56.紫の蝶、蒼く(しのちょう、あおく)
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お前を観察していた。男を追い払ったのは邪魔だったからだ。あのまま観察を続けても面白かったかもしれないがな」
「そんなっ……」
蒼紫を責めたくなるが、助けてくれた礼がまだだ。
夢主は反発したいのを堪えて素直に頭を下げた。
「ぁ……ありがとうございます……でもあの、女の観察って、葵屋にも……女の方は沢山……」
「あそこの女では駄目だ。堅気の、上玉の女を学んでいた」
「へっ、じょぅっ……」
何の拘りで何の為の勉強なのか、理解出来ない。
まさか翁に唆されて来たのでもあるまい。
どこに潜んで、どこからどこまでを観察されたのか、自分の一日を思い返す。
先程の身を清めている時も……
考えたくは無いが、そこだけ目を逸らす忍もいないだろう。
夢主の顔はすっかり火照っていた。
「何の為に……上玉ってあの……」
「翁が言っていた。あれは上玉だと。そして壬生狼達が屯所を離れているから学びに出向くには丁度良いとな」
「翁さんが……」
まさか幹部の皆が屯所から離れ、取り残された夢主の身を案じてくれたわけは無いだろうが、翁が冗談ではなく、意味を持って蒼紫を差し向けたらしい。
「だが尻餅をつく上玉など訊いたことがない。翁の思い違いではないのか」
「っう……」
夢主は頬を真っ赤にして昨日の出来事を思い出した。昨日の夜も蒼紫は見ていたのだ。
それにしても無口だと思っていた蒼紫にしては饒舌なほどによく話す……夢主は不思議そうに眺めた。
「まぁいい。礼など必要ないが……今日も一日よく見せてもらった」
「えっ……」
「なかなかに興味深い」
姿勢を変えずにいた蒼紫が体を動かし、夢主の目の前に片膝をついて座り直した。
ふっと夢主の前に右手を差し出す。
何かを握っている様子に、夢主は両手を器のように揃えて、そっと差し出した。
それを見て手を開いた蒼紫、小さな花が夢主の手に降りてきた。
「藤っ……じゃぁ……」
「昨日の花は返してもらう。花はすぐ傷む。秘伝の薬水につければ話は別だが……」
そう言うと蒼紫は反対の手で自らの懐から少ししおれた昨日の藤の花を取り出し、顔の前で摘まんで眺めた。
「あっ!!」
斎藤の机に置いたと思った藤の花は蒼紫が回収していたのだ。
「狂い咲き……条件を整えてやれば花の咲き散りも容易に行える……己が望みで咲けぬのは可哀想だがな」
「ぇ……」
「物を残すのは、確かに現れたと示す伝達方法のひとつ。葵の葉を置いては余りに芸が無かろう。この藤は蒼く……とても美しい」
蒼紫は自らの手にある藤に目をやり呟いた。その仕草がとても妖艶に感じられた。
ただの少年でしかないと思っていた蒼紫だが、藤の蒼に魅せられているのか、伏し目がちに細めるさまはとても艶やかだった。
「花一つは小さく華奢だが集まれば真に華やかな藤となる。大きな房を幾つも支える幹に枝、陰ながらも何と逞しい……我等が影の存在に相応しい花であろう」
蒼紫が夢主を横目で捉えた。
「そんなっ……」
蒼紫を責めたくなるが、助けてくれた礼がまだだ。
夢主は反発したいのを堪えて素直に頭を下げた。
「ぁ……ありがとうございます……でもあの、女の観察って、葵屋にも……女の方は沢山……」
「あそこの女では駄目だ。堅気の、上玉の女を学んでいた」
「へっ、じょぅっ……」
何の拘りで何の為の勉強なのか、理解出来ない。
まさか翁に唆されて来たのでもあるまい。
どこに潜んで、どこからどこまでを観察されたのか、自分の一日を思い返す。
先程の身を清めている時も……
考えたくは無いが、そこだけ目を逸らす忍もいないだろう。
夢主の顔はすっかり火照っていた。
「何の為に……上玉ってあの……」
「翁が言っていた。あれは上玉だと。そして壬生狼達が屯所を離れているから学びに出向くには丁度良いとな」
「翁さんが……」
まさか幹部の皆が屯所から離れ、取り残された夢主の身を案じてくれたわけは無いだろうが、翁が冗談ではなく、意味を持って蒼紫を差し向けたらしい。
「だが尻餅をつく上玉など訊いたことがない。翁の思い違いではないのか」
「っう……」
夢主は頬を真っ赤にして昨日の出来事を思い出した。昨日の夜も蒼紫は見ていたのだ。
それにしても無口だと思っていた蒼紫にしては饒舌なほどによく話す……夢主は不思議そうに眺めた。
「まぁいい。礼など必要ないが……今日も一日よく見せてもらった」
「えっ……」
「なかなかに興味深い」
姿勢を変えずにいた蒼紫が体を動かし、夢主の目の前に片膝をついて座り直した。
ふっと夢主の前に右手を差し出す。
何かを握っている様子に、夢主は両手を器のように揃えて、そっと差し出した。
それを見て手を開いた蒼紫、小さな花が夢主の手に降りてきた。
「藤っ……じゃぁ……」
「昨日の花は返してもらう。花はすぐ傷む。秘伝の薬水につければ話は別だが……」
そう言うと蒼紫は反対の手で自らの懐から少ししおれた昨日の藤の花を取り出し、顔の前で摘まんで眺めた。
「あっ!!」
斎藤の机に置いたと思った藤の花は蒼紫が回収していたのだ。
「狂い咲き……条件を整えてやれば花の咲き散りも容易に行える……己が望みで咲けぬのは可哀想だがな」
「ぇ……」
「物を残すのは、確かに現れたと示す伝達方法のひとつ。葵の葉を置いては余りに芸が無かろう。この藤は蒼く……とても美しい」
蒼紫は自らの手にある藤に目をやり呟いた。その仕草がとても妖艶に感じられた。
ただの少年でしかないと思っていた蒼紫だが、藤の蒼に魅せられているのか、伏し目がちに細めるさまはとても艶やかだった。
「花一つは小さく華奢だが集まれば真に華やかな藤となる。大きな房を幾つも支える幹に枝、陰ながらも何と逞しい……我等が影の存在に相応しい花であろう」
蒼紫が夢主を横目で捉えた。