56.紫の蝶、蒼く(しのちょう、あおく)
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朝の屯所。
夢主はとてもすっきり目覚めていた。
同じ京、近くに皆がいると思えば不安が和らいだ。
更に山崎がしっかり見守っていると伝えてくれたお陰で、残った不安も消え去り、ぐっすりと深く眠れた。
一日ひとりで過ごしていると目に入る仮病の隊士達。見つけては身構えてしまう。
近付く素振りは無いが、それでも姿が目に入れば気になり、それはあちらも同じで、振り向いた隊士としばしば目が合った。
おかしな行いをしていた衆道もどきの二人は心配要らないと斎藤が言っていた。
きっと何らかの処分が下り、周りの隊士達もその事を知って変な気を起こしようがないのだろう。
夢主は自分に言い聞かせた。
勝手元の手伝いをしたり、縫い物をしたり。
こまごました洗物を手伝い、庭の履き掃除を手伝い、充実した一日が過ぎていった。
「あの、このお屋敷に藤の花ってありますか……」
手伝いをしながら夢主はふと夕べのことを思い出した。
庭の掃除をしても目につく似た花は無かった。
「藤どすか……ここにはあらへん思うけどなぁ……季節もすぎてはるやろ」
「そうですか……」
家の者も心当たりなしと言った様子で首を傾げた。
「どこから来たのかな……」
「どうかしたん?」
「いえっ、あの、小さな器をお借りできますか、お花を水につけておいたら少しでも持つかなって……」
「せやなぁ少しは持つやろなぁ。好きに使ってかましまへんで、花もろぉたんか?」
「いえぇ、拾ったんです」
ふふっと誤魔化すように笑って夢主は程よい器を借り、軽い足取りで部屋へ戻った。
「あれっ……」
斎藤の机の上を見ると、確かに置いたはずの藤の花が消えていた。
「なんで……確かに、ここに……」
水の入った器をことりと置いて、周りを探す。
「おかしいなぁ……んん……?」
誰か部屋に入ったのだろうか。
猫が花を咥えて……?
藤の花が消えた理由も花の行方もわからないまま、水が入った器はそのまま斎藤の机に置かれた。
気にしても仕方が無く、夢主はその日を過ごした。
夕飯も終えて手の開いた夢主。
汗を掻き、掃除で埃を吸った肌を清めようと手拭いと小さな桶を部屋に運んだ。
「さすがに湯浴みは怖いから……」
いつもそばで待ってくれる斎藤も沖田もいない。
夢主は着物から寝巻に着替え、帯を軽く結ぶだけで体を露にし、固く絞った手拭いで体を清めていった。
水は昼間の熱でぬるく温まっている。
それでも湿り気のある布を体に這わせると肌がすぅっと冷え、じっとりへばりついた物が消えていくようで心地良かった。
「ふふっ、すっきりする……」
ちゃぷっと小さな水音を立てながら何度も手拭いを濡らした。
夢主はとてもすっきり目覚めていた。
同じ京、近くに皆がいると思えば不安が和らいだ。
更に山崎がしっかり見守っていると伝えてくれたお陰で、残った不安も消え去り、ぐっすりと深く眠れた。
一日ひとりで過ごしていると目に入る仮病の隊士達。見つけては身構えてしまう。
近付く素振りは無いが、それでも姿が目に入れば気になり、それはあちらも同じで、振り向いた隊士としばしば目が合った。
おかしな行いをしていた衆道もどきの二人は心配要らないと斎藤が言っていた。
きっと何らかの処分が下り、周りの隊士達もその事を知って変な気を起こしようがないのだろう。
夢主は自分に言い聞かせた。
勝手元の手伝いをしたり、縫い物をしたり。
こまごました洗物を手伝い、庭の履き掃除を手伝い、充実した一日が過ぎていった。
「あの、このお屋敷に藤の花ってありますか……」
手伝いをしながら夢主はふと夕べのことを思い出した。
庭の掃除をしても目につく似た花は無かった。
「藤どすか……ここにはあらへん思うけどなぁ……季節もすぎてはるやろ」
「そうですか……」
家の者も心当たりなしと言った様子で首を傾げた。
「どこから来たのかな……」
「どうかしたん?」
「いえっ、あの、小さな器をお借りできますか、お花を水につけておいたら少しでも持つかなって……」
「せやなぁ少しは持つやろなぁ。好きに使ってかましまへんで、花もろぉたんか?」
「いえぇ、拾ったんです」
ふふっと誤魔化すように笑って夢主は程よい器を借り、軽い足取りで部屋へ戻った。
「あれっ……」
斎藤の机の上を見ると、確かに置いたはずの藤の花が消えていた。
「なんで……確かに、ここに……」
水の入った器をことりと置いて、周りを探す。
「おかしいなぁ……んん……?」
誰か部屋に入ったのだろうか。
猫が花を咥えて……?
藤の花が消えた理由も花の行方もわからないまま、水が入った器はそのまま斎藤の机に置かれた。
気にしても仕方が無く、夢主はその日を過ごした。
夕飯も終えて手の開いた夢主。
汗を掻き、掃除で埃を吸った肌を清めようと手拭いと小さな桶を部屋に運んだ。
「さすがに湯浴みは怖いから……」
いつもそばで待ってくれる斎藤も沖田もいない。
夢主は着物から寝巻に着替え、帯を軽く結ぶだけで体を露にし、固く絞った手拭いで体を清めていった。
水は昼間の熱でぬるく温まっている。
それでも湿り気のある布を体に這わせると肌がすぅっと冷え、じっとりへばりついた物が消えていくようで心地良かった。
「ふふっ、すっきりする……」
ちゃぷっと小さな水音を立てながら何度も手拭いを濡らした。