57.花の主
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葵屋に戻った蒼紫は翁に呼び止められていた。
壬生の新選組屯所での報告を求められたのだ。
「蒼紫や、どうじゃった」
「翁……話と少し違いました。翁の策略ですか」
葵屋の裏庭で立ち話をする蒼紫と翁。
十を過ぎたばかりの蒼紫、背丈は翁とさほど変わらない。
とは言ってもそれなりの背丈がある翁、決して蒼紫が低いわけではない。
「何を言うか蒼紫。相手の諜報の手がある所に単身乗り込んで対象人物を護衛する。立派な演習じゃろう」
「そうではなくて……それならば何故奴等がいる時ではないのです」
感情を表さない忍同士の会話ではあるが、蒼紫の言葉は不満を伝えていた。
「お主もわかっておらんのぅ。人が多ければ音が多い。気付かれ難いじゃろう。人が少ない方がよっぽど訓練になるわい」
「そういうものですか……」
翁は呟く蒼紫から目を逸らすと、晴れた青空に薄く見える残月を見上げた。
昼間の月もいいもんじゃ。
頷いた翁は再び蒼紫を見た。
「単独任務、江戸城に入る前のいい訓練じゃろうて。で、どうなんじゃ。任務は成功したのか」
「っ……」
「その様子では失敗のようじゃな。蒼紫にしては珍しい。対象に悟られないように護衛するのも時に必要じゃ。まさか話でもしたのではあるまいな」
「それは……」
そもそも姿を見せてはならなかったのだ。
らしくもなく、言葉を交わし花まで手渡してしまった。
何かに当てられたかのような行動、普段ならば決してしない。
「図星かっ。まさか情を移したわけではあるまいな」
「そんなわけありません。翁、貴方と一緒にしないで下さい」
女好きの翁を睨んだ蒼紫は一旦口をつぐみ、屯所で抱いた戸惑いを思い出した。
ぐらりと何かが揺れた気がして、咄嗟に警護対象の女、夢主の前から姿を消したのだ。
「まぁ固いことを言うな、どうじゃ、色事指南の秘伝書を貸してやろうか、ひょっひょっ!!壬生狼から猫を奪うなど面白いではないか!!儂は止めんぞ!」
「必要ありません、俺はそんな物興味ありませんから」
蒼紫は楽しそうにニヤける翁から目を逸らすが、翁は再び蒼紫の視界の中に入ろうと移動した。
「じゃが忍たる者、色の知識も必要じゃよって」
「まさか。俺は探索方ではない、城内での警護専任です」
思わず目を合わせるが再び目を逸らした。
自分に必要なのは戦う技と護る技、色を使った仕事は必要ならば他の者がする。
「まぁ、だが時には必要だろうて。身に付けておいて損は無いぞよぉ、ふぉっふぉっふぉっ!!」
「ちっ、いい加減にしてください。俺はもう行きます」
「どこへ行く」
「京の外れへ……山で体を動かしてきます」
「そうかそうか、お主は熱心じゃの。まぁ機会があれば任務のりべんぢに行くことじゃ!ひゃっひゃっひゃ!!」
翁の笑いから逃げるように蒼紫はその場から跳んだ。
「まぁ元服してからでも遅くは無いがのぅ、あの顔では小手先の技は要らぬであろうな。指南書には嫌でも目を通してもらわねばならんがの……蒼紫、お主はいずれ御庭番衆を背負うことになろうぞ」
蒼紫が跳び去った方角を見上げ、翁はぽつりと呟いた。
忍が舞うにはあまりにも鮮やかに晴れ渡った青い空だった。
壬生の新選組屯所での報告を求められたのだ。
「蒼紫や、どうじゃった」
「翁……話と少し違いました。翁の策略ですか」
葵屋の裏庭で立ち話をする蒼紫と翁。
十を過ぎたばかりの蒼紫、背丈は翁とさほど変わらない。
とは言ってもそれなりの背丈がある翁、決して蒼紫が低いわけではない。
「何を言うか蒼紫。相手の諜報の手がある所に単身乗り込んで対象人物を護衛する。立派な演習じゃろう」
「そうではなくて……それならば何故奴等がいる時ではないのです」
感情を表さない忍同士の会話ではあるが、蒼紫の言葉は不満を伝えていた。
「お主もわかっておらんのぅ。人が多ければ音が多い。気付かれ難いじゃろう。人が少ない方がよっぽど訓練になるわい」
「そういうものですか……」
翁は呟く蒼紫から目を逸らすと、晴れた青空に薄く見える残月を見上げた。
昼間の月もいいもんじゃ。
頷いた翁は再び蒼紫を見た。
「単独任務、江戸城に入る前のいい訓練じゃろうて。で、どうなんじゃ。任務は成功したのか」
「っ……」
「その様子では失敗のようじゃな。蒼紫にしては珍しい。対象に悟られないように護衛するのも時に必要じゃ。まさか話でもしたのではあるまいな」
「それは……」
そもそも姿を見せてはならなかったのだ。
らしくもなく、言葉を交わし花まで手渡してしまった。
何かに当てられたかのような行動、普段ならば決してしない。
「図星かっ。まさか情を移したわけではあるまいな」
「そんなわけありません。翁、貴方と一緒にしないで下さい」
女好きの翁を睨んだ蒼紫は一旦口をつぐみ、屯所で抱いた戸惑いを思い出した。
ぐらりと何かが揺れた気がして、咄嗟に警護対象の女、夢主の前から姿を消したのだ。
「まぁ固いことを言うな、どうじゃ、色事指南の秘伝書を貸してやろうか、ひょっひょっ!!壬生狼から猫を奪うなど面白いではないか!!儂は止めんぞ!」
「必要ありません、俺はそんな物興味ありませんから」
蒼紫は楽しそうにニヤける翁から目を逸らすが、翁は再び蒼紫の視界の中に入ろうと移動した。
「じゃが忍たる者、色の知識も必要じゃよって」
「まさか。俺は探索方ではない、城内での警護専任です」
思わず目を合わせるが再び目を逸らした。
自分に必要なのは戦う技と護る技、色を使った仕事は必要ならば他の者がする。
「まぁ、だが時には必要だろうて。身に付けておいて損は無いぞよぉ、ふぉっふぉっふぉっ!!」
「ちっ、いい加減にしてください。俺はもう行きます」
「どこへ行く」
「京の外れへ……山で体を動かしてきます」
「そうかそうか、お主は熱心じゃの。まぁ機会があれば任務のりべんぢに行くことじゃ!ひゃっひゃっひゃ!!」
翁の笑いから逃げるように蒼紫はその場から跳んだ。
「まぁ元服してからでも遅くは無いがのぅ、あの顔では小手先の技は要らぬであろうな。指南書には嫌でも目を通してもらわねばならんがの……蒼紫、お主はいずれ御庭番衆を背負うことになろうぞ」
蒼紫が跳び去った方角を見上げ、翁はぽつりと呟いた。
忍が舞うにはあまりにも鮮やかに晴れ渡った青い空だった。