56.紫の蝶、蒼く(しのちょう、あおく)
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今日は一日とにかく頑張ろうと気合を入れた夢主。
片付けの後は部屋に戻り、溜まっていた縫い物に手をつけた。時間を無駄にしまいと手を動かす。
今回も多くの隊士が出陣した。
しかし昨今の新選組には怠け者もいるようで、仮病を使って日頃から巡察や出陣を逃れようとする者がいる。
本当の病や傷を抱えて寝込む者からすればいい迷惑だ。
この日も幾人かが出陣を逃れて屯所に籠っていた。
時折、厠や勝手元へ行く様子が窺える。
そのうち土方達が新選組から追い出すのか、いっそ不向きを理由に正式に脱隊するか、幹部達の留守に脱走でもしてくれればと思っているかもしれない。
怠け者や臆病者に無駄に給金をくれてやる謂れはないのだ。
夢主は身を縮めてこそこそ動き回る仮病隊士を見ては手を止め、脱隊が全く認められていないわけでは無かった、そんな記憶を思い返していた。
日が暮れ始めても、出陣した斎藤達は戻らなかった。
「どうしたんだろぅ……探索に手間取ってるのかな……六条……うぅん覚えてないなぁ……」
夢主は記憶の中から今日の事柄に関する事項を探ったが、何も思い浮かばなかった。
寝巻に着替えて外を覗いた夢主、急に目の前を通り過ぎる影に驚いた。
慌てて仰け反ると体勢を崩し、その場に尻餅をついて座りこんだ。
「きゃあ!!」
「あっ、落ち着いてください、夢主さん、私です。山崎です……」
山崎は中庭にひざまずき、夢主が尻餅をつく様子を見ながら名乗った。
笑いを噛み殺して見える。
「やっ、山崎さん……」
恥ずかしそうにお尻を擦りながら縁側に座り直した夢主、山崎の名を呼びながら確かに山崎であると顔を凝視した。
「隊の皆は今宵、西本願寺にて休息します。それを伝えに参りました。貴女がきっと心配すると土方さんが……」
伝えながら、そこまで伝えなくても良いかと、山崎は気まずく口を閉ざした。
「そうですか……あの、ありがとうございます。わざわざ来て下さって」
「いえ……務めですから……」
低い位置から見上げて話す山崎は、夢主が落ち着いていることを確認した。
目が合うとすかさず逸らし、話を続けた。
「長州に動きがあり隊は暫く屯所を空けるかもしれません。不安でしょうがどうかご安心を。時を見て私や代わりの者が様子を見に戻ります。時が惜しいのでこちらから声は掛けません。何かあれば文をしたためて障子戸に挟んで下さい。副長や斎藤先生にお届けします」
「わかりました……ありがとうございます」
「では……」
「はぃ」
山崎は畏まって夢主の表情を今一度確かめてから姿を消した。
「そっか……戻らないんだ……」
それでも隊務での離別ならばと、夢主は自らに言い聞かせた。
片付けの後は部屋に戻り、溜まっていた縫い物に手をつけた。時間を無駄にしまいと手を動かす。
今回も多くの隊士が出陣した。
しかし昨今の新選組には怠け者もいるようで、仮病を使って日頃から巡察や出陣を逃れようとする者がいる。
本当の病や傷を抱えて寝込む者からすればいい迷惑だ。
この日も幾人かが出陣を逃れて屯所に籠っていた。
時折、厠や勝手元へ行く様子が窺える。
そのうち土方達が新選組から追い出すのか、いっそ不向きを理由に正式に脱隊するか、幹部達の留守に脱走でもしてくれればと思っているかもしれない。
怠け者や臆病者に無駄に給金をくれてやる謂れはないのだ。
夢主は身を縮めてこそこそ動き回る仮病隊士を見ては手を止め、脱隊が全く認められていないわけでは無かった、そんな記憶を思い返していた。
日が暮れ始めても、出陣した斎藤達は戻らなかった。
「どうしたんだろぅ……探索に手間取ってるのかな……六条……うぅん覚えてないなぁ……」
夢主は記憶の中から今日の事柄に関する事項を探ったが、何も思い浮かばなかった。
寝巻に着替えて外を覗いた夢主、急に目の前を通り過ぎる影に驚いた。
慌てて仰け反ると体勢を崩し、その場に尻餅をついて座りこんだ。
「きゃあ!!」
「あっ、落ち着いてください、夢主さん、私です。山崎です……」
山崎は中庭にひざまずき、夢主が尻餅をつく様子を見ながら名乗った。
笑いを噛み殺して見える。
「やっ、山崎さん……」
恥ずかしそうにお尻を擦りながら縁側に座り直した夢主、山崎の名を呼びながら確かに山崎であると顔を凝視した。
「隊の皆は今宵、西本願寺にて休息します。それを伝えに参りました。貴女がきっと心配すると土方さんが……」
伝えながら、そこまで伝えなくても良いかと、山崎は気まずく口を閉ざした。
「そうですか……あの、ありがとうございます。わざわざ来て下さって」
「いえ……務めですから……」
低い位置から見上げて話す山崎は、夢主が落ち着いていることを確認した。
目が合うとすかさず逸らし、話を続けた。
「長州に動きがあり隊は暫く屯所を空けるかもしれません。不安でしょうがどうかご安心を。時を見て私や代わりの者が様子を見に戻ります。時が惜しいのでこちらから声は掛けません。何かあれば文をしたためて障子戸に挟んで下さい。副長や斎藤先生にお届けします」
「わかりました……ありがとうございます」
「では……」
「はぃ」
山崎は畏まって夢主の表情を今一度確かめてから姿を消した。
「そっか……戻らないんだ……」
それでも隊務での離別ならばと、夢主は自らに言い聞かせた。