58.休息の時
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池田屋事件以降、長州過激派志士らの取り締まりが新選組を翻弄していた。
やがてそれは、捕縛騒動ではすまない事態にまで至ってしまう。
京を追い出された長州が兵を揃えて京に舞い戻ろうとする動きが伝わり、斎藤達は休む間もなく再度出陣を余儀なくされた。
この流れはいわゆる禁門の変へと繋がってゆく。
池田屋事件、それ以降も姿を伏せていた人斬り抜刀斎が、この禁門の変には密かに参戦していた。
しかし新選組とは対峙せず、長州の敗戦と共に身を潜めた。
ひっそり元服を迎えた彼は桂小五郎の命により、傍に身を置く雪代巴と共に京の外れの村へ身を隠した。
目の前の隊務に集中する斎藤達は、人斬り抜刀斎の存在を頭の片隅に抑え込んでいた。
気を散らして務めを果たせるほど甘い立場ではない。
新選組は竹田街道へ出陣、橋を固め長州の軍勢を待つ。
戦局により伏見の長州屋敷、伏見稲荷、そして京都御所堺町御門と、次々に長州軍を追って移動を繰り返した。
あっという間に数日が過ぎていった。
男達のいない屯所で、夢主は自分だけの静かな日々を過ごしていた。
時折家の者から伝え聞く京の情勢に心は揺らぐが、自分の記憶と斎藤達の力を信じて待っている。
先日の斎藤の本音を含んだ芝居と沖田の本気の感情が、隊士達に強烈な印象を与えていた。
残る隊士達に、夢主を気を掛ける者はいなかった。
怖ろしい幹部連中の本気を知ったからには、自らの姿を見せぬよう、悟らせぬよう振舞っていた。
気にはなるが、夢主と目を合わすまいと必死だった。
皆が寝静まったある夜。
夢主は星月輝く空を見上げて、斎藤達に思いを馳せた。
長引く戦、嘆く町の人々や、戦いに身を費やす男達。
深く引き込まれそうな藍色の空を見上げていると、不意に熱いものが込み上げてくる。
夢主はそっと目元を拭った。
「夜空が……綺麗過ぎて……」
遥か上空を見て、呟いた。
そんな夜が続いたある日。
そろそろ眠ろうと仕度を整えた夢主の元に、再びあの花が届けられた。
「藤の……花。あの人しか……」
蒼紫の姿を思い浮かべて縁側の花を拾った。
人影は無い。
静まり返った庭を前に、戦いに心を痛める夢主を慰めるよう、小さな愛らしい花は、月明かりを凛と受けて輝いていた。
「斎藤さん達が早く戻れますように……」
囁いて夢主はそっと花に唇を落とし、小さく微笑んで部屋へ戻った。
それから、以前の様に毎日では無いが、夜、気付けば部屋の前に藤の花が置かれていた。
時折、様子を見に来ているのだろう。
身を案じているのか興味があるのか、夢主に分かるはずも無い。
届けられるたび、置かれた花をただ拾い上げた。
幕府側と長州の戦いの最中、京の町には火の手が上がった。
火は壬生まで届かなかったが、大火の話は夢主に届き、心を苛んだ。
不安に苛まれる日があると、その夜に花は届く気がした。
まるで勇気を届け、鼓舞するように。
大火の話に胸を痛めたその日も花は届いた。
花の知らせは、斎藤達が長州勢を京から一掃して屯所に戻るまで続いた。
斎藤達が戻ったのは、未だ暑さの残る季節。
長く激しい戦いは、ひとつの戦だった。
隊士達は各自の戦果を称え合いながら、疲れを体中に背負って帰って来た。
やがてそれは、捕縛騒動ではすまない事態にまで至ってしまう。
京を追い出された長州が兵を揃えて京に舞い戻ろうとする動きが伝わり、斎藤達は休む間もなく再度出陣を余儀なくされた。
この流れはいわゆる禁門の変へと繋がってゆく。
池田屋事件、それ以降も姿を伏せていた人斬り抜刀斎が、この禁門の変には密かに参戦していた。
しかし新選組とは対峙せず、長州の敗戦と共に身を潜めた。
ひっそり元服を迎えた彼は桂小五郎の命により、傍に身を置く雪代巴と共に京の外れの村へ身を隠した。
目の前の隊務に集中する斎藤達は、人斬り抜刀斎の存在を頭の片隅に抑え込んでいた。
気を散らして務めを果たせるほど甘い立場ではない。
新選組は竹田街道へ出陣、橋を固め長州の軍勢を待つ。
戦局により伏見の長州屋敷、伏見稲荷、そして京都御所堺町御門と、次々に長州軍を追って移動を繰り返した。
あっという間に数日が過ぎていった。
男達のいない屯所で、夢主は自分だけの静かな日々を過ごしていた。
時折家の者から伝え聞く京の情勢に心は揺らぐが、自分の記憶と斎藤達の力を信じて待っている。
先日の斎藤の本音を含んだ芝居と沖田の本気の感情が、隊士達に強烈な印象を与えていた。
残る隊士達に、夢主を気を掛ける者はいなかった。
怖ろしい幹部連中の本気を知ったからには、自らの姿を見せぬよう、悟らせぬよう振舞っていた。
気にはなるが、夢主と目を合わすまいと必死だった。
皆が寝静まったある夜。
夢主は星月輝く空を見上げて、斎藤達に思いを馳せた。
長引く戦、嘆く町の人々や、戦いに身を費やす男達。
深く引き込まれそうな藍色の空を見上げていると、不意に熱いものが込み上げてくる。
夢主はそっと目元を拭った。
「夜空が……綺麗過ぎて……」
遥か上空を見て、呟いた。
そんな夜が続いたある日。
そろそろ眠ろうと仕度を整えた夢主の元に、再びあの花が届けられた。
「藤の……花。あの人しか……」
蒼紫の姿を思い浮かべて縁側の花を拾った。
人影は無い。
静まり返った庭を前に、戦いに心を痛める夢主を慰めるよう、小さな愛らしい花は、月明かりを凛と受けて輝いていた。
「斎藤さん達が早く戻れますように……」
囁いて夢主はそっと花に唇を落とし、小さく微笑んで部屋へ戻った。
それから、以前の様に毎日では無いが、夜、気付けば部屋の前に藤の花が置かれていた。
時折、様子を見に来ているのだろう。
身を案じているのか興味があるのか、夢主に分かるはずも無い。
届けられるたび、置かれた花をただ拾い上げた。
幕府側と長州の戦いの最中、京の町には火の手が上がった。
火は壬生まで届かなかったが、大火の話は夢主に届き、心を苛んだ。
不安に苛まれる日があると、その夜に花は届く気がした。
まるで勇気を届け、鼓舞するように。
大火の話に胸を痛めたその日も花は届いた。
花の知らせは、斎藤達が長州勢を京から一掃して屯所に戻るまで続いた。
斎藤達が戻ったのは、未だ暑さの残る季節。
長く激しい戦いは、ひとつの戦だった。
隊士達は各自の戦果を称え合いながら、疲れを体中に背負って帰って来た。