「相生太夫とは何でもない。通っていない。夜の巡察、俺は好きなんだ。だがたまにはな、思うように自分が抑えられない夜もあるんだよ」

「え……」

太夫との関係と斎藤の弱音、夢主は耳を疑った。

「太夫さんの所へ……通っていたのでは……」

「通うか阿呆。自分の気持ちが落ち着くまでここを離れていただけだ。……すまんな、俺が不甲斐ないばかりに、お前まで悩ませてしまった」

「あっ……」

勝手に勘違いをして皆を振り回していたとは、夢主は穴があったら入りたいと顔を隠した。

「ずっと、だって久しぶりにって……言ってたから……ずっと……私が来る前からずっと、斎藤さんは……あの方に……」

斎藤は夢主にきつく言い返してしまった朝を思い出して苦い顔をした。

「とんだ勘違いだぜ、通ってなどいない。あの時の過ちは……認めるが」

「本当……ですか……」

「フンッ、お前がやきもちを妬くとは思わなかったがな」

「そのっ……」

咄嗟に赤くなった顔を斎藤から逸らした。
恥ずかしさを誤魔化そうと、思い込みで突っ走った言い訳を考えるが何も浮かばない。もじもじと自分の着物を弄る。そんな夢主を見て、斎藤は首を振った。

「まぁ嬉しいさ、どうでも良い事を気に掛けてくれたな。フッ、話せばまた苦しめてしまうかと思ったんだが」

「そんな……斎藤さんは……そんなにお辛い夜を過ごされていたのですか」

斎藤の話を聞いた途端、夢主の顔付きが変わり始めた。
その変化に沖田は苦笑いし、斎藤は苦虫を噛み潰したような顔になる。
思った通り、他人の苦しみを自分の事以上に感じる夢主。男二人、そのさまに胸を締め付けられた。

「夢主、お前が気にする必要はない。お前がどうにか出来るわけでもないしな。ただ話さなかった事は謝る。その顔を見てやはりと思ったが、お前は他人の事で気を揉み過ぎる。だから話すのを躊躇ったんだよ」

話しても話さなくてもお前が思い悩む、だから言うべきか否か迷っていた。斎藤の言葉で夢主は目を伏せた。

「斎藤さん、お優しいですね……ごめんなさい……」

互いに互いを気に掛け、すれ違って悩んでいた。
辛く思う夢主だが、斎藤はフッと息を漏らして笑った。

「お前に言われたくはないな。お前のほうがよっぽどだろうよ」

「そっ、そんな……」

「斎藤さんがいなくて不安な時は僕を呼んでくださいね、前みたいに朝まで傍にいますよ」

二人を見守って話に耳を傾けていた沖田が口を開いた。

「僕はいつでもお力になりますし、夢主ちゃんの味方です。まぁたまには斎藤さんの力にもなってあげますからっ、ははっ」