51.想い違い
夢主名前設定
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一人になった夢主は必然的に斎藤の事ばかりを考えていた。
「池田屋の後から少し様子がおかしかったんだよね、斎藤さん……今日は落ち着いてて良かった……」
伝え聞くように血のせいで滾っているのか。
沖田が話していたが、激しい戦いで血を浴び続けると、おかしくなってしまうのだろうか。
その昂ぶりを抑えるのが、自分ではなく花街の女なのだろう。
自分が果たせない役目なのだから仕方が無い……言い聞かせてみるが、納得出来ない自分がいた。
「相手のお顔……見てみたいな……」
どうすれば顔が見られるのだろう。花街に行けば会えるのだろうか。
誰かに連れて行ってもらえばいいのだろう。
誰に、どう伝えれば良いのか。
斎藤の夜の相手が知りたいです……そんな願いを誰に伝えられるだろうか。
思い立って夢主は立ち上がると鉄扇を懐にしまい、突然屯所を出て行った。
衝動的な行動だった。
抱えた幾つ物の悩みを処理しきれず、吹っ切ったように屯所の外を走っている。
愚かな願いだと分かっているが、突発的に一人飛び出してしまったのだ。
……相手の女の人を……見てみたい……
夢主に思い当たるのは桔梗屋の相生太夫。
「天神さんって言ってたけど……京に来てすぐに出会っていたなら、今頃は太夫さんになっていてもおかしくないはず……」
頭の中の記憶の地図と、先日一度だけ男装姿で連れて行かれた記憶を元に島原へ向かった。
壬生の屯所から遠くない場所にあるはずだ。
「島原とは言え、桔梗屋ってそもそもどこにあるんだろう……島原に行ったらきっと新選組の隊士の皆さんがいらっしゃるんだろうな……見つからずに入るにはどうしたら……私一人でも入れるのかな……」
思いを巡らせながら島原を目指すが、すぐに新選組の隊士らしき見知った顔が見え、物陰に隠れるしかなかった。
「どうしよう、近づけない……原田さんなら協力してくれるかな……」
屯所にいなかった原田だが、よくこの辺りにいると話は聞いていた。
原田を探して辺りを見回すがその姿は見つからず、代わりに浅葱のだんだらの一団が遠くに見えた。原田の隊では無かった。
「わっ、こんな所も巡察するのっ?!」
夢主は慌てて身を隠し、別の通りへ走って行った。
「どうしよう……一回屯所へ戻らなきゃ……」
しかし、ぐるぐると走り回るうちに方向感覚を失った夢主、半泣きの状態である場所に辿り着いた。
「こっ……ここ……」
見上げる建物の入り口には見覚えのある『葵屋』の文字が堂々と掲げられていた。
立派な看板と店の造り。料亭の葵屋だ。
「葵屋……」
知った名前を目にして、気持ちが落ち着きを取り戻す。泣きべそもおさまっていった。
葵屋の前に立ち尽くしていると、中で誰かが入り口にやって来るのが分かり、再び物陰に隠れた。
様子を窺っていると翁が現れ、店の前で体操でもするように腰に手を当てて、体をくねくね動かし始めた。
何度か体を動かした後、仁王立ちして通りを眺めている。
「どうしよう……道を聞くだけなら平気かな……」
暫くすると翁は再び店の中へと戻って行った。
それを見届けて夢主は体を通りに出し、再び葵屋へ近付いて様子を見た。
「貴様客ではないな。先程から何を見張っている。何を企んでいる」
「えっ……」
突然誰かに手首を掴まれて振り返ると、夢主より背の高い若い男、いや少年が立っていた。
……あ……蒼紫様……
思わず声に出しそうになり、すんでのところで飲み込んだ。
新選組の面々と初めて出会った時の教訓を思い出したのだ。
「うろつきながら様子を窺い、女のくせに鉄扇を持ち歩くとは、堅気ではないのだろう」
「えっ……」
夢主の懐にある鉄扇に気付いていた蒼紫、しっかり手首を掴んだまま強い目つきで見据え、威圧しながら夢主の答えを待っている。
「池田屋の後から少し様子がおかしかったんだよね、斎藤さん……今日は落ち着いてて良かった……」
伝え聞くように血のせいで滾っているのか。
沖田が話していたが、激しい戦いで血を浴び続けると、おかしくなってしまうのだろうか。
その昂ぶりを抑えるのが、自分ではなく花街の女なのだろう。
自分が果たせない役目なのだから仕方が無い……言い聞かせてみるが、納得出来ない自分がいた。
「相手のお顔……見てみたいな……」
どうすれば顔が見られるのだろう。花街に行けば会えるのだろうか。
誰かに連れて行ってもらえばいいのだろう。
誰に、どう伝えれば良いのか。
斎藤の夜の相手が知りたいです……そんな願いを誰に伝えられるだろうか。
思い立って夢主は立ち上がると鉄扇を懐にしまい、突然屯所を出て行った。
衝動的な行動だった。
抱えた幾つ物の悩みを処理しきれず、吹っ切ったように屯所の外を走っている。
愚かな願いだと分かっているが、突発的に一人飛び出してしまったのだ。
……相手の女の人を……見てみたい……
夢主に思い当たるのは桔梗屋の相生太夫。
「天神さんって言ってたけど……京に来てすぐに出会っていたなら、今頃は太夫さんになっていてもおかしくないはず……」
頭の中の記憶の地図と、先日一度だけ男装姿で連れて行かれた記憶を元に島原へ向かった。
壬生の屯所から遠くない場所にあるはずだ。
「島原とは言え、桔梗屋ってそもそもどこにあるんだろう……島原に行ったらきっと新選組の隊士の皆さんがいらっしゃるんだろうな……見つからずに入るにはどうしたら……私一人でも入れるのかな……」
思いを巡らせながら島原を目指すが、すぐに新選組の隊士らしき見知った顔が見え、物陰に隠れるしかなかった。
「どうしよう、近づけない……原田さんなら協力してくれるかな……」
屯所にいなかった原田だが、よくこの辺りにいると話は聞いていた。
原田を探して辺りを見回すがその姿は見つからず、代わりに浅葱のだんだらの一団が遠くに見えた。原田の隊では無かった。
「わっ、こんな所も巡察するのっ?!」
夢主は慌てて身を隠し、別の通りへ走って行った。
「どうしよう……一回屯所へ戻らなきゃ……」
しかし、ぐるぐると走り回るうちに方向感覚を失った夢主、半泣きの状態である場所に辿り着いた。
「こっ……ここ……」
見上げる建物の入り口には見覚えのある『葵屋』の文字が堂々と掲げられていた。
立派な看板と店の造り。料亭の葵屋だ。
「葵屋……」
知った名前を目にして、気持ちが落ち着きを取り戻す。泣きべそもおさまっていった。
葵屋の前に立ち尽くしていると、中で誰かが入り口にやって来るのが分かり、再び物陰に隠れた。
様子を窺っていると翁が現れ、店の前で体操でもするように腰に手を当てて、体をくねくね動かし始めた。
何度か体を動かした後、仁王立ちして通りを眺めている。
「どうしよう……道を聞くだけなら平気かな……」
暫くすると翁は再び店の中へと戻って行った。
それを見届けて夢主は体を通りに出し、再び葵屋へ近付いて様子を見た。
「貴様客ではないな。先程から何を見張っている。何を企んでいる」
「えっ……」
突然誰かに手首を掴まれて振り返ると、夢主より背の高い若い男、いや少年が立っていた。
……あ……蒼紫様……
思わず声に出しそうになり、すんでのところで飲み込んだ。
新選組の面々と初めて出会った時の教訓を思い出したのだ。
「うろつきながら様子を窺い、女のくせに鉄扇を持ち歩くとは、堅気ではないのだろう」
「えっ……」
夢主の懐にある鉄扇に気付いていた蒼紫、しっかり手首を掴んだまま強い目つきで見据え、威圧しながら夢主の答えを待っている。