43.いけない事
夢主名前設定
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「全くよ……こんな格好で寝てたら襲われちまうぜ、いけねぇなぁ」
夢主に近付いてしゃがんだ原田は、目を閉じる横顔の前で囁いた。
「ほらよっ……と」
小さな体を抱き上げ自分の寝床へ戻して、そっと布団を掛けてやった。
顔に掛かる髪を除けてやると、いつもするように頭を何度か撫でてから部屋の外へ戻った。
「ほらよ、これでもう大丈夫か」
「はい、申し訳ない、お手数をお掛けしました」
斎藤は柄にもなく申し訳なさそうな顔で礼を述べた。
「お前ぇも大変だな、ははっ。まぁ手ぇ出さなかっただけ偉いぜ」
「原田さんだってそうでしょう」
「さぁな、こればっかりはどうなってたか分かんねぇよ。はははっ」
冗談なのか原田はそう言うと爽やかに笑って去っていった。
ようやく落ち着いた斎藤は部屋へ入り障子を閉めた。
衝立の向こうを覗ける気分ではなく、自分の居場所から夢主に向かって呟いた。
「全く何の為に夜番専任にしてもらったと思っている。俺に襲わせるんじゃねぇよ」
そして小さく溜息を吐いた。今夜は溜息の多い夜になってしまった。
「淋しい、か。全く」
非番の日に湯屋へ連れて行く約束を思い出す。
違えずに叶えてやりたいものだ。
斎藤は淋しげな夢主の顔が綻ぶさまを想い描きながら、寝支度を整えた。
それから数日、ようやく訪れた斎藤と沖田の非番の日。
朝から夢主は嬉しくて笑顔がおさまらなかった。
食事の席でもそれは抑えきれず、幸せそうな姿に皆が微笑んでいた。
「あははっ、夢主ちゃんそんなに楽しみに待ってくれていたんですか」
「はぃ、お約束した日からずっと楽しみだったんです!」
にこりと首を傾げて言う夢主に、沖田もつられて首を傾げていた。
「フッ」
鏡のような動きの二人を斎藤は軽く鼻を鳴らして笑った。
「遅くなると冷えますし、お昼を頂いたら出かけましょうか」
「はいっ」
改めて約束をした。
斎藤も早めという約束に頷いた。夢主を連れ出すには早い時間が良い。
共に部屋に戻り、何も考えず腰を下ろした二人、夢主がおもむろに話しだした。座る斎藤を嬉しそうに見つめている。
「斎藤さんがお部屋にいるの、久しぶりですね」
「そうだな」
すまなかったと続けたかったが、斎藤は言葉を飲み込んだ。
自分達は不在を詫びる必要がある関係ではない。
「斎藤さんとても忙しそうですね……今日もお出かけになるのかと思ってました」
「そうか。……淋しかったか」
「……」
斎藤の突然の問いに夢主は目を丸くするが、下を向くように静かに頷いた。
その余りにも淋しげな様子を斎藤は笑いそうになり、息を漏らすと、一度飲み込んだ言葉を思わず口にしてしまった。
「フッ、そうか。それはすまんな」
「いぇっ……」
夢主は思いも寄らない詫びの言葉に驚いた。
いつも部屋を空ける程に忙しい斎藤は何をしているのか気に掛かる。
「いつもどちらに……」
「気になるか」
「えっ……それは……はぃ」
斎藤に訊ねられ言葉を濁しかけたが、素直に頷いた。
隊の仕事。それ以外で思い付くのは必要な品の買出しや物の手入れに出かける事、外で誰かに会う事、それくらいだ。
もしかしたら……
夢主は無難な言葉で質問した。
「お仕事……ですか」
人に会うにしても相手は様々だ。
嫌な臭いは残っていないので女に会いに行っているのではないだろう。
「まぁな」
「そうですか……」
間者のお仕事ですか、とは屯所の中で聞けない。
言葉が見つからず考えながら斎藤を見上げていると、何か察したのかフッと口角を上げた斎藤が続けた。
「お前の想像通りだろうよ。無論お前にも言えんが、察しの通り、そういうことだ」
「ぁ……」
会津からの仕事……新選組が暴走しないように中から様子を見る。
きっとその事を言っているのだと、夢主は受け止めた。
新選組は会津藩のお抱えであり、その働きは会津の為にもなる。
隊の幹部として全力で動くが、万一新選組が会津に難を与えるならば……斎藤はそれを報告して止める為にいるのだろう。
「フンッ」
夢主が全てを承知したと理解して、斎藤は目を合わせて満足げに頷いた。夢主も応えるように微笑み頷き返す。
ひとつ、絆が増えた気がした。
夢主に近付いてしゃがんだ原田は、目を閉じる横顔の前で囁いた。
「ほらよっ……と」
小さな体を抱き上げ自分の寝床へ戻して、そっと布団を掛けてやった。
顔に掛かる髪を除けてやると、いつもするように頭を何度か撫でてから部屋の外へ戻った。
「ほらよ、これでもう大丈夫か」
「はい、申し訳ない、お手数をお掛けしました」
斎藤は柄にもなく申し訳なさそうな顔で礼を述べた。
「お前ぇも大変だな、ははっ。まぁ手ぇ出さなかっただけ偉いぜ」
「原田さんだってそうでしょう」
「さぁな、こればっかりはどうなってたか分かんねぇよ。はははっ」
冗談なのか原田はそう言うと爽やかに笑って去っていった。
ようやく落ち着いた斎藤は部屋へ入り障子を閉めた。
衝立の向こうを覗ける気分ではなく、自分の居場所から夢主に向かって呟いた。
「全く何の為に夜番専任にしてもらったと思っている。俺に襲わせるんじゃねぇよ」
そして小さく溜息を吐いた。今夜は溜息の多い夜になってしまった。
「淋しい、か。全く」
非番の日に湯屋へ連れて行く約束を思い出す。
違えずに叶えてやりたいものだ。
斎藤は淋しげな夢主の顔が綻ぶさまを想い描きながら、寝支度を整えた。
それから数日、ようやく訪れた斎藤と沖田の非番の日。
朝から夢主は嬉しくて笑顔がおさまらなかった。
食事の席でもそれは抑えきれず、幸せそうな姿に皆が微笑んでいた。
「あははっ、夢主ちゃんそんなに楽しみに待ってくれていたんですか」
「はぃ、お約束した日からずっと楽しみだったんです!」
にこりと首を傾げて言う夢主に、沖田もつられて首を傾げていた。
「フッ」
鏡のような動きの二人を斎藤は軽く鼻を鳴らして笑った。
「遅くなると冷えますし、お昼を頂いたら出かけましょうか」
「はいっ」
改めて約束をした。
斎藤も早めという約束に頷いた。夢主を連れ出すには早い時間が良い。
共に部屋に戻り、何も考えず腰を下ろした二人、夢主がおもむろに話しだした。座る斎藤を嬉しそうに見つめている。
「斎藤さんがお部屋にいるの、久しぶりですね」
「そうだな」
すまなかったと続けたかったが、斎藤は言葉を飲み込んだ。
自分達は不在を詫びる必要がある関係ではない。
「斎藤さんとても忙しそうですね……今日もお出かけになるのかと思ってました」
「そうか。……淋しかったか」
「……」
斎藤の突然の問いに夢主は目を丸くするが、下を向くように静かに頷いた。
その余りにも淋しげな様子を斎藤は笑いそうになり、息を漏らすと、一度飲み込んだ言葉を思わず口にしてしまった。
「フッ、そうか。それはすまんな」
「いぇっ……」
夢主は思いも寄らない詫びの言葉に驚いた。
いつも部屋を空ける程に忙しい斎藤は何をしているのか気に掛かる。
「いつもどちらに……」
「気になるか」
「えっ……それは……はぃ」
斎藤に訊ねられ言葉を濁しかけたが、素直に頷いた。
隊の仕事。それ以外で思い付くのは必要な品の買出しや物の手入れに出かける事、外で誰かに会う事、それくらいだ。
もしかしたら……
夢主は無難な言葉で質問した。
「お仕事……ですか」
人に会うにしても相手は様々だ。
嫌な臭いは残っていないので女に会いに行っているのではないだろう。
「まぁな」
「そうですか……」
間者のお仕事ですか、とは屯所の中で聞けない。
言葉が見つからず考えながら斎藤を見上げていると、何か察したのかフッと口角を上げた斎藤が続けた。
「お前の想像通りだろうよ。無論お前にも言えんが、察しの通り、そういうことだ」
「ぁ……」
会津からの仕事……新選組が暴走しないように中から様子を見る。
きっとその事を言っているのだと、夢主は受け止めた。
新選組は会津藩のお抱えであり、その働きは会津の為にもなる。
隊の幹部として全力で動くが、万一新選組が会津に難を与えるならば……斎藤はそれを報告して止める為にいるのだろう。
「フンッ」
夢主が全てを承知したと理解して、斎藤は目を合わせて満足げに頷いた。夢主も応えるように微笑み頷き返す。
ひとつ、絆が増えた気がした。