57.花の主
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土方が去った後も夢主は皆と話し込んでしまい、部屋に戻ると武具を外しに行っていた斎藤が間を置かずに戻ってきた。
中に入るなり、斎藤は一直線にある場所へ進み、腰を落とした。
畳の目を確認するように指先で撫でている。
「……」
「斎藤さん、すごぉい……」
「うむ、ここだけ綺麗に整い過ぎているな」
斎藤は手を止め振り向いた。
「何かあったな。話せ」
夢主は促されて、ここで話して良いものかと辺りを見回した。
斎藤の顔色を窺い、机に手を伸ばす。置いてある器から花を取って差し出した。
「これ……」
「花、こんな季節に藤の花か。これがどうした」
「頂いたんです……」
「まさか、男が会いに来たのか」
花を持ってわざわざ会いに来るなど特別な感情が無ければするまい。
それにしても藤の花一輪とは奇妙過ぎる。斎藤は眉を僅かに寄せて小さな皺を作った。
「そんなっ、まさかです、あの……蒼い花……」
一言で斎藤は蒼の示す意味を悟ったのか、閃いたように夢主の手首を掴んで部屋から連れ出した。
「わっ!あのっ、」
力強く勢い良く歩く斎藤に手を引かれ、転びそうになりながらも必死に歩いた。
周りの隊士達も不思議そうに見ている。
「おっ、斎藤!どうしたよ」
「斎藤くん?」
すれ違いざまに原田と藤堂に声を掛けられ、斎藤は短く応えた。
「休息所に行ってくる」
「えぇっ!!」
驚く藤堂と共に夢主も驚きの声を上げた。
「おぉっ!!いよいよかぁっ!!斎藤、お前やっとだなぁっ!!」
原田をはじめ、周りから飛んでくる野次に気まずい顔を見せるが、斎藤は前だけを見据えて歩いた。
帰陣したばかりだけあって、門の周りは幹部連中はもちろん、多くの平隊士がその様子を目撃した。
「あのっ、ちがっ、違うんですっ……」
「黙っていろ」
言い訳をしようとした夢主の声を打ち消すように、低く強い声で斎藤が唸った。
もしかして先日の土方の話していた「芝居」を含んでいるつもりなのか。
夢主は恥ずかしさで頬を染め、斎藤に従って屯所を出て行った。
眺めていた隊士達もその後ろ姿に頬を赤くした。
やがて沖田が布団を運んできたが、斎藤の部屋は空だった。
疑問に首を傾げ、抱えて来た布団を置いた。
何やら屯所の門が騒がしい。
覗くと、門の外にいる隊士も、既に中に入った隊士も揃って通りの先に視線を固定している。
「どうしたんですか」
「おぉ、総司かっ」
途端に周囲から気まずさを含んだ視線が集まった。
嫌でも何かがあったと気付く。手っ取り早く、一番間近にいる藤堂に詰め寄った。
「何があったんですか」
「いや、その斎藤くんが……俺だって嫌だぜ、でもよ……」
言葉を濁してはっきりしない藤堂に苛立つ沖田は、今にも胸倉を掴んで問い質しそうな勢いだ。
業を煮やした原田が助け舟を出した。
「もういいだろう総司。野暮なことはするなよ」
「野暮……」
斎藤と夢主の二人が、ただの煮え切らない想い人同士……
そうとしか考えようの無い周りの者達。
それは分かるけれども……
沖田はゆっくりと振り返り、男達を順に睨みつけた。
「夢主ちゃんの苦しみも知らないで……」
誰にも届かない小さな声で呟くと、そばにいた原田だけが顔色を変えた。
「……総司」
「僕は行きます」
走り出そうとする沖田だが、咄嗟に腕を掴まれ動きを止められた。
体の大きな監察方の島田だ。
沖田の倍はありそうな巨漢のこの男、得意の柔術で反射的に沖田の腕を取ったのだ。
「ふんっ!!」
「うぉっ……」
沖田がギッと強い剣気を叩きつけながら体を入れて島田の腕を回し、大きな体が宙を舞った。
「体が大きいだけで僕を押さえられると思わないで下さいっ!島田さんっ!!」
「は、はいっ……」
本気で怒る沖田に返す言葉も無く、地面に転がった島田は呆けて頷いた。
沖田は怒りのまま一直線に走り出した。
「総司のやつ……」
夢主の苦しみとは何だ……
原田は先程とは違う不安を胸に、小さくなる沖田の姿を見つめた。
中に入るなり、斎藤は一直線にある場所へ進み、腰を落とした。
畳の目を確認するように指先で撫でている。
「……」
「斎藤さん、すごぉい……」
「うむ、ここだけ綺麗に整い過ぎているな」
斎藤は手を止め振り向いた。
「何かあったな。話せ」
夢主は促されて、ここで話して良いものかと辺りを見回した。
斎藤の顔色を窺い、机に手を伸ばす。置いてある器から花を取って差し出した。
「これ……」
「花、こんな季節に藤の花か。これがどうした」
「頂いたんです……」
「まさか、男が会いに来たのか」
花を持ってわざわざ会いに来るなど特別な感情が無ければするまい。
それにしても藤の花一輪とは奇妙過ぎる。斎藤は眉を僅かに寄せて小さな皺を作った。
「そんなっ、まさかです、あの……蒼い花……」
一言で斎藤は蒼の示す意味を悟ったのか、閃いたように夢主の手首を掴んで部屋から連れ出した。
「わっ!あのっ、」
力強く勢い良く歩く斎藤に手を引かれ、転びそうになりながらも必死に歩いた。
周りの隊士達も不思議そうに見ている。
「おっ、斎藤!どうしたよ」
「斎藤くん?」
すれ違いざまに原田と藤堂に声を掛けられ、斎藤は短く応えた。
「休息所に行ってくる」
「えぇっ!!」
驚く藤堂と共に夢主も驚きの声を上げた。
「おぉっ!!いよいよかぁっ!!斎藤、お前やっとだなぁっ!!」
原田をはじめ、周りから飛んでくる野次に気まずい顔を見せるが、斎藤は前だけを見据えて歩いた。
帰陣したばかりだけあって、門の周りは幹部連中はもちろん、多くの平隊士がその様子を目撃した。
「あのっ、ちがっ、違うんですっ……」
「黙っていろ」
言い訳をしようとした夢主の声を打ち消すように、低く強い声で斎藤が唸った。
もしかして先日の土方の話していた「芝居」を含んでいるつもりなのか。
夢主は恥ずかしさで頬を染め、斎藤に従って屯所を出て行った。
眺めていた隊士達もその後ろ姿に頬を赤くした。
やがて沖田が布団を運んできたが、斎藤の部屋は空だった。
疑問に首を傾げ、抱えて来た布団を置いた。
何やら屯所の門が騒がしい。
覗くと、門の外にいる隊士も、既に中に入った隊士も揃って通りの先に視線を固定している。
「どうしたんですか」
「おぉ、総司かっ」
途端に周囲から気まずさを含んだ視線が集まった。
嫌でも何かがあったと気付く。手っ取り早く、一番間近にいる藤堂に詰め寄った。
「何があったんですか」
「いや、その斎藤くんが……俺だって嫌だぜ、でもよ……」
言葉を濁してはっきりしない藤堂に苛立つ沖田は、今にも胸倉を掴んで問い質しそうな勢いだ。
業を煮やした原田が助け舟を出した。
「もういいだろう総司。野暮なことはするなよ」
「野暮……」
斎藤と夢主の二人が、ただの煮え切らない想い人同士……
そうとしか考えようの無い周りの者達。
それは分かるけれども……
沖田はゆっくりと振り返り、男達を順に睨みつけた。
「夢主ちゃんの苦しみも知らないで……」
誰にも届かない小さな声で呟くと、そばにいた原田だけが顔色を変えた。
「……総司」
「僕は行きます」
走り出そうとする沖田だが、咄嗟に腕を掴まれ動きを止められた。
体の大きな監察方の島田だ。
沖田の倍はありそうな巨漢のこの男、得意の柔術で反射的に沖田の腕を取ったのだ。
「ふんっ!!」
「うぉっ……」
沖田がギッと強い剣気を叩きつけながら体を入れて島田の腕を回し、大きな体が宙を舞った。
「体が大きいだけで僕を押さえられると思わないで下さいっ!島田さんっ!!」
「は、はいっ……」
本気で怒る沖田に返す言葉も無く、地面に転がった島田は呆けて頷いた。
沖田は怒りのまま一直線に走り出した。
「総司のやつ……」
夢主の苦しみとは何だ……
原田は先程とは違う不安を胸に、小さくなる沖田の姿を見つめた。