46.お花見

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主人公の女の子

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主人公の女の子

「斎藤さん、つぎ、おつぎしましょうか……」

自分の猪口を盆に戻して斎藤のとっくりを持ち上げた。
まだまだ意識も仕草もしっかりしている。

「あぁ、」

斎藤は気付いたように夢主に猪口を差し出した。
酒を注ぐと、ゆっくり桜の花が回る。

「くるくる……かわいぃですね……」

「あぁ」

答える斎藤は花ではなく夢主を見ていた。
夢主も猪口に残った酒を呑み干し、二杯目を手酌した。

「ふふっ、このお酒、だぃすきです……」

首を傾げて柔らかく微笑み、二杯目は一気に飲み干してしまった。
斎藤も既に二杯目を空けていた。

「お前もよく呑むな」

ニッと斎藤が揶揄った。夢主は気にせず微笑んでいる。

「はぃ……今日はとめられても、のんじゃいます……ふふっ」

「あぁ、呑め」

微かに赤かっただけの頬が、早くも深く染まり出している。
瞳も潤み始めていた。
斎藤はそんな夢主を目を細めて眺めていた。

……そうだ……その顔がいい……

斎藤は密かに笑んだ。


酒が二杯、三杯と進み、夢主に酔いが回り出す。
意識はしっかり保っているが、嬉しそうにニコニコとしまりのない笑顔で、声は微睡んでいるようなゆるゆるした響きに変わっていた。

「桜うかべるなんて、さいとうさん……すてきなことぉ、なさるんですね……」

夢主は空になった猪口から桜の花を取り出して、くるりと回すように指先で摘まんだ。
酒に浸り勢い良く回らないが、花を持ち上げて愛おしそうに眺めている。

「おかわり……、もってきましょうか……」

斎藤の酒が底をついた。
夢主は手に持つ花を斎藤の徳利の上に蓋をするように乗せた。
そして盆を持ち上げようとするが、横から手が伸びた。

「無理だろう。俺が行く」

斎藤が立ち上がろうとした時、部屋の外から声がした。

「失礼します、お晩どすぇ。みなはん外に出てはりますので、晩御飯お二人の分お持ちしました」

「あ、ありがとぅございます……」

夢主は晩ご飯を届けてくれた家の人に挨拶をして受け取ろうとしたが、斎藤が目の前で「待て」と手を出して示した。

「俺が受け取る。お前は酔っているからな」

斎藤は障子を開けると小さな声で挨拶をして膳を二つ受け取った。
後で酒の追加も持って来るよう、抜かりなく頼んでいた。

「さぃとうさん、ありがとぅ……ございます」

ゆっくり顔を下げ、お辞儀をする夢主。相当酔っているのか顔を上げた後にふらりと横に揺れた。

「飯、食えるか」

「おなか、すきました……ふふっ……」

心配になる斎藤だが夢主は満面の笑みで頷いた。
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