47.どこへたって
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やれやれと思い小走りで夢主を追いかける斎藤。
屯所の門を出て行ってしまう夢主だが、行く先などひとつしかあるまい。
見失わぬ程度に姿を見るが、やはり直ぐ傍で立ち止まった。
壬生寺の中だ。
「やれやれ……」
姿を確認して安堵する。下を向いて立つ夢主は泣いているのか。
離れて様子を見ていると、誰かが近付くのが見えた。
「あいつは……」
自分の部下だ。斎藤が目を掛けている女と知っている。
こんな所に一人やってきて泣きそうなのだから、声を掛けるのが自然だろう。
斎藤は木陰に身を寄せて様子を見守った。
「えぇと……確か夢主さん、ですよね」
「あ、あなたはっ……」
急に目の前に現れた体付きの良い男に、夢主はビクリと反応して怯える。
悪気がない隊士は苦笑いだ。
「ははっ、そんなに怯えないで下さい、私は新選組の隊士です。斎藤先生がお世話されている夢主さんでしょう、お話はよく伺っておりますよ」
「え……」
斎藤が自分の話を平隊士にするなんて本当だろうか。
近所を出歩く時に隊服など着はしないだろうが、男が羽織る普段着の着物を疑うように見て眉をひそめた。
「私は一応斎藤先生の元で巡察に出ておりましてね。沖田先生と斎藤先生、よく貴女の話をされていますよ」
安心を与えようと、隊士の男はにこり笑みを作って続けた。
「先生方は密かに話しているおつもりなのでしょうけれども、耳に届いてしまうのです。とても楽しそうですので。ははっ」
二人が巡査時に自分を話題にするなど考えもしなかった。
夢主は驚いて隊士の顔を見上げた。
「本当ですか……巡察の時って……もっと……その……」
「緊迫して話もしないと思いましたか。意外と先生方はお話をなさいますよ。おかげで我々平隊士も肩の力を抜くことが出来るので、有り難い限りなのですが」
「そうなんですか……」
夢主は疑いを忘れ、初めて訊く巡察の話に聞き入っていた。
「先生は余りそういったお話はなさらないのですね」
「はぃ……隊務のお話は全く……」
「これは、私は先生に怒られてしまいますね。ははっ、困りました」
「ふふっ」
隊士の穏やかな態度に、泣きそうだった夢主の顔も緩み、ようやく小さな笑い声が漏れた。
「良かった、先程までどうしたものかと心配な程に哀しいお顔をされていましたが、いつもの夢主さんに戻られたようですね」
「そっ……そんな……」
「斎藤先生がご執心なのも少し分かる気がいたします」
「え……」
「これは失敬。いつも表情を変えない厳しい面持ちの先生も、貴女の話となりますと顔が緩んだりお怒りを露にされたり、随分と感情が豊かになるもので」
「斎藤さんが……」
「きっと素敵な方だと思っていましたが。お優しくて器量よし、恥らうお顔も笑うお顔も愛らしい……私ももっと鍛錬を積んで先生に挑戦できる程に腕を上げなければなりませんなぁ」
「はぃ……?」
「ははっ、貴女が魅力的なお方だと知れて良かったです。普段関わるなときつく言われておりますので、今日は不幸中の幸い」
「あの……」
「ほら、斎藤先生がお見えですよ」
「ぁっ……」
隊士に促され視線を移すと、山門付近の桜の木の傍に、斎藤が少し怖い顔付きで腕を組んでいた。
「それでは私はこれで……素敵な一時を有難う御座いました」
そう言って軽くお辞儀をすると、隊士は斎藤のいる寺の出入り口である山門へ歩いて行った。
「すまんな」
隊士がすれ違う所まで歩いてくると、斎藤は一言、声をかけた。
「いえいえ、先生がいらっしゃるまでお相手出来ました事、この身に余る光栄に御座います」
「フン」
隊士の冗談に鼻をならすと、斎藤は夢主のもとへ歩き出した。
夢主は戸惑った顔で立ち竦んでいる。
屯所の門を出て行ってしまう夢主だが、行く先などひとつしかあるまい。
見失わぬ程度に姿を見るが、やはり直ぐ傍で立ち止まった。
壬生寺の中だ。
「やれやれ……」
姿を確認して安堵する。下を向いて立つ夢主は泣いているのか。
離れて様子を見ていると、誰かが近付くのが見えた。
「あいつは……」
自分の部下だ。斎藤が目を掛けている女と知っている。
こんな所に一人やってきて泣きそうなのだから、声を掛けるのが自然だろう。
斎藤は木陰に身を寄せて様子を見守った。
「えぇと……確か夢主さん、ですよね」
「あ、あなたはっ……」
急に目の前に現れた体付きの良い男に、夢主はビクリと反応して怯える。
悪気がない隊士は苦笑いだ。
「ははっ、そんなに怯えないで下さい、私は新選組の隊士です。斎藤先生がお世話されている夢主さんでしょう、お話はよく伺っておりますよ」
「え……」
斎藤が自分の話を平隊士にするなんて本当だろうか。
近所を出歩く時に隊服など着はしないだろうが、男が羽織る普段着の着物を疑うように見て眉をひそめた。
「私は一応斎藤先生の元で巡察に出ておりましてね。沖田先生と斎藤先生、よく貴女の話をされていますよ」
安心を与えようと、隊士の男はにこり笑みを作って続けた。
「先生方は密かに話しているおつもりなのでしょうけれども、耳に届いてしまうのです。とても楽しそうですので。ははっ」
二人が巡査時に自分を話題にするなど考えもしなかった。
夢主は驚いて隊士の顔を見上げた。
「本当ですか……巡察の時って……もっと……その……」
「緊迫して話もしないと思いましたか。意外と先生方はお話をなさいますよ。おかげで我々平隊士も肩の力を抜くことが出来るので、有り難い限りなのですが」
「そうなんですか……」
夢主は疑いを忘れ、初めて訊く巡察の話に聞き入っていた。
「先生は余りそういったお話はなさらないのですね」
「はぃ……隊務のお話は全く……」
「これは、私は先生に怒られてしまいますね。ははっ、困りました」
「ふふっ」
隊士の穏やかな態度に、泣きそうだった夢主の顔も緩み、ようやく小さな笑い声が漏れた。
「良かった、先程までどうしたものかと心配な程に哀しいお顔をされていましたが、いつもの夢主さんに戻られたようですね」
「そっ……そんな……」
「斎藤先生がご執心なのも少し分かる気がいたします」
「え……」
「これは失敬。いつも表情を変えない厳しい面持ちの先生も、貴女の話となりますと顔が緩んだりお怒りを露にされたり、随分と感情が豊かになるもので」
「斎藤さんが……」
「きっと素敵な方だと思っていましたが。お優しくて器量よし、恥らうお顔も笑うお顔も愛らしい……私ももっと鍛錬を積んで先生に挑戦できる程に腕を上げなければなりませんなぁ」
「はぃ……?」
「ははっ、貴女が魅力的なお方だと知れて良かったです。普段関わるなときつく言われておりますので、今日は不幸中の幸い」
「あの……」
「ほら、斎藤先生がお見えですよ」
「ぁっ……」
隊士に促され視線を移すと、山門付近の桜の木の傍に、斎藤が少し怖い顔付きで腕を組んでいた。
「それでは私はこれで……素敵な一時を有難う御座いました」
そう言って軽くお辞儀をすると、隊士は斎藤のいる寺の出入り口である山門へ歩いて行った。
「すまんな」
隊士がすれ違う所まで歩いてくると、斎藤は一言、声をかけた。
「いえいえ、先生がいらっしゃるまでお相手出来ました事、この身に余る光栄に御座います」
「フン」
隊士の冗談に鼻をならすと、斎藤は夢主のもとへ歩き出した。
夢主は戸惑った顔で立ち竦んでいる。