47.どこへたって
夢主名前設定
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「あいつがただの隊士ではなく間者だったらどうしていた」
夢主のもとへ辿りつくなり、斎藤は低い声で叱りつけた。
部下の把握は問題ない。先程の隊士の誠実さも知っている。だから黙って見守ったのだ。
「そ、それは……」
「またどこかへ連れ去られていたかもしれんのだぞ」
「そんな……」
斎藤の低い声と厳しい言葉に、夢主の顔は再び泣き出しそうなものへと戻っていた。
「どうしていつも、そう仰るんですか……斎藤さんいつも私に怒って……」
「そんな事はあるまい」
「いつも私に怒ります……阿呆だ、浅はかだって、慰めて欲しい時だって、最初はいつでも怒るんです……」
夢主は下を向いて独り言のように話した。
「そんなつもりはない」
「でも……」
いつだって馬鹿な事をしてしまう自分が悪いのかもしれないが、何かあった時にいつも怒られた自分を思い出して哀しくなってしまった。
その後はいつだって慰めてくれる……それは分かっているのだが。
「やれやれ……お前は話も聞かずに飛び出して、今度は拗ねるのか」
不意に風にそよぐ桜の木から花びらが幾つか、舞い落ちてきた。
その影にふと顔を上げる夢主、斎藤が真っ直ぐ自分を見つめていた。
怖い顔は……していなかった。
「どうしてあの服を処分してしまったのですか……」
「どうして処分したと思ったのだ」
「…………えっ」
斎藤が眉間に皺を寄せて呟いた。
「だって土方さんが……」
斎藤は溜息を吐いてから話し始めた。
「俺の荷物を処分しないと、この包みがしまっておけない。俺はそう言ったんだ」
「そっ……嘘っ」
「無駄な嘘を吐くかこの阿呆ぅが。人の話も聞かずに飛び出して。だいたい屯所を飛び出した所で行く場所などなかろう」
「っ……」
斎藤の一言で夢主はまた目を逸らしてむくれた。
拳を握ると、その拳が小さく震え始めた。
「そうですよ……その通りです……」
「おい」
斎藤は弾みで口にしてしまった言葉を後悔し、自分の失言でまた拗ねてしまった夢主を宥めようとした。
「私はどこも行く場所はありません……どこへだって……行けないんです……」
きつく斎藤を睨むと言葉を続けた。
瞳には涙が浮かんでいる。
「だから、あの服は本当に大切なんです……だから……無くなっちゃったと思ったら……悲しくて……」
「すまなかったな、誤解させてしまった。本当は俺の荷物の奥底にしまおうと思ったんだが、何しろ物が溢れていてな。これ以上葛籠に入らなかったんだよ。置きっぱなしにも出来ないから事情の分かる土方さんに預かってもらったんだ」
「そんな事……」
「本当だ。はなから捨てるつもりなど無い。お前にとって大切な事くらい分かっている。それを奪う事がどんな仕打ちになるかもな。ただ、また着られると俺は困る……」
夢主は昨晩の戸惑う斎藤を思い出して俯いた。
「ごめんなさい……」
「懐かしむ気持ちは分かるが……着るなら俺がいる時に、俺が部屋を出てからにしろ。気が済むまで外で待っていてやる。その代わり、俺がいない時には着るな」
「は……はぃ……」
思わぬ申し出に夢主は目を丸くした。
着てもいいと認めてくれた。
それから、あの姿を見ると冷静でいられないと言いたくない本音を打ち明けてくれた。
自分の事を蔑ろにしている訳ではない、それが分かっただけで心が晴れていく。
「それから気になったんだがな、んんっ……」
斎藤は目を逸らすと言い難そうに一度咳払いをして夢主を一瞥した。
「なんでしょうか……」
夢主はまだ何か気まずい指摘があるのかと斎藤を見上げた。
夢主のもとへ辿りつくなり、斎藤は低い声で叱りつけた。
部下の把握は問題ない。先程の隊士の誠実さも知っている。だから黙って見守ったのだ。
「そ、それは……」
「またどこかへ連れ去られていたかもしれんのだぞ」
「そんな……」
斎藤の低い声と厳しい言葉に、夢主の顔は再び泣き出しそうなものへと戻っていた。
「どうしていつも、そう仰るんですか……斎藤さんいつも私に怒って……」
「そんな事はあるまい」
「いつも私に怒ります……阿呆だ、浅はかだって、慰めて欲しい時だって、最初はいつでも怒るんです……」
夢主は下を向いて独り言のように話した。
「そんなつもりはない」
「でも……」
いつだって馬鹿な事をしてしまう自分が悪いのかもしれないが、何かあった時にいつも怒られた自分を思い出して哀しくなってしまった。
その後はいつだって慰めてくれる……それは分かっているのだが。
「やれやれ……お前は話も聞かずに飛び出して、今度は拗ねるのか」
不意に風にそよぐ桜の木から花びらが幾つか、舞い落ちてきた。
その影にふと顔を上げる夢主、斎藤が真っ直ぐ自分を見つめていた。
怖い顔は……していなかった。
「どうしてあの服を処分してしまったのですか……」
「どうして処分したと思ったのだ」
「…………えっ」
斎藤が眉間に皺を寄せて呟いた。
「だって土方さんが……」
斎藤は溜息を吐いてから話し始めた。
「俺の荷物を処分しないと、この包みがしまっておけない。俺はそう言ったんだ」
「そっ……嘘っ」
「無駄な嘘を吐くかこの阿呆ぅが。人の話も聞かずに飛び出して。だいたい屯所を飛び出した所で行く場所などなかろう」
「っ……」
斎藤の一言で夢主はまた目を逸らしてむくれた。
拳を握ると、その拳が小さく震え始めた。
「そうですよ……その通りです……」
「おい」
斎藤は弾みで口にしてしまった言葉を後悔し、自分の失言でまた拗ねてしまった夢主を宥めようとした。
「私はどこも行く場所はありません……どこへだって……行けないんです……」
きつく斎藤を睨むと言葉を続けた。
瞳には涙が浮かんでいる。
「だから、あの服は本当に大切なんです……だから……無くなっちゃったと思ったら……悲しくて……」
「すまなかったな、誤解させてしまった。本当は俺の荷物の奥底にしまおうと思ったんだが、何しろ物が溢れていてな。これ以上葛籠に入らなかったんだよ。置きっぱなしにも出来ないから事情の分かる土方さんに預かってもらったんだ」
「そんな事……」
「本当だ。はなから捨てるつもりなど無い。お前にとって大切な事くらい分かっている。それを奪う事がどんな仕打ちになるかもな。ただ、また着られると俺は困る……」
夢主は昨晩の戸惑う斎藤を思い出して俯いた。
「ごめんなさい……」
「懐かしむ気持ちは分かるが……着るなら俺がいる時に、俺が部屋を出てからにしろ。気が済むまで外で待っていてやる。その代わり、俺がいない時には着るな」
「は……はぃ……」
思わぬ申し出に夢主は目を丸くした。
着てもいいと認めてくれた。
それから、あの姿を見ると冷静でいられないと言いたくない本音を打ち明けてくれた。
自分の事を蔑ろにしている訳ではない、それが分かっただけで心が晴れていく。
「それから気になったんだがな、んんっ……」
斎藤は目を逸らすと言い難そうに一度咳払いをして夢主を一瞥した。
「なんでしょうか……」
夢主はまだ何か気まずい指摘があるのかと斎藤を見上げた。