54.謹慎の最中
夢主名前設定
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騒ぎが収まると、斎藤は葛籠の中から何やら荷物を取り出した。
小さく真っ黒い漆塗りの木箱。表面に細かな傷が幾つかあるが、長年大切に扱われてきたと伝わる。
中には刀の手入れ道具が入っていた。
「おっ、斎藤さん刀の手入れですか」
「あぁ。今、汚い鼻脂と血をつけられたからな。気に食わん」
そう言うと道具を広げる為に布団を畳み始めた。
「あっ、私がやりますっ」
「構わん」
夢主が申し出るが、斎藤は短く断り手早く布団を片付けてしまった。
それを見て沖田も腰を上げた。
「僕も一緒に手入れしようかな~道具持ってこよおっと」
「刀の手入れくらい自分の部屋でしたらどうだ」
「えぇーいいじゃないですか、今日は三人揃って謹慎!って、土方さん言ってましたでしょ」
そう言い、にこにこと足早に去っていった。
沖田はついでに着替えるつもりだ。着替えて戻ったら、一日をそのまま斎藤の部屋で過ごすつもりだ。
夢主も衝立の奥の自分の布団を片付け、斎藤は着替えを済ませようとおもむろに立ち上がった。
「先に着替えるか」
「いいんですか」
「あぁ」
その方が都合が良い。刀の手入れはそれからで構わないと、夢主の為に部屋を空けた。
急いで着替える夢主だが、着替え終わるより早く沖田が戻ってきた。
「おや、夢主ちゃんも着替えですか」
「あぁ」
「じゃぁ喜んで待ちましょうか」
「フン」
部屋に背を向け嬉しそうに立つ沖田と、庭を眺めて立つ斎藤。
縁側にいても日差しの照り返しを受け、目を突く眩しさを感じる。細目で見る庭は近くて遠い、妙な錯覚に陥る。
斎藤が更に目を細めると、間もなく中から声が掛かった。
「ありがとうございました」
「構わん」
「ふふっ」
いつもの小袖に着替えた夢主を確認するように視線を動かし、斎藤は部屋に戻った。
沖田は夢主の姿に顔を綻ばせた。
そうこうしているうちに斎藤も着替えを済ませ、手入れ道具を広げ始めた。
「あれ?夢主ちゃん……?」
「あの、私はこちらで……」
斎藤が刀の手入れをする時、夢主はいつも邪魔にならぬよう衝立の向こうに控えている。
物静かに刀に向き合う斎藤の所作が気高く感じられ、恐れ多い気持ちになるのだ。
この日も大人しく姿を隠して座った。
「そうなんだ……」
沖田は不思議そうに首を傾けるが、夢主なりに礼を尽くしている様子を微笑ましいと、頬を緩めた。
沖田自身も斎藤から距離を取って座る。
二人揃って自らの道具を前に懐紙を咥え、静かに手入れを始めた。
夢主にとっては緊張感が漂う厳かな時間。その姿を見てはならいない気がする。
実際は集中して無心に手入れする二人だが、夢主は衝立の向こうからピリピリするものを肌に感じていた。
衝立の奥で黙って姿勢を正し、二人が手入れを終えて口を開くのを待つ。
暫くすると二人が刀を納める音が夢主の耳に届いた。
心の奥が晴れる短い金属音だ。
「うん、いいでしょう」
「終いだ」
満足そうに言う沖田、斎藤も終わったと夢主に告げた。
「夢主ちゃん、ありがとう。もういいよ」
「はい……」
やや緊張を残した面持ちで夢主が顔を覗かせた。
自分達の行為に敬意を払っていると感じ、斎藤も沖田も意識せず夢主に優しく微笑んでいた。
刀を手にする意味を考えさせられる瞬間だ。
斎藤も沖田も気が引き締まる思いだった。
小さく真っ黒い漆塗りの木箱。表面に細かな傷が幾つかあるが、長年大切に扱われてきたと伝わる。
中には刀の手入れ道具が入っていた。
「おっ、斎藤さん刀の手入れですか」
「あぁ。今、汚い鼻脂と血をつけられたからな。気に食わん」
そう言うと道具を広げる為に布団を畳み始めた。
「あっ、私がやりますっ」
「構わん」
夢主が申し出るが、斎藤は短く断り手早く布団を片付けてしまった。
それを見て沖田も腰を上げた。
「僕も一緒に手入れしようかな~道具持ってこよおっと」
「刀の手入れくらい自分の部屋でしたらどうだ」
「えぇーいいじゃないですか、今日は三人揃って謹慎!って、土方さん言ってましたでしょ」
そう言い、にこにこと足早に去っていった。
沖田はついでに着替えるつもりだ。着替えて戻ったら、一日をそのまま斎藤の部屋で過ごすつもりだ。
夢主も衝立の奥の自分の布団を片付け、斎藤は着替えを済ませようとおもむろに立ち上がった。
「先に着替えるか」
「いいんですか」
「あぁ」
その方が都合が良い。刀の手入れはそれからで構わないと、夢主の為に部屋を空けた。
急いで着替える夢主だが、着替え終わるより早く沖田が戻ってきた。
「おや、夢主ちゃんも着替えですか」
「あぁ」
「じゃぁ喜んで待ちましょうか」
「フン」
部屋に背を向け嬉しそうに立つ沖田と、庭を眺めて立つ斎藤。
縁側にいても日差しの照り返しを受け、目を突く眩しさを感じる。細目で見る庭は近くて遠い、妙な錯覚に陥る。
斎藤が更に目を細めると、間もなく中から声が掛かった。
「ありがとうございました」
「構わん」
「ふふっ」
いつもの小袖に着替えた夢主を確認するように視線を動かし、斎藤は部屋に戻った。
沖田は夢主の姿に顔を綻ばせた。
そうこうしているうちに斎藤も着替えを済ませ、手入れ道具を広げ始めた。
「あれ?夢主ちゃん……?」
「あの、私はこちらで……」
斎藤が刀の手入れをする時、夢主はいつも邪魔にならぬよう衝立の向こうに控えている。
物静かに刀に向き合う斎藤の所作が気高く感じられ、恐れ多い気持ちになるのだ。
この日も大人しく姿を隠して座った。
「そうなんだ……」
沖田は不思議そうに首を傾けるが、夢主なりに礼を尽くしている様子を微笑ましいと、頬を緩めた。
沖田自身も斎藤から距離を取って座る。
二人揃って自らの道具を前に懐紙を咥え、静かに手入れを始めた。
夢主にとっては緊張感が漂う厳かな時間。その姿を見てはならいない気がする。
実際は集中して無心に手入れする二人だが、夢主は衝立の向こうからピリピリするものを肌に感じていた。
衝立の奥で黙って姿勢を正し、二人が手入れを終えて口を開くのを待つ。
暫くすると二人が刀を納める音が夢主の耳に届いた。
心の奥が晴れる短い金属音だ。
「うん、いいでしょう」
「終いだ」
満足そうに言う沖田、斎藤も終わったと夢主に告げた。
「夢主ちゃん、ありがとう。もういいよ」
「はい……」
やや緊張を残した面持ちで夢主が顔を覗かせた。
自分達の行為に敬意を払っていると感じ、斎藤も沖田も意識せず夢主に優しく微笑んでいた。
刀を手にする意味を考えさせられる瞬間だ。
斎藤も沖田も気が引き締まる思いだった。