52.仕置きと罰
夢主名前設定
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「あらまぁ、驚くほどに弱ぃお方」
「ははっ、俺も見るのは初めてだ。噂に聞いていたがこれ程とは思わなかったぜ」
土方は眠る夢主の背中にそっと自分の羽織りをかけてやった。
「すこぃわぁ……憎ぃくらいに……かぃらしい娘ぉや」
座り直した土方に酌を続けながら太夫は言った。
目が合い、夢主が自分にやきもちを妬いていると容易く分かった。
しかし実際は太夫とて夢主に嫉妬せずにはいられなかった。
「土方さんもこの娘もすこいわぁ。うちにこの娘見せに来て、斎藤はんを忘れろぉ言う気どっしゃろ」
「まぁ、近からず遠からず、だな」
酒を口に運びならがニヤリと口角を上げる土方。
「いけずなお人っ」
太夫は酌を繰り返し呟くと、横目で顔を覗いた。
「それで土方はん、どないしはるん、斎藤はんの変わりに馴染みになってくらはるんどすか。いつかはうちの帯を解いてくれはるんやろか。斎藤はんが来はるんを、どれだけ心待ちにしてたか……このままでは淋しおす……」
客に言う言葉ではないが、ただの客として来ている訳でもないとの暗黙の了解に、太夫も本音を漏らした。
芸を披露するでもなく、ただ酌だけをしていた。
太夫はあの夜以来、斎藤が再び自分を訪れる日が来まいかと、ほのかな希望を胸にくすぶらせていた。
花街に生きる女が望んではいけない光だと知りつつ、斎藤に希望を見ていた。
その光を忘れろと言うのならば……代わりの光で照らしてはくれまいか。
太夫は抱いてしまった希望を手放したくなかった。
「それは出来ねぇな」
土方は少しも揺らぐ様子を見せず断った。
「いくらなんでもそいつは無理だ。斎藤にあれこれと口を出しておいて、俺がお前を抱いちまったら、ただの横恋慕だろうぜ」
「横恋慕とはまた、ふふふっ、土方はんも見かけによらへんなぁ、可愛らしいお人やないの」
「うるせぇよ。今夜は酒だけ美味く頂くぜ。夜が開けたらこいつをつれて帰る。すまねぇな。それから……」
「かましまへん……お客はんは斎藤はんだけやおへんし……」
言葉で強く伝えずとも、斎藤と会うのは控えてくれと望む土方の意思を悟った太夫はぽつりと呟いた。
「そうか、ならいいが」
土方も太夫の心残りを充分に察したが、とぼけて答えた。
「なぁ、土方はん、この娘ぉは斎藤はんのえぇおひとなんやろか……おせぇてはくれへんやろか……」
太夫は、せめて目の前で愛らしく眠る女の身の上を知りたかった。
「こいつは……新選組で預かっている、……巫女だ。斎藤が面倒を見ている。それだけだ」
「……そぅどすか……」
太夫はお銚子を手にしたまま目を伏せた。
男の嘘など手に取るように分かる。真実を教えてもらえない自分の立場を受け入れるしかなかった。
「あぁ」
土方も目を伏せて酒を口にした。
夢主が特別な存在である事はもちろん伝えられない。
しかし女の心情を思えば互いに惹かれ合う二人だと、だから身を引いてくれと本音を伝えてやりたい。
だが花街で様々な藩の人間の相手をする太夫に詳しい内情はどうしても伝えられなかった。
土方は新選組の立場を一番に考えるしかなかったのだ。
「ふふっ、策士の土方はんにしては下手くそな嘘やゎぁ……」
近藤に伝えた巫女という嘘を貫こうとする土方の言葉を太夫はクスリと笑った。
「フン、悪いがこいつを寝かしてやりたいんだ。床を用意させてやってくれ」
「まぁ、憎らしい……みんなに大事にされてはるんやねぇ、ふふっ……」
この娘は土方にさえも愛されているのかと、自らの違いを自嘲して太夫は腰を上げた。
やがて用意された布団に移され、心地良さそうに眠る夢主を眺めるように見つめ、土方は酒を進めた。
人前で酒を呑む事の少ない土方。
この夜は静かに酒を味わった。
「ははっ、俺も見るのは初めてだ。噂に聞いていたがこれ程とは思わなかったぜ」
土方は眠る夢主の背中にそっと自分の羽織りをかけてやった。
「すこぃわぁ……憎ぃくらいに……かぃらしい娘ぉや」
座り直した土方に酌を続けながら太夫は言った。
目が合い、夢主が自分にやきもちを妬いていると容易く分かった。
しかし実際は太夫とて夢主に嫉妬せずにはいられなかった。
「土方さんもこの娘もすこいわぁ。うちにこの娘見せに来て、斎藤はんを忘れろぉ言う気どっしゃろ」
「まぁ、近からず遠からず、だな」
酒を口に運びならがニヤリと口角を上げる土方。
「いけずなお人っ」
太夫は酌を繰り返し呟くと、横目で顔を覗いた。
「それで土方はん、どないしはるん、斎藤はんの変わりに馴染みになってくらはるんどすか。いつかはうちの帯を解いてくれはるんやろか。斎藤はんが来はるんを、どれだけ心待ちにしてたか……このままでは淋しおす……」
客に言う言葉ではないが、ただの客として来ている訳でもないとの暗黙の了解に、太夫も本音を漏らした。
芸を披露するでもなく、ただ酌だけをしていた。
太夫はあの夜以来、斎藤が再び自分を訪れる日が来まいかと、ほのかな希望を胸にくすぶらせていた。
花街に生きる女が望んではいけない光だと知りつつ、斎藤に希望を見ていた。
その光を忘れろと言うのならば……代わりの光で照らしてはくれまいか。
太夫は抱いてしまった希望を手放したくなかった。
「それは出来ねぇな」
土方は少しも揺らぐ様子を見せず断った。
「いくらなんでもそいつは無理だ。斎藤にあれこれと口を出しておいて、俺がお前を抱いちまったら、ただの横恋慕だろうぜ」
「横恋慕とはまた、ふふふっ、土方はんも見かけによらへんなぁ、可愛らしいお人やないの」
「うるせぇよ。今夜は酒だけ美味く頂くぜ。夜が開けたらこいつをつれて帰る。すまねぇな。それから……」
「かましまへん……お客はんは斎藤はんだけやおへんし……」
言葉で強く伝えずとも、斎藤と会うのは控えてくれと望む土方の意思を悟った太夫はぽつりと呟いた。
「そうか、ならいいが」
土方も太夫の心残りを充分に察したが、とぼけて答えた。
「なぁ、土方はん、この娘ぉは斎藤はんのえぇおひとなんやろか……おせぇてはくれへんやろか……」
太夫は、せめて目の前で愛らしく眠る女の身の上を知りたかった。
「こいつは……新選組で預かっている、……巫女だ。斎藤が面倒を見ている。それだけだ」
「……そぅどすか……」
太夫はお銚子を手にしたまま目を伏せた。
男の嘘など手に取るように分かる。真実を教えてもらえない自分の立場を受け入れるしかなかった。
「あぁ」
土方も目を伏せて酒を口にした。
夢主が特別な存在である事はもちろん伝えられない。
しかし女の心情を思えば互いに惹かれ合う二人だと、だから身を引いてくれと本音を伝えてやりたい。
だが花街で様々な藩の人間の相手をする太夫に詳しい内情はどうしても伝えられなかった。
土方は新選組の立場を一番に考えるしかなかったのだ。
「ふふっ、策士の土方はんにしては下手くそな嘘やゎぁ……」
近藤に伝えた巫女という嘘を貫こうとする土方の言葉を太夫はクスリと笑った。
「フン、悪いがこいつを寝かしてやりたいんだ。床を用意させてやってくれ」
「まぁ、憎らしい……みんなに大事にされてはるんやねぇ、ふふっ……」
この娘は土方にさえも愛されているのかと、自らの違いを自嘲して太夫は腰を上げた。
やがて用意された布団に移され、心地良さそうに眠る夢主を眺めるように見つめ、土方は酒を進めた。
人前で酒を呑む事の少ない土方。
この夜は静かに酒を味わった。