56.紫の蝶、蒼く(しのちょう、あおく)
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辺りはすっかり暗くなり、一人の夢主は早く床に入ってしまおうと布団を敷いた。
一人の夜に障子を開け放ってはさすがに恐い。障子を閉めようと近付いた。
満月を過ぎたばかりの未だ大きな月が浮かぶ夜空。
縁側で見上げた夢主は、ふと庭に目を落した。花びらがひとつ落ちている。
丸みを帯びた小さな蝶のような形で、淡い紫のような青のような美しい色。
「花びら……違う、これ藤の花……」
見覚えのある花だった。
普段はたくさんの花が房となり、蔓を伸ばして空を染め、見上げるものを魅了する藤の花。
一輪だけ手に取り見ることは珍しい。
それでも夢主は古くから日本に花開き、いにしえの歌にも多く詠まれてきた藤の花だろうと見当をつけた。
「どうしてここに……山崎さんが……まさか……ね」
山崎が去った後、確かに庭を目にしていたはずだ。
もし花が落ちていれば、さすがに気付く。
不思議に思いながら庭に下りて藤の花を摘まみ上げ、月明かりの中、観察するように回して眺めた。
「なんだろう……」
答えが見つからないまま夢主は部屋に戻り、室内を見回した。
迷った挙句、斎藤の小さな机の上に花を置いた。
「可愛いな……帰ってくる頃にはしおれちゃうんだろうな」
夢主は小さな花に微笑みかけ、床に身を滑らせた。
一方、西本願寺では山崎が土方に夢主の様子を報告していた。
斎藤と沖田も近くに寄って耳を傾けている。
「それで、変わりは無かったか」
土方の問いに頷き、屯所での様子を報告した。
「はい、不安な顔色も無く心配無用かと」
「そうか、落ち着いていたか。安心したぜ……どうした」
山崎がぴくりと口元を動かしたのを土方は見逃さなかった。
「いえ……大した事ではありませんで……」
「いいから報告しろ」
「尻餅を……ついておりました」
「っぷははははっ!!尻餅っ……夢主ちゃんっ、くっくっく……」
傍で立ち聞きしていた沖田が堪らず噴き出した。
「フッ……相変わらずの阿呆ぅか」
斎藤も姿を思い描いて口角を緩めた。
二人とも緩んだ顔で土方の前までやって来た。
「申し訳ございません……私が突然現れ驚かしてしまったせいでしょう。少し痛そうに擦っておられましたがご安心を、大事ありませんでした」
「クッ、そいつはまた目に浮かぶ」
「あははっ、痛かっただろうね!!うんうん!!はははっ」
容易に思い浮かぶその光景に、斎藤も沖田も笑わずにいられなかった。
「そりゃそうだろうよ、尻餅くらいで大事が起こってたまるかってんだ。一々気にするな」
土方は笑う二人を尻目に山崎をたしなめた。
山崎は恥ずかしい報告をしてしまったと申し訳なく感じ、僅かに表情を変え頷いた。
「山崎、ご苦労だったな。少し休め」
「はっ」
山崎は軽く一礼し、斎藤と沖田に小声で「笑いすぎですよ……」と呟いて去っていった。
「あははっ、だって夢主ちゃん尻餅って可愛いじゃない!」
「フン、驚いたくらいで尻餅とはな」
「おぅおぅ、お前等も笑ってねぇで少し休んでおけ」
「はぁ~~いっ!!ふふふっ、夢主ちゃんのおかげで今夜もいい眠りにつけそうです」
「フフン、そうだな」
では、と目礼して去って行く二人はいつまでも肩が小さく揺れている。
土方は溜息を吐いて眺めた。
「全くあいつらは笑いすぎだろ……しかし……尻餅とはな……ふっ、あの馬鹿」
斎藤達の背中から顔を背け、土方もひっそりと小さく肩を揺らした。
一人の夜に障子を開け放ってはさすがに恐い。障子を閉めようと近付いた。
満月を過ぎたばかりの未だ大きな月が浮かぶ夜空。
縁側で見上げた夢主は、ふと庭に目を落した。花びらがひとつ落ちている。
丸みを帯びた小さな蝶のような形で、淡い紫のような青のような美しい色。
「花びら……違う、これ藤の花……」
見覚えのある花だった。
普段はたくさんの花が房となり、蔓を伸ばして空を染め、見上げるものを魅了する藤の花。
一輪だけ手に取り見ることは珍しい。
それでも夢主は古くから日本に花開き、いにしえの歌にも多く詠まれてきた藤の花だろうと見当をつけた。
「どうしてここに……山崎さんが……まさか……ね」
山崎が去った後、確かに庭を目にしていたはずだ。
もし花が落ちていれば、さすがに気付く。
不思議に思いながら庭に下りて藤の花を摘まみ上げ、月明かりの中、観察するように回して眺めた。
「なんだろう……」
答えが見つからないまま夢主は部屋に戻り、室内を見回した。
迷った挙句、斎藤の小さな机の上に花を置いた。
「可愛いな……帰ってくる頃にはしおれちゃうんだろうな」
夢主は小さな花に微笑みかけ、床に身を滑らせた。
一方、西本願寺では山崎が土方に夢主の様子を報告していた。
斎藤と沖田も近くに寄って耳を傾けている。
「それで、変わりは無かったか」
土方の問いに頷き、屯所での様子を報告した。
「はい、不安な顔色も無く心配無用かと」
「そうか、落ち着いていたか。安心したぜ……どうした」
山崎がぴくりと口元を動かしたのを土方は見逃さなかった。
「いえ……大した事ではありませんで……」
「いいから報告しろ」
「尻餅を……ついておりました」
「っぷははははっ!!尻餅っ……夢主ちゃんっ、くっくっく……」
傍で立ち聞きしていた沖田が堪らず噴き出した。
「フッ……相変わらずの阿呆ぅか」
斎藤も姿を思い描いて口角を緩めた。
二人とも緩んだ顔で土方の前までやって来た。
「申し訳ございません……私が突然現れ驚かしてしまったせいでしょう。少し痛そうに擦っておられましたがご安心を、大事ありませんでした」
「クッ、そいつはまた目に浮かぶ」
「あははっ、痛かっただろうね!!うんうん!!はははっ」
容易に思い浮かぶその光景に、斎藤も沖田も笑わずにいられなかった。
「そりゃそうだろうよ、尻餅くらいで大事が起こってたまるかってんだ。一々気にするな」
土方は笑う二人を尻目に山崎をたしなめた。
山崎は恥ずかしい報告をしてしまったと申し訳なく感じ、僅かに表情を変え頷いた。
「山崎、ご苦労だったな。少し休め」
「はっ」
山崎は軽く一礼し、斎藤と沖田に小声で「笑いすぎですよ……」と呟いて去っていった。
「あははっ、だって夢主ちゃん尻餅って可愛いじゃない!」
「フン、驚いたくらいで尻餅とはな」
「おぅおぅ、お前等も笑ってねぇで少し休んでおけ」
「はぁ~~いっ!!ふふふっ、夢主ちゃんのおかげで今夜もいい眠りにつけそうです」
「フフン、そうだな」
では、と目礼して去って行く二人はいつまでも肩が小さく揺れている。
土方は溜息を吐いて眺めた。
「全くあいつらは笑いすぎだろ……しかし……尻餅とはな……ふっ、あの馬鹿」
斎藤達の背中から顔を背け、土方もひっそりと小さく肩を揺らした。