38.知らぬままに
夢主名前設定
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旅館・小萩屋ではどれだけの時が経っただろうか。
生気のない目で立ち尽くした緋村が動けずにいた。
夢主もどうして良いか分からず硬直していた。
やがて緋村は静かに体の向きを変え、俯いたまま部屋の戸を空けた。
緋村の動きにつられ、夢主も正気を取り戻した。
出て行ってしまう、このままどこかへ行ってしまうのか。緋村の不在を不安に感じた。
「どこへ……」
「血を……流してくる」
頬を伝う血が夢主にも見えた。
曇った瞳でぽつりと呟き、緋村は部屋を出て行った。
「どうしよう……剣心、物凄く動揺してる……言い過ぎちゃった……」
夢主は不安と後悔に苛まれ、部屋の入り口を見つめた。
自分の言葉で剣心は忘れていた過去の記憶を呼び戻してしまった。
人斬りの今ならやり過ごせる出来事も、幼ければ同じようにはいかない。
幼い彼が体験したものは、幼子が感じた恐怖そのままで心に残っているに違いない。
言い得ない悔しさや恐ろしさを抱いたはず。
「……ごめんなさぃ……」
それでも、どうしても屯所に戻りたい。夢主は緋村の消えた戸に向かって震える声で謝った。
気付けばまた体が冷えていた。
勝手場に立った緋村はひたすら水をすくっていた。
「傷が消えないのは何故だ……血の臭いが染み付いてきたからか……どうして血が止まらない……どうして……」
緋村は呟きながら何度も何度も頬を洗い流した。
冷たい水に指先が痺れるのも気にせず洗い続けた。
その度に、ちゃぷちゃぷと冷たい水音が響き渡った。
やがて戻ってきた緋村は幾らか落ち着きを取り戻したように見えた。
「もう日が暮れる。夜の京は危険だ」
戻るなり話し始める姿を夢主は黙って見上げた。
もう大丈夫なのだろうか、その顔から感情を探そうと緋村を見つめた。
視線を気にもせず、緋村はいつもの窓辺へ歩いて行く。
「追っ手から逃れるにしても、闇の中が一番という訳ではない……特に俺みたいな男が一緒ならば、むしろ狙われる恐れがある……」
緋村の言葉に胸の鼓動が速くなっていく。
逃がしてくれるのだろうか。一緒に安全な所まで行ってくれるのか。
「あの……それは……」
「何も聞くな、でなければ何も出来ん」
「……はぃ……。緋村さん……あの……ごめんなさい、さっきは……」
真っ直ぐ窓を見ていた緋村はちらりと夢主を見て言葉の途中で小さく頷いた。
「お主が謝ることは何も無い」
緋村は何かを決意したような確かな瞳をしていた。
「ありがとう……ございます……」
夢主は座を正して、緋村に深々と頭を下げた。
新選組と敵対するはずの男の情け深い優しさに、夢主の目頭は熱くなっていった。
生気のない目で立ち尽くした緋村が動けずにいた。
夢主もどうして良いか分からず硬直していた。
やがて緋村は静かに体の向きを変え、俯いたまま部屋の戸を空けた。
緋村の動きにつられ、夢主も正気を取り戻した。
出て行ってしまう、このままどこかへ行ってしまうのか。緋村の不在を不安に感じた。
「どこへ……」
「血を……流してくる」
頬を伝う血が夢主にも見えた。
曇った瞳でぽつりと呟き、緋村は部屋を出て行った。
「どうしよう……剣心、物凄く動揺してる……言い過ぎちゃった……」
夢主は不安と後悔に苛まれ、部屋の入り口を見つめた。
自分の言葉で剣心は忘れていた過去の記憶を呼び戻してしまった。
人斬りの今ならやり過ごせる出来事も、幼ければ同じようにはいかない。
幼い彼が体験したものは、幼子が感じた恐怖そのままで心に残っているに違いない。
言い得ない悔しさや恐ろしさを抱いたはず。
「……ごめんなさぃ……」
それでも、どうしても屯所に戻りたい。夢主は緋村の消えた戸に向かって震える声で謝った。
気付けばまた体が冷えていた。
勝手場に立った緋村はひたすら水をすくっていた。
「傷が消えないのは何故だ……血の臭いが染み付いてきたからか……どうして血が止まらない……どうして……」
緋村は呟きながら何度も何度も頬を洗い流した。
冷たい水に指先が痺れるのも気にせず洗い続けた。
その度に、ちゃぷちゃぷと冷たい水音が響き渡った。
やがて戻ってきた緋村は幾らか落ち着きを取り戻したように見えた。
「もう日が暮れる。夜の京は危険だ」
戻るなり話し始める姿を夢主は黙って見上げた。
もう大丈夫なのだろうか、その顔から感情を探そうと緋村を見つめた。
視線を気にもせず、緋村はいつもの窓辺へ歩いて行く。
「追っ手から逃れるにしても、闇の中が一番という訳ではない……特に俺みたいな男が一緒ならば、むしろ狙われる恐れがある……」
緋村の言葉に胸の鼓動が速くなっていく。
逃がしてくれるのだろうか。一緒に安全な所まで行ってくれるのか。
「あの……それは……」
「何も聞くな、でなければ何も出来ん」
「……はぃ……。緋村さん……あの……ごめんなさい、さっきは……」
真っ直ぐ窓を見ていた緋村はちらりと夢主を見て言葉の途中で小さく頷いた。
「お主が謝ることは何も無い」
緋村は何かを決意したような確かな瞳をしていた。
「ありがとう……ございます……」
夢主は座を正して、緋村に深々と頭を下げた。
新選組と敵対するはずの男の情け深い優しさに、夢主の目頭は熱くなっていった。