41.嫉妬
夢主名前設定
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屯所も夜の闇にすっかり包まれ、所々の部屋で灯りが揺れている。
斎藤は土方と定めた新しい決まりに従い、夜の巡察に出る支度をしていた。
これから非番の日以外はこうして毎夜、屯所を出て行く。
薄暗い部屋の中、衣擦れの音と刀を動かして鳴る硬い音だけが響いていた。
支度を整え、腰に大小を差す斎藤の姿は頼もしくもあり、危なげでもある。
もともと鋭く凛々しい顔立ちが、巡察前は決意も籠もるのか、全く隙の無い顔付きに変わる。
夜の闇の所為か、今夜はいっそう揺るぎない表情をしている。
夢主はそんな斎藤を見て不意に訊ねた。
「怖くは……ないのですか」
突然の言葉に斎藤は手を止め、座り込んで自分を見上げる夢主に視線をやった。
「怖くは無い。覚悟は出来ている。むしろ何が起こるか楽しみだな」
動乱の京の治安を預かる者としての覚悟、仲間を失う覚悟、死ぬ……覚悟。
「そぅ……ですか……」
俯きそうになりながら答えた夢主は、視線を戻して斎藤を見上げた。
支度の最後に斎藤はよく総髪を整え直す。
解いた紐を口に咥え、後手で髪を纏める仕草は得も言われぬ艶やかさがある。
この夜も最後に髪を整えていた。
不自由そうな仕草に手伝いを申し出たくなるが、出立前の張り詰めた空気がそれを許さない。
髪を整え終えた斎藤はキッと鋭い目つきで夢主を見下ろした。
「行ってくる。迷わず寝るんだぞ」
間違っても起きて待っているなと釘を刺し、部屋の障子に手を掛けた。
障子戸を開けた瞬間、月明かりが部屋の中に広がり、斎藤の顔も月明かりで照らされる。
いつもの綺麗な枯れ茶色の瞳が、妖しく美しい黄金色に変わる瞬間だ。
夢主は目を奪われて思わず息を呑んだ。
斎藤が廊下を歩き出し、夢主は顔を出して外を覗いた。
遠くで準備を整え待機している沖田が目に入る。
斜に構えてこちらを振り返った沖田と目が合った。
沖田もまた昼間の彼とは全く違い、闇に目を光らせる姿に背中がゾクリと寒くなる。
にこやかな彼も新選組の隊士、斎藤と同じ幹部であり一番隊組長。
斎藤も沖田も闇の中から京を見据える壬生の狼なのだ。
斎藤が沖田の元へ到達すると、平隊士から受け取った浅葱色のだんだら羽織りをひらりと広げた。
広げた羽織は空を舞うように広がり、斎藤の体に纏われた。
屯所の明かりから遠ざかる浅葱色は、闇の中に進むにつれ色を失って黒く染まっていく。
夢主は急に二人の存在を遠く感じ、斎藤の部屋の中へ引き返して小さく願った。
「どうか無事に……」
斎藤は土方と定めた新しい決まりに従い、夜の巡察に出る支度をしていた。
これから非番の日以外はこうして毎夜、屯所を出て行く。
薄暗い部屋の中、衣擦れの音と刀を動かして鳴る硬い音だけが響いていた。
支度を整え、腰に大小を差す斎藤の姿は頼もしくもあり、危なげでもある。
もともと鋭く凛々しい顔立ちが、巡察前は決意も籠もるのか、全く隙の無い顔付きに変わる。
夜の闇の所為か、今夜はいっそう揺るぎない表情をしている。
夢主はそんな斎藤を見て不意に訊ねた。
「怖くは……ないのですか」
突然の言葉に斎藤は手を止め、座り込んで自分を見上げる夢主に視線をやった。
「怖くは無い。覚悟は出来ている。むしろ何が起こるか楽しみだな」
動乱の京の治安を預かる者としての覚悟、仲間を失う覚悟、死ぬ……覚悟。
「そぅ……ですか……」
俯きそうになりながら答えた夢主は、視線を戻して斎藤を見上げた。
支度の最後に斎藤はよく総髪を整え直す。
解いた紐を口に咥え、後手で髪を纏める仕草は得も言われぬ艶やかさがある。
この夜も最後に髪を整えていた。
不自由そうな仕草に手伝いを申し出たくなるが、出立前の張り詰めた空気がそれを許さない。
髪を整え終えた斎藤はキッと鋭い目つきで夢主を見下ろした。
「行ってくる。迷わず寝るんだぞ」
間違っても起きて待っているなと釘を刺し、部屋の障子に手を掛けた。
障子戸を開けた瞬間、月明かりが部屋の中に広がり、斎藤の顔も月明かりで照らされる。
いつもの綺麗な枯れ茶色の瞳が、妖しく美しい黄金色に変わる瞬間だ。
夢主は目を奪われて思わず息を呑んだ。
斎藤が廊下を歩き出し、夢主は顔を出して外を覗いた。
遠くで準備を整え待機している沖田が目に入る。
斜に構えてこちらを振り返った沖田と目が合った。
沖田もまた昼間の彼とは全く違い、闇に目を光らせる姿に背中がゾクリと寒くなる。
にこやかな彼も新選組の隊士、斎藤と同じ幹部であり一番隊組長。
斎藤も沖田も闇の中から京を見据える壬生の狼なのだ。
斎藤が沖田の元へ到達すると、平隊士から受け取った浅葱色のだんだら羽織りをひらりと広げた。
広げた羽織は空を舞うように広がり、斎藤の体に纏われた。
屯所の明かりから遠ざかる浅葱色は、闇の中に進むにつれ色を失って黒く染まっていく。
夢主は急に二人の存在を遠く感じ、斎藤の部屋の中へ引き返して小さく願った。
「どうか無事に……」