56.紫の蝶、蒼く(しのちょう、あおく)
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ちゃぷ……ちゃぷ……っ
桶に手を入れて何度目か、何か別の音が重なっていることに気が付いた。
「ぇっ……」
手を止めて耳を澄ますが物音はしない。
しかし、不意に背筋に悪寒が走った。
幾度かこの屯所で怖い目にあってきた。この悪寒はその幾度かの時と同じもの。
夢主は用心深く肌蹴ていた寝巻を手繰り寄せて夜帯をしっかり結び、もう一度桶に手を入れわざと水音を立てた。
ちゃぷ……ちゃ…… きしっ
「っ!!」
今までと違う水音の繰り返しをすると、重なっていた物音がずれた。
音が廊下を忍び足で進み、床板が軋む音だと分かる。
「だっ、誰ですかっ!!何か用があるなら明日にして下さいっ!!」
夢主は怯むことなく大声を上げた。
返事は無かった。物音もなく静まり返っている。
静寂が張り詰めて感じるのは気のせいか。
「何……気のせいじゃなかったよ……」
夢主は寝巻を押さえるように両手で胸元を掴み、衝立から体を出した。障子越しに部屋の外の様子を探る。
人影は無く静かだ。
「おかしいな……山崎さんだったのかな……」
衿先を引っぱり胸元の緩みも直し、改めて部屋の外を覗いた。
廊下にも庭にも誰もいない。
「やっぱり気のせいだったのかな……私っていつもこうだなぁ……」
ふぅっと気を緩めて呟き、障子に手をやり部屋に戻ろうと外から目を逸らした。
すると突然迫る、黒い大きな影が認識できた。
夢主が辺りを見た時、反射的に縁側から庭に下りていたその影は、縁の下に隠れていたのだ。
もっとよく調べれば大きな体は容易に確認出来だろう。だが夜の薄暗さも相まって、夢主は男の影を見逃していた。
「何っ、山崎さんっ?!!」
咄嗟に叫ぶも、月明かりを遮った黒い影は応えなかった。
目の前にそびえるのは昨日見た山崎よりも遥かに大きな影。
「や……っ」
斎藤よりも大きな骨ばった手が、夢主の声を押さえ込むべく口を塞いだ。
「っ……」
やっと確認できた顔ははっきり分からないが、見覚えはある。仮病の隊士なのだろう。
足を掛けて倒されて、夢主は背中を畳みに打ち付けた。
「っふ、」
倒れた夢主は痛みを漏らすが、塞がれた口からは息が漏れるだけだった。
「お前を誘った馬鹿達は殺やれちまった……だが今日はお偉い先生方が皆出ちまってる……お前を犯るだけやって西へ逃げちまえば、それでいいんだ……」
正気の色を失った目で夢主を見て、呆けたように呟いた。
口を押さえる手とは反対の手で夢主の両手首と押さえ上げる。
腐っても新選組の隊士、教えられた柔術の技で体の小さな女を押さえ込むなど簡単すぎる行為だった。
「こんな所とっとと逃げちまえば良かったんだ……もうご免だ……女も買えねぇ……稽古だって言っては散々痛めつけられて……挙句命を捨てろとよ……」
「っ!!」
押さえる手に力が加わり、夢主は顔をしかめた。
口を押さえる手の力も強過ぎる。呼吸がままならず、徐々に苦しくなっていく。
「だったらせめて……ずっと眺めていたお前を味わってから逃げてやる……悔しがる副長や斎藤先生の顔が見てみたいぜ……へへっ……」
「っ……」
……やめっ……やめてっ……
声を出せず、息もまともに出来ない。夢主は泣いている自分に気が付いた。
頭が徐々に白み始め、力が抜けていく。
……ごめんなさぃ……斎藤……さん……
瞳を閉じようかという時、急に目の前の黒い大きな影が消え、月明かりが夢主に届いた。
影に慣れた目には眩しいほどの光。
体に受けていた力が消え、大きく息を吸うことが出来た。
「ふぁっ……」
苦しかった息を整えたい夢主は大きく口を開けた。
桶に手を入れて何度目か、何か別の音が重なっていることに気が付いた。
「ぇっ……」
手を止めて耳を澄ますが物音はしない。
しかし、不意に背筋に悪寒が走った。
幾度かこの屯所で怖い目にあってきた。この悪寒はその幾度かの時と同じもの。
夢主は用心深く肌蹴ていた寝巻を手繰り寄せて夜帯をしっかり結び、もう一度桶に手を入れわざと水音を立てた。
ちゃぷ……ちゃ…… きしっ
「っ!!」
今までと違う水音の繰り返しをすると、重なっていた物音がずれた。
音が廊下を忍び足で進み、床板が軋む音だと分かる。
「だっ、誰ですかっ!!何か用があるなら明日にして下さいっ!!」
夢主は怯むことなく大声を上げた。
返事は無かった。物音もなく静まり返っている。
静寂が張り詰めて感じるのは気のせいか。
「何……気のせいじゃなかったよ……」
夢主は寝巻を押さえるように両手で胸元を掴み、衝立から体を出した。障子越しに部屋の外の様子を探る。
人影は無く静かだ。
「おかしいな……山崎さんだったのかな……」
衿先を引っぱり胸元の緩みも直し、改めて部屋の外を覗いた。
廊下にも庭にも誰もいない。
「やっぱり気のせいだったのかな……私っていつもこうだなぁ……」
ふぅっと気を緩めて呟き、障子に手をやり部屋に戻ろうと外から目を逸らした。
すると突然迫る、黒い大きな影が認識できた。
夢主が辺りを見た時、反射的に縁側から庭に下りていたその影は、縁の下に隠れていたのだ。
もっとよく調べれば大きな体は容易に確認出来だろう。だが夜の薄暗さも相まって、夢主は男の影を見逃していた。
「何っ、山崎さんっ?!!」
咄嗟に叫ぶも、月明かりを遮った黒い影は応えなかった。
目の前にそびえるのは昨日見た山崎よりも遥かに大きな影。
「や……っ」
斎藤よりも大きな骨ばった手が、夢主の声を押さえ込むべく口を塞いだ。
「っ……」
やっと確認できた顔ははっきり分からないが、見覚えはある。仮病の隊士なのだろう。
足を掛けて倒されて、夢主は背中を畳みに打ち付けた。
「っふ、」
倒れた夢主は痛みを漏らすが、塞がれた口からは息が漏れるだけだった。
「お前を誘った馬鹿達は殺やれちまった……だが今日はお偉い先生方が皆出ちまってる……お前を犯るだけやって西へ逃げちまえば、それでいいんだ……」
正気の色を失った目で夢主を見て、呆けたように呟いた。
口を押さえる手とは反対の手で夢主の両手首と押さえ上げる。
腐っても新選組の隊士、教えられた柔術の技で体の小さな女を押さえ込むなど簡単すぎる行為だった。
「こんな所とっとと逃げちまえば良かったんだ……もうご免だ……女も買えねぇ……稽古だって言っては散々痛めつけられて……挙句命を捨てろとよ……」
「っ!!」
押さえる手に力が加わり、夢主は顔をしかめた。
口を押さえる手の力も強過ぎる。呼吸がままならず、徐々に苦しくなっていく。
「だったらせめて……ずっと眺めていたお前を味わってから逃げてやる……悔しがる副長や斎藤先生の顔が見てみたいぜ……へへっ……」
「っ……」
……やめっ……やめてっ……
声を出せず、息もまともに出来ない。夢主は泣いている自分に気が付いた。
頭が徐々に白み始め、力が抜けていく。
……ごめんなさぃ……斎藤……さん……
瞳を閉じようかという時、急に目の前の黒い大きな影が消え、月明かりが夢主に届いた。
影に慣れた目には眩しいほどの光。
体に受けていた力が消え、大きく息を吸うことが出来た。
「ふぁっ……」
苦しかった息を整えたい夢主は大きく口を開けた。