43.いけない事
夢主名前設定
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「おかえりなさい。……斎藤さんは忙しそうですね」
「あぁ、色々とな」
部屋に戻った斎藤は短く答え、立ったまま簡単に荷物を整えた。
再び部屋を出ようとして、夢主を見た。
「食事、行くだろう」
「は、はぃ」
ならばついて来いとばかりに斎藤は無言で促した。
斎藤の後ろについて座敷へ向かう。
よくあるこの短い時間が夢主は大好きだった。
言葉を交わす事もあれば、何も話さず座敷に着く時もある。
この日、斎藤は黙って座敷へ向かったが、辿り着く前にふと立ち止まり、振り返った。
夢主を眺めた後、不意に微笑む。
突然の事に夢主は驚くが、斎藤はそのまま歩き出していつも通り座敷へと入って行った。
夢主もほんのり頬を染めて後に続いた。
斎藤は気に入っている女が黙って自分の後ろについてくる……そんな状況をはたと認識し、込み上げてくるものがあったのだ。
「あ、夢主ちゃん、斎藤さん」
間もなく沖田もやってきて、巡察前の食事が始まった。
「夢主ちゃん、今度の非番の日に久しぶりに湯屋に行きましょうよ」
食べながら沖田が暫くぶりの外出を持ちかけた。
湯屋に行くのも久しぶりなら、三人で外に出るのも久しぶり。夢主は嬉しくて素直に喜んだ。
「本当ですか、ありがとうございます!でもお忙しそうなのに……大事なお休みを、よろしいのですか」
「もちろんですよっ」
遠慮がちな夢主に沖田は微笑みかけた。
「斎藤さんもお付き合いしてくださいよ、僕一人じゃ土方さんに怒られちゃいますから」
沖田は夢主を挟んで向こうを覗き、斎藤を誘う。
早く頷いてくださいと求める視線を送っている。
「構わんが、この時季の湯は折角温まっても帰り道に体が冷えるぞ」
斎藤は夢主を案じた。
女の体は冷えやすい、実際夢主はよく体を冷やしている。そんな印象を持っていた。
「あ、あの……私、行きたいです……斎藤さん……」
心配はありがたいが、斎藤と共に歩きたい気持ちが強い。
皆が大坂へ行ってる間に一人過ごした淋しさよりも、傍にいるのに一緒にいられない淋しさが堪えた。
忙しい斎藤は非番の日も何か用事があるかもしれない。だったら甘える訳にはいかない。でも……。
夢主は気を揉みながら斎藤の返事を待った。
「そうか、分かった。暖かくして行くぞ」
「は……はぃっ!」
気が進まないながらも同意してくれた斎藤に、夢主は目を細めた。
斎藤はこの日も夜の巡察の支度を済ませ、寝巻姿の夢主に「行って来る」と一言告げて出て行った。
「寝る時にひとりってこんなに淋しかったんだよね……」
はなから一人の夜よりも、送り出してから迎える一人の夜の方が淋しさを感じるのが不思議である。
ずっと続いた一人の夜は、いけないと思いながらもよく斎藤の布団に入り込んで眠った。
斎藤の優しい香りが淋しさを紛らわせてくれるからだ。
この夜、夢主は気持ちが落ち着かず、とても不安を感じていた。
また一緒にお月見したいな……晩酌してあげたいな……たくさん、お話したい……
楽しかった時間を次々思い出し、考えながら衝立の向こうの布団に目をやった。
「でも今夜は戻ってくるから……」
そう言うが、自分の布団から出て斎藤の布団に移動し、腰を下ろした。
「ちょっとだけ……中に入らなかったらいいよね……すぐに戻るから……」
自分に言い聞かせて呟き、斎藤の香りを確認するように体を倒して目を閉じた。
心の中にある不安な揺らぎが治まっていく。
「あぁ、色々とな」
部屋に戻った斎藤は短く答え、立ったまま簡単に荷物を整えた。
再び部屋を出ようとして、夢主を見た。
「食事、行くだろう」
「は、はぃ」
ならばついて来いとばかりに斎藤は無言で促した。
斎藤の後ろについて座敷へ向かう。
よくあるこの短い時間が夢主は大好きだった。
言葉を交わす事もあれば、何も話さず座敷に着く時もある。
この日、斎藤は黙って座敷へ向かったが、辿り着く前にふと立ち止まり、振り返った。
夢主を眺めた後、不意に微笑む。
突然の事に夢主は驚くが、斎藤はそのまま歩き出していつも通り座敷へと入って行った。
夢主もほんのり頬を染めて後に続いた。
斎藤は気に入っている女が黙って自分の後ろについてくる……そんな状況をはたと認識し、込み上げてくるものがあったのだ。
「あ、夢主ちゃん、斎藤さん」
間もなく沖田もやってきて、巡察前の食事が始まった。
「夢主ちゃん、今度の非番の日に久しぶりに湯屋に行きましょうよ」
食べながら沖田が暫くぶりの外出を持ちかけた。
湯屋に行くのも久しぶりなら、三人で外に出るのも久しぶり。夢主は嬉しくて素直に喜んだ。
「本当ですか、ありがとうございます!でもお忙しそうなのに……大事なお休みを、よろしいのですか」
「もちろんですよっ」
遠慮がちな夢主に沖田は微笑みかけた。
「斎藤さんもお付き合いしてくださいよ、僕一人じゃ土方さんに怒られちゃいますから」
沖田は夢主を挟んで向こうを覗き、斎藤を誘う。
早く頷いてくださいと求める視線を送っている。
「構わんが、この時季の湯は折角温まっても帰り道に体が冷えるぞ」
斎藤は夢主を案じた。
女の体は冷えやすい、実際夢主はよく体を冷やしている。そんな印象を持っていた。
「あ、あの……私、行きたいです……斎藤さん……」
心配はありがたいが、斎藤と共に歩きたい気持ちが強い。
皆が大坂へ行ってる間に一人過ごした淋しさよりも、傍にいるのに一緒にいられない淋しさが堪えた。
忙しい斎藤は非番の日も何か用事があるかもしれない。だったら甘える訳にはいかない。でも……。
夢主は気を揉みながら斎藤の返事を待った。
「そうか、分かった。暖かくして行くぞ」
「は……はぃっ!」
気が進まないながらも同意してくれた斎藤に、夢主は目を細めた。
斎藤はこの日も夜の巡察の支度を済ませ、寝巻姿の夢主に「行って来る」と一言告げて出て行った。
「寝る時にひとりってこんなに淋しかったんだよね……」
はなから一人の夜よりも、送り出してから迎える一人の夜の方が淋しさを感じるのが不思議である。
ずっと続いた一人の夜は、いけないと思いながらもよく斎藤の布団に入り込んで眠った。
斎藤の優しい香りが淋しさを紛らわせてくれるからだ。
この夜、夢主は気持ちが落ち着かず、とても不安を感じていた。
また一緒にお月見したいな……晩酌してあげたいな……たくさん、お話したい……
楽しかった時間を次々思い出し、考えながら衝立の向こうの布団に目をやった。
「でも今夜は戻ってくるから……」
そう言うが、自分の布団から出て斎藤の布団に移動し、腰を下ろした。
「ちょっとだけ……中に入らなかったらいいよね……すぐに戻るから……」
自分に言い聞かせて呟き、斎藤の香りを確認するように体を倒して目を閉じた。
心の中にある不安な揺らぎが治まっていく。