58.休息の時
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
遠目から遠慮がちに覗く夢主は、幹部の皆に会釈を繰り返し、知った顔が過ぎ去るとすぐに部屋へ戻った。
池田屋と違い、何日にも渡る長い戦いから戻った皆を、気軽に出迎えて良いものか。
出迎え自体が場違いな行為で失礼かもしれないと、門での出迎えを迷い、控えたのだ。
疲れも溜まっているはず。余計な会話は返って迷惑に。
夢主は皆の帰還を労われない自分に無力さを感じた。
斎藤が部屋に戻ると顔を綻ばせる夢主だが、斎藤は己を捉える前の一瞬の曇りを見逃さなかった。
「おかえりなさい、斎藤さん!」
己につられて立ち上がる夢主に、斎藤は苦い笑いを漏らした。
「ククッ」
「どうされたんですか……」
「いや、お前が淋しそうな顔をしていたのでな。悪いが安心したぜ。前みたいに何食わぬ平然な顔で待っているのかと思ったよ」
「そんな……ずっと心配してました」
「お前の予想通りでは、ないのか」
お前が知る歴史通りではないのか、斎藤は悪戯に小首を傾けた。
夢主は苦笑いで斎藤を見返した。
「そうですけど……それでも心配です……」
斎藤はふと自分の小机を見て、藤の花があることを認識した。
「蒼いの君が来たようだな」
「蒼いの君だなんて、そんな言い方しないでくださいよ……確かにそうだと思いますけど……姿は見ていません……」
まるでどこかの人気役者を呼ぶように斎藤が揶揄い、夢主は少し不貞腐れた。
何もやましいことは無く、顔すら見ていないのだ。
色を売ることもあるこの時代の役者と、御庭番衆の若者を重ねないでくださいと目で訴えた。
だが強い視線を向けるうち、斎藤の顔が痩せていることに気が付いた。窪んた頬が更に痩せて見える。
「随分と……お疲れではありませんか」
夢主は背の高い斎藤の顔を懸命に覗こうと、首を伸ばして顔色を窺った。
目の前の男を心配して無防備な姿を晒す女。
斎藤はフッと息を漏らすように笑い、顔を逸らして腰を下ろした。
「疲れたことなど、今迄に一度たりとも無い」
「ぇっ……」
明らかな斎藤の痩せ我慢。
夢主も少し悪戯な顔を見せた。
「ふふっ、斎藤さんてば……」
「なんだ」
夢主は斎藤のすぐ横に正座をした。
自らの膝に手を乗せて姿勢を正したまま、斎藤の顔を覗き込む。
「マッサージ、させてください」
「まっ……」
聞いたことがない言葉に斎藤が顔をしかめる。
夢主は慌てて通じる言葉を探した。
「えぇと、按摩……でしょうか。体を揉み解すんです……疲れが取れますよ」
「いらん、疲れていないと言っているだろう」
「でも……」
ピクリと眉を動かした斎藤、そんなことも出来るのかと驚いていた。
夢主は遠慮しがちに手を伸ばした。
「お嫌でなければ……刀とか鎖の着込みとか色々……重そうですし、腕に……触れてもいいですか」
夢主は斎藤の腕の前で手を止めて返事を待った。
宙に浮かぶ夢主の手を暫く見つめた斎藤、ふぅっと一つ息を吐き、根負けして頷いた。
「やってみろ」
「は、はいっ」
嬉しそうに晴れた顔を見せる夢主に斎藤も口元を緩ませた。
気が緩む斎藤だが、夢主が己の腕に触れた瞬間、思わずはっとした。
戦いで疲れた肌に、柔らかく瑞々しい指先が心地良い。
固い腕に触れる柔らかい手。
女とはこんな感触だったか。そんなことを考えてしまった。
池田屋と違い、何日にも渡る長い戦いから戻った皆を、気軽に出迎えて良いものか。
出迎え自体が場違いな行為で失礼かもしれないと、門での出迎えを迷い、控えたのだ。
疲れも溜まっているはず。余計な会話は返って迷惑に。
夢主は皆の帰還を労われない自分に無力さを感じた。
斎藤が部屋に戻ると顔を綻ばせる夢主だが、斎藤は己を捉える前の一瞬の曇りを見逃さなかった。
「おかえりなさい、斎藤さん!」
己につられて立ち上がる夢主に、斎藤は苦い笑いを漏らした。
「ククッ」
「どうされたんですか……」
「いや、お前が淋しそうな顔をしていたのでな。悪いが安心したぜ。前みたいに何食わぬ平然な顔で待っているのかと思ったよ」
「そんな……ずっと心配してました」
「お前の予想通りでは、ないのか」
お前が知る歴史通りではないのか、斎藤は悪戯に小首を傾けた。
夢主は苦笑いで斎藤を見返した。
「そうですけど……それでも心配です……」
斎藤はふと自分の小机を見て、藤の花があることを認識した。
「蒼いの君が来たようだな」
「蒼いの君だなんて、そんな言い方しないでくださいよ……確かにそうだと思いますけど……姿は見ていません……」
まるでどこかの人気役者を呼ぶように斎藤が揶揄い、夢主は少し不貞腐れた。
何もやましいことは無く、顔すら見ていないのだ。
色を売ることもあるこの時代の役者と、御庭番衆の若者を重ねないでくださいと目で訴えた。
だが強い視線を向けるうち、斎藤の顔が痩せていることに気が付いた。窪んた頬が更に痩せて見える。
「随分と……お疲れではありませんか」
夢主は背の高い斎藤の顔を懸命に覗こうと、首を伸ばして顔色を窺った。
目の前の男を心配して無防備な姿を晒す女。
斎藤はフッと息を漏らすように笑い、顔を逸らして腰を下ろした。
「疲れたことなど、今迄に一度たりとも無い」
「ぇっ……」
明らかな斎藤の痩せ我慢。
夢主も少し悪戯な顔を見せた。
「ふふっ、斎藤さんてば……」
「なんだ」
夢主は斎藤のすぐ横に正座をした。
自らの膝に手を乗せて姿勢を正したまま、斎藤の顔を覗き込む。
「マッサージ、させてください」
「まっ……」
聞いたことがない言葉に斎藤が顔をしかめる。
夢主は慌てて通じる言葉を探した。
「えぇと、按摩……でしょうか。体を揉み解すんです……疲れが取れますよ」
「いらん、疲れていないと言っているだろう」
「でも……」
ピクリと眉を動かした斎藤、そんなことも出来るのかと驚いていた。
夢主は遠慮しがちに手を伸ばした。
「お嫌でなければ……刀とか鎖の着込みとか色々……重そうですし、腕に……触れてもいいですか」
夢主は斎藤の腕の前で手を止めて返事を待った。
宙に浮かぶ夢主の手を暫く見つめた斎藤、ふぅっと一つ息を吐き、根負けして頷いた。
「やってみろ」
「は、はいっ」
嬉しそうに晴れた顔を見せる夢主に斎藤も口元を緩ませた。
気が緩む斎藤だが、夢主が己の腕に触れた瞬間、思わずはっとした。
戦いで疲れた肌に、柔らかく瑞々しい指先が心地良い。
固い腕に触れる柔らかい手。
女とはこんな感触だったか。そんなことを考えてしまった。