「そしてお前は時に気を使い過ぎ、我慢をしがちだ。それはきっと、自分より年上の者や大人達に囲まれて育ったんだろう」

「年上の……人達……」

「あぁ。その点では沖田君に近いな。お前は自ずと周りの空気を読みながら成長してきたんだろう」

「……」

自分の置かれていた環境を想像しながら斎藤の言葉を聞いた。
大人に囲まれた幼い自分。

「我が儘を言って自分に気を引こうとするよりも、周りの大人に嫌われまいと気を遣い、無意識にそうなったんだろう。子供の頃から優しかったんだろうな」

「そぅ……でしょうか……」

さり気なく誉められて少し擽ったい。

「そしてしっかりしている割には一人取り残された時など、時折とても淋しがり屋になる。余程しっかり者だったんだろう、だから幼い頃から一人で留守を任されたり、一人になる事が多かったのかも知れん」

「っ……」

夢主は思わず一人膝を抱える幼い自分を想像してしまった。
手を伸ばしても握り返されず、忙しい大人達は自分達の世界へ歩いていく。

「だが、その幸せそうな笑顔は、愛されて育った証拠だ。安心しろ」

「斎藤さん……」

夢主は気付けば涙を浮かべていた。
何も分からないと思っていた子供の頃の景色を、僅かでも斎藤が想像させてくれた。

きっと温かな両親に見守られていたはず。

「ありがとうございます……」

「俺はこれでも洞察力には自信があるんでな。まぁ当たらずとも遠からずだろう」

「はぃ……」

斎藤も心なしか嬉しそうに夢主に微笑み掛けた。

「その膝小僧は、幼い頃にでも激しく転んだか、お前みたいな奴でもお転婆な時があったんだろうよ」

「ふふっ、そうかもしれませんね」

今にも涙が頬を伝いそうだ。

「それにお前は幼い頃から甘えん坊だっただろうな」

「え……」

「お前は酔うとすぐにくっついてくる」

「そっそれは……」

違います、覚えていません、どちらの言葉でも反論できなかった。

「だが誰にでもそうする訳ではない。俺や沖田君、原田さん……無意識に信頼できる相手を選んでいるんだろう」

夢主は恥ずかしそうに申し訳なさそうに頬を染めて俯いていた。

「ただの色女の行動じゃない、心の奥底に幼い時分に満たされなかったものがあるんだろうよ」

夢主は幾度か酒を呑んだ時のことを思い返した。

ほとんど記憶に無いが、確かに原田の腹にしがみついたり、斎藤と沖田に寄り掛かった気がする。
弱い酒の席の事はほんのりと覚えていた。