56.紫の蝶、蒼く(しのちょう、あおく)
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「やつら新選組は長州から出てきた兵のせいで、もう何日か足止めされるだろう」
「そうなんですかっ、……ありがとうございます」
さすが、御庭番衆には京の情勢がしっかり届いているようだ。
何故教えてくれるのか分からないが、夢主は蒼紫に礼を述べた。
……早く戻ってくれるといいな……何事も無く……
同じ京の中、陣を張っている斎藤達を案じて俯いた。
「新選組の連中は思った以上にしぶとい。狼と言われるだけはある」
「えっ」
ぽつり呟くと蒼紫は立ち上がった。
「斎藤の物だと一目で分かるものを部屋の外において置け」
「ぇ……斎藤さんの……」
「恐れられているのだろう、ならばその姿を思い起こさせる物を置いておけば良い」
「あ……」
蒼紫の助言に驚いて、立ち上がったその姿を見上げた。
夢主の身の危険を気にする立場でもなければ興味も無いのだろうが、蒼紫は簡単な護身の方法を教えてくれたのだ。
夢主は少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。
「ありがとう……」
呟くように告げると、蒼紫はらしからぬ反応を示した。
驚いたように目を大きくしたのだ。
その変化に夢主が気付く前に蒼紫は姿を消した。
現れた時と同じように、瞬時の出来事だった。
突然開けた部屋の前の景色、何も無かったように静かな空間が戻る。
大きな月の明かりに照らされた庭には足跡も残っていなかった。
「蒼紫様……」
御庭番衆の人間離れした動きに驚きつつ、夢主はゆっくり立ち上がると藤の花を斎藤の机の上の器の中に入れた。花は小さな蝶が水面を揺らすように浮いている。
枕元に置いてあった、斎藤から譲り受けた男物の鉄扇を広げて部屋の外に置いた。
斎藤の帯を借りて、その上に鉄扇を添えた。いかにも斎藤の物であると主張している。
「ふふっ、お部屋の外で守ってくれてるみたい……おやすみなさい」
折り畳まれた斎藤の帯とその上の鉄扇に頭を下げてお休みを告げた。
微笑んで障子を閉めると、今夜もゆっくり眠れそうな気分に変わる。夢主は静かに布団に体を入れた。
それから斎藤達が戻るまで、蒼紫の姿を目にすることは無かった。
しかし数日の間、机の上から藤が消えてはその夜、部屋の前に新しい藤の花が置かれる、そんな出来事が繰り返された。
月明かりを受け夢主に拾われるのを待つ淡い蒼の藤は、縁側にとまる蝶のようだった。
夢主は鉄扇や帯といった斎藤の身変わりと共に、藤の花の主に見守られる夜を過ごした。
「そうなんですかっ、……ありがとうございます」
さすが、御庭番衆には京の情勢がしっかり届いているようだ。
何故教えてくれるのか分からないが、夢主は蒼紫に礼を述べた。
……早く戻ってくれるといいな……何事も無く……
同じ京の中、陣を張っている斎藤達を案じて俯いた。
「新選組の連中は思った以上にしぶとい。狼と言われるだけはある」
「えっ」
ぽつり呟くと蒼紫は立ち上がった。
「斎藤の物だと一目で分かるものを部屋の外において置け」
「ぇ……斎藤さんの……」
「恐れられているのだろう、ならばその姿を思い起こさせる物を置いておけば良い」
「あ……」
蒼紫の助言に驚いて、立ち上がったその姿を見上げた。
夢主の身の危険を気にする立場でもなければ興味も無いのだろうが、蒼紫は簡単な護身の方法を教えてくれたのだ。
夢主は少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。
「ありがとう……」
呟くように告げると、蒼紫はらしからぬ反応を示した。
驚いたように目を大きくしたのだ。
その変化に夢主が気付く前に蒼紫は姿を消した。
現れた時と同じように、瞬時の出来事だった。
突然開けた部屋の前の景色、何も無かったように静かな空間が戻る。
大きな月の明かりに照らされた庭には足跡も残っていなかった。
「蒼紫様……」
御庭番衆の人間離れした動きに驚きつつ、夢主はゆっくり立ち上がると藤の花を斎藤の机の上の器の中に入れた。花は小さな蝶が水面を揺らすように浮いている。
枕元に置いてあった、斎藤から譲り受けた男物の鉄扇を広げて部屋の外に置いた。
斎藤の帯を借りて、その上に鉄扇を添えた。いかにも斎藤の物であると主張している。
「ふふっ、お部屋の外で守ってくれてるみたい……おやすみなさい」
折り畳まれた斎藤の帯とその上の鉄扇に頭を下げてお休みを告げた。
微笑んで障子を閉めると、今夜もゆっくり眠れそうな気分に変わる。夢主は静かに布団に体を入れた。
それから斎藤達が戻るまで、蒼紫の姿を目にすることは無かった。
しかし数日の間、机の上から藤が消えてはその夜、部屋の前に新しい藤の花が置かれる、そんな出来事が繰り返された。
月明かりを受け夢主に拾われるのを待つ淡い蒼の藤は、縁側にとまる蝶のようだった。
夢主は鉄扇や帯といった斎藤の身変わりと共に、藤の花の主に見守られる夜を過ごした。