の顔色は曇り、声も自ずと暗くなる。
「……はぃ……そのつもりです……」
「そうか。じゃあ、お前の名前は消しておくか……」
夢主の反応を気にする素振りもなく、土方は筆に墨をつけると、行軍録の紙に印をつけようと手を動かした。
「えぇっ?!」
「はははっ、冗談だよっ!お前の名前があるわけねぇだろっ!ははははっ!」
「もっ、もぉ!ほっ、本気にしちゃったじゃありませんか……」
顔を真っ赤にして騙されたと土方を睨む。
上手く揶揄えた土方は副長らしからぬ笑顔を見せた。
「くっくっ、悪ぃなぁ、お前は揶揄うと面白いからな。まぁ、冗談はさておき……行くあてはるのか」
「行くあて……」
夢主が思い浮かぶ場所と言えば、葵屋とせいぜい比古師匠の山小屋くらい。
ただ人嫌いで世離れしている比古清十郎が、面識も無く、しかも壬生狼預かりの娘に関わるとは思えない。
「行くあてがねぇなら、それくらいは用意してやるよ。安心しな」
ふっと柔らかい表情で土方が笑った。
「あ……ありがとうございます。でもきっと……大丈夫です」
優しい表情に照れてしまったが、夢主は気を取り直して引き締まった顔を作った。
きっと何とかなるはずだ。ここで力を借りてはいけない。
土方が力を注ぐべき仕事は山ほどある。自分の身の振りくらいは何とかすると、夢主は毅然として見せた。
「そうか。まぁ頭の片隅に今の話を置いておいてくれりゃあそれでいいさ」
「はいっ」
自分をここまで気遣ってくれる土方に起こる感情は感謝しかない。
夢主は素直に嬉しかった。
「そちらの床にあるものは……」
机の上とは別に、床の上にも紙の束がある。
こちらは机上の物とは違い、綺麗に一つに纏められていた。
夢主は流れるような土方の優しい字を一生懸命に辿っていった。
「隊士名簿……ですか」
「うーん、まぁそんなもんだな。行軍録って名付けるつもりなんだ。その予備案って言うか、色々と試行錯誤してるのさ。またいつ伏見の時みたいな出陣要請が来るか分からねぇからな。まぁ江戸から新しい隊士が増えれば、これもまた変えなきゃならねぇし、いくら考えても終わらねぇな」
「ふふっ、大変ですね」
机の上には書き損じた紙や気に入らなかった案の書かれた紙が、いくつも丸めて置かれていた。
「まぁな。面白いけどよ。所でお前はよ……戦になったら出て行くのか」
土方は突然夢主を凝視した。
夢主の顔色は曇り、声も自ずと暗くなる。
「……はぃ……そのつもりです……」
「そうか。じゃあ、お前の名前は消しておくか……」
夢主の反応を気にする素振りもなく、土方は筆に墨をつけると、行軍録の紙に印をつけようと手を動かした。
「えぇっ?!」
「はははっ、冗談だよっ!お前の名前があるわけねぇだろっ!ははははっ!」
「もっ、もぉ!ほっ、本気にしちゃったじゃありませんか……」
顔を真っ赤にして騙されたと土方を睨む。
上手く揶揄えた土方は副長らしからぬ笑顔を見せた。
「くっくっ、悪ぃなぁ、お前は揶揄うと面白いからな。まぁ、冗談はさておき……行くあてはるのか」
「行くあて……」
夢主が思い浮かぶ場所と言えば、葵屋とせいぜい比古師匠の山小屋くらい。
ただ人嫌いで世離れしている比古清十郎が、面識も無く、しかも壬生狼預かりの娘に関わるとは思えない。
「行くあてがねぇなら、それくらいは用意してやるよ。安心しな」
ふっと柔らかい表情で土方が笑った。
「あ……ありがとうございます。でもきっと……大丈夫です」
優しい表情に照れてしまったが、夢主は気を取り直して引き締まった顔を作った。
きっと何とかなるはずだ。ここで力を借りてはいけない。
土方が力を注ぐべき仕事は山ほどある。自分の身の振りくらいは何とかすると、夢主は毅然として見せた。
「そうか。まぁ頭の片隅に今の話を置いておいてくれりゃあそれでいいさ」
「はいっ」
自分をここまで気遣ってくれる土方に起こる感情は感謝しかない。
夢主は素直に嬉しかった。
「そちらの床にあるものは……」
机の上とは別に、床の上にも紙の束がある。
こちらは机上の物とは違い、綺麗に一つに纏められていた。