38.知らぬままに
夢主名前設定
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夢主は夜が明けたらどうなるのか気になり眠れなかった。
翌朝。眠れなかったが熱はすっかり下がり、体も回復しつつあった。
朝食を済ませると突然緋村が縄を取り出した。
「すまないが、そのまま連れ出して、はい、どうぞ……とは行かないのでな」
「えっ?」
戸惑う夢主だが理由を聞く間もなく寝巻き姿のまま、緋村に後ろ手に縛り上げられてしまった。
「ぁ、あの……」
緋村は縛る事に集中し何も感じていないようだが、夢主は手首や腕を強く掴まれる度に心臓が大きく脈打った。
小柄な緋村だが名を馳せる剣客らしく、その手はとてもがっしりとして力強い。
そんな男らしい手で容赦なく体に触れられ、戸惑いと恥ずかしさで夢主の顔は赤らんでいく。
縛られた理由を訊ねたかったが昨夜の約束を思い出し、夢主は口を閉ざすしかなかった。
「悪いようにはしない」
「……信じます……緋村さん」
緋村は大きく頷くと夢主の顔を覗き込んだ。
「お主、名は」
「……夢主……」
「夢主殿……お主は不思議な人だ。厄介でならない。だから俺の仕事の為に、お主を排除する。いいな」
飯塚の身勝手な人買いもどきの仕事などどうでも良いと自分に言い聞かせた。
「分かりました……」
「よし、では夢主殿……」
「ぅっ!」
緋村は名を呼ぶと同時に、トンと手刀で夢主の意識を奪った。
「すまないな……こうでなければ連れだせん」
ぐったりした夢主に呼びかけ、緋村は小さな体を担ぎ上げた。
「……ぎる……ぁなたと……かつらさん……ぅらぎる……いぃっ……」
「っ?!」
飛んでいるはずの意識の中、夢主が声をふり絞った。
緋村は驚いて担ごうとした体をもう一度床に下ろした。
「何だ……何の話だ、俺達を裏切るとは何の事だ……」
「けん……しんっ……きを……つけっ……て……」
「剣心……またそう呼ぶのか」
深く意識を失った夢主を見つめながら緋村は呟いた。
無理やり意識を引き戻そうか迷うが、もういい。この女とはこれ以上関わってはならないと本能が告げている。
「無意識に俺を剣心と呼ぶのは、やはり俺を剣心と呼ぶ人間の傍にいたとしか考えられない。……師匠しか思い浮かばない」
手がほんのり汗ばむのを感じた。
夢主が未来から来たなど知らぬ緋村は、自分の過去の名や身の上を知る理由について、一番納得できる答えを導き出した。
「関わらないのが一番だ」
自分が一番関わりたくない男と関わりがあるのならば、直ちに手放したかった。
無傷のまま、深く知らぬまま。
「師匠が表に出てくるはずがない。何故夢主殿が壬生狼と共にいるのか……分からずじまいだが」
夢主の閉じた目を確認すると、改めて緋村は小さな体を抱え上げた。
「これでさよならだ」
緋村は陽のある明るい京の町に出た。
勝手知ったる町を夢主を背負って歩いて行った。
翌朝。眠れなかったが熱はすっかり下がり、体も回復しつつあった。
朝食を済ませると突然緋村が縄を取り出した。
「すまないが、そのまま連れ出して、はい、どうぞ……とは行かないのでな」
「えっ?」
戸惑う夢主だが理由を聞く間もなく寝巻き姿のまま、緋村に後ろ手に縛り上げられてしまった。
「ぁ、あの……」
緋村は縛る事に集中し何も感じていないようだが、夢主は手首や腕を強く掴まれる度に心臓が大きく脈打った。
小柄な緋村だが名を馳せる剣客らしく、その手はとてもがっしりとして力強い。
そんな男らしい手で容赦なく体に触れられ、戸惑いと恥ずかしさで夢主の顔は赤らんでいく。
縛られた理由を訊ねたかったが昨夜の約束を思い出し、夢主は口を閉ざすしかなかった。
「悪いようにはしない」
「……信じます……緋村さん」
緋村は大きく頷くと夢主の顔を覗き込んだ。
「お主、名は」
「……夢主……」
「夢主殿……お主は不思議な人だ。厄介でならない。だから俺の仕事の為に、お主を排除する。いいな」
飯塚の身勝手な人買いもどきの仕事などどうでも良いと自分に言い聞かせた。
「分かりました……」
「よし、では夢主殿……」
「ぅっ!」
緋村は名を呼ぶと同時に、トンと手刀で夢主の意識を奪った。
「すまないな……こうでなければ連れだせん」
ぐったりした夢主に呼びかけ、緋村は小さな体を担ぎ上げた。
「……ぎる……ぁなたと……かつらさん……ぅらぎる……いぃっ……」
「っ?!」
飛んでいるはずの意識の中、夢主が声をふり絞った。
緋村は驚いて担ごうとした体をもう一度床に下ろした。
「何だ……何の話だ、俺達を裏切るとは何の事だ……」
「けん……しんっ……きを……つけっ……て……」
「剣心……またそう呼ぶのか」
深く意識を失った夢主を見つめながら緋村は呟いた。
無理やり意識を引き戻そうか迷うが、もういい。この女とはこれ以上関わってはならないと本能が告げている。
「無意識に俺を剣心と呼ぶのは、やはり俺を剣心と呼ぶ人間の傍にいたとしか考えられない。……師匠しか思い浮かばない」
手がほんのり汗ばむのを感じた。
夢主が未来から来たなど知らぬ緋村は、自分の過去の名や身の上を知る理由について、一番納得できる答えを導き出した。
「関わらないのが一番だ」
自分が一番関わりたくない男と関わりがあるのならば、直ちに手放したかった。
無傷のまま、深く知らぬまま。
「師匠が表に出てくるはずがない。何故夢主殿が壬生狼と共にいるのか……分からずじまいだが」
夢主の閉じた目を確認すると、改めて緋村は小さな体を抱え上げた。
「これでさよならだ」
緋村は陽のある明るい京の町に出た。
勝手知ったる町を夢主を背負って歩いて行った。