57.花の主
夢主名前設定
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一方、先に飛び出した二人。
休息所に向う道中も斎藤は一向に手を離してくれなかった。
掴まれた手首が恥ずかしさだけではなく、圧迫されて熱くなっていく。
「あの、斎藤さん……」
「黙って歩け」
足を止めると転びそうになる。
夢主は懸命に斎藤の足に合わせて進んだ。
休息所が見えて歩みが遅くなると思ったが、そのままの勢いで引かれて歩き、中に入った途端、体がふわりと飛んだ。
「え……っ」
斎藤は土間で草履を脱ぎ捨て、夢主の草履は勢いに乗って足から外れて転がった。
「……」
「あの……」
斎藤は口を閉ざしている。
休息所の中、外から見えそうな場所。
流れるような動きで強引に、斎藤は夢主を組み敷いていた。
驚く夢主だが、斎藤の顔色も瞳の色も至って落ち着いている。
芝居の続きでも演じるつもりなのか。
わざと……
そうは思っても恥ずかしさに変わりはない。
「あの、何から驚いていいか、わからないんですけど……」
「痛かったか」
「いぃぇ……その、空を飛んだと思ったら……一瞬、斎藤さんが怒って放り投げられたのかと思いました……」
「そんなことするか阿呆ぅ」
組み敷いた夢主を見下ろして話す斎藤は声も冷静だ。
静かで体の中まで響く低い声、普段より小さな声が二人の近さを物語る。
俄かに緊張が込み上げ、夢主は気付かれぬよう唾を飲み込んだ。
「……でもちょっと、嫌です……」
「何故だ」
「その……斎藤さんの……思い浮かべてしまうと言うか……」
「何をだ」
「床を……」
言いながら夢主は目を背けて頬を染めた。
こんな風に他の女の人も組み敷いてきたのだろうか。
きっと驚いて身動きが取れなくなるだろう。
そこへ甘い言葉の一つでも囁かれたら……
考えると胸の奥がチリチリと痛む。気付けば完全に顔を背けていた。
「嫌か」
「嫌ですよ……斎藤さんだけじゃなくて、どなたの床だって考えたくはありません。違いますか……」
「でも今、考えてしまったんだろう」
頭の中を覗かれたようで、夢主はうっと顔を歪めた。顔に熱が上る。
顔を逸らして恥じらう夢主を、斎藤は楽しそうに責めた。
横顔は瞼と唇が良く見える。
恥じらいを誤魔化そうと瞬きを繰り返す瞼、艶やかな瞼が幾度も動く。
言葉を飲み込んで微かに動く唇は目を離せない。
「誰だ」
僅かに手に力を加え、答えろと嬉しそうな目で夢主を睨んだ。
答えなければ許してやらんと目が告げている。
横目で斎藤を見た夢主は、観念して呟いた。
「はっ、原田さんですっ、や、優しそうだなぁっ……て」
「ほぉう」
ぴくりと斎藤の眉が動いた。
顎を軽く上げて夢主を細い目で見下ろす。
妙に現実味のある名前に、斎藤の感情が動いた。
自分でも沖田君でもなく、土方さんでもなく、いつも優しく見守る原田さんなのかと。
斎藤は暫く無言で夢主を見据えた。
睨まれて夢主は伏せた目を細かく瞬いている。
「原田さんも永倉さんも好い人が出来たそうだな」
「本当ですかっ!」
揶揄うつもりで告げた斎藤の言葉で、夢主の顔が急に晴れた。
心から喜ぶ素直な気持ちが表れている。
「嬉しいのか」
「当たり前です!みなさんに好い人が出来て、幸せな時間が増えるのなら……嬉しいに決まってるじゃありませんかっ」
前から話を聞いていた原田だけではなく永倉も。
あぁそういえば芸妓さんの話が……
今度は嬉しそうに目を伏せて、夢主は頭の片隅で二人の幸せな姿を思い描いた。
「女はわからん……お前は優しいな」
「も、もぅいいですよね、離してくださいっ」
我に返ると、夢主は目を合わせて離すように求めた。
休息所に向う道中も斎藤は一向に手を離してくれなかった。
掴まれた手首が恥ずかしさだけではなく、圧迫されて熱くなっていく。
「あの、斎藤さん……」
「黙って歩け」
足を止めると転びそうになる。
夢主は懸命に斎藤の足に合わせて進んだ。
休息所が見えて歩みが遅くなると思ったが、そのままの勢いで引かれて歩き、中に入った途端、体がふわりと飛んだ。
「え……っ」
斎藤は土間で草履を脱ぎ捨て、夢主の草履は勢いに乗って足から外れて転がった。
「……」
「あの……」
斎藤は口を閉ざしている。
休息所の中、外から見えそうな場所。
流れるような動きで強引に、斎藤は夢主を組み敷いていた。
驚く夢主だが、斎藤の顔色も瞳の色も至って落ち着いている。
芝居の続きでも演じるつもりなのか。
わざと……
そうは思っても恥ずかしさに変わりはない。
「あの、何から驚いていいか、わからないんですけど……」
「痛かったか」
「いぃぇ……その、空を飛んだと思ったら……一瞬、斎藤さんが怒って放り投げられたのかと思いました……」
「そんなことするか阿呆ぅ」
組み敷いた夢主を見下ろして話す斎藤は声も冷静だ。
静かで体の中まで響く低い声、普段より小さな声が二人の近さを物語る。
俄かに緊張が込み上げ、夢主は気付かれぬよう唾を飲み込んだ。
「……でもちょっと、嫌です……」
「何故だ」
「その……斎藤さんの……思い浮かべてしまうと言うか……」
「何をだ」
「床を……」
言いながら夢主は目を背けて頬を染めた。
こんな風に他の女の人も組み敷いてきたのだろうか。
きっと驚いて身動きが取れなくなるだろう。
そこへ甘い言葉の一つでも囁かれたら……
考えると胸の奥がチリチリと痛む。気付けば完全に顔を背けていた。
「嫌か」
「嫌ですよ……斎藤さんだけじゃなくて、どなたの床だって考えたくはありません。違いますか……」
「でも今、考えてしまったんだろう」
頭の中を覗かれたようで、夢主はうっと顔を歪めた。顔に熱が上る。
顔を逸らして恥じらう夢主を、斎藤は楽しそうに責めた。
横顔は瞼と唇が良く見える。
恥じらいを誤魔化そうと瞬きを繰り返す瞼、艶やかな瞼が幾度も動く。
言葉を飲み込んで微かに動く唇は目を離せない。
「誰だ」
僅かに手に力を加え、答えろと嬉しそうな目で夢主を睨んだ。
答えなければ許してやらんと目が告げている。
横目で斎藤を見た夢主は、観念して呟いた。
「はっ、原田さんですっ、や、優しそうだなぁっ……て」
「ほぉう」
ぴくりと斎藤の眉が動いた。
顎を軽く上げて夢主を細い目で見下ろす。
妙に現実味のある名前に、斎藤の感情が動いた。
自分でも沖田君でもなく、土方さんでもなく、いつも優しく見守る原田さんなのかと。
斎藤は暫く無言で夢主を見据えた。
睨まれて夢主は伏せた目を細かく瞬いている。
「原田さんも永倉さんも好い人が出来たそうだな」
「本当ですかっ!」
揶揄うつもりで告げた斎藤の言葉で、夢主の顔が急に晴れた。
心から喜ぶ素直な気持ちが表れている。
「嬉しいのか」
「当たり前です!みなさんに好い人が出来て、幸せな時間が増えるのなら……嬉しいに決まってるじゃありませんかっ」
前から話を聞いていた原田だけではなく永倉も。
あぁそういえば芸妓さんの話が……
今度は嬉しそうに目を伏せて、夢主は頭の片隅で二人の幸せな姿を思い描いた。
「女はわからん……お前は優しいな」
「も、もぅいいですよね、離してくださいっ」
我に返ると、夢主は目を合わせて離すように求めた。