38.知らぬままに
夢主名前設定
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「道場……いない。木刀の直しが少し雑だな」
夢主が連れ出される前、不審な気配と空耳、緊迫した事態の中、いつも綺麗に戻す木刀を少し歪んだ状態で直していた。他に手掛かりは無いか、落ちている物や傷など変化が無いか見て回ったが、道場ではそれ以上何も見つからなかった。
次に山崎は勝手元に向かった。家の者に話を聞く為だ。
「すみません、宜しいですか」
珍しく顔を出した山崎に家の使用人も驚いた。
「おや、確か……山崎はん、でっしゃろか」
名前を確認する使用人に山崎は頭を下げた。
「えぇ、山崎です。少しお聞きしたいのですが……」
「何や珍しいお客さんが続きますなぁ」
夢主の所在を訊ねる言葉を遮った使用人の呟きに、山崎はぴくりと眉を動かした。
「珍しいとは」
「いいえぇ、山崎はんがここに来はるなんて滅多にあらへんやろぉ」
使用人は手を動かしながらもニコニコと答えた。
「そうですね……それで、珍しい客が続くというのは」
山崎は使用人に不安を与えないように、さり気無く訊ねた。
忙しく動きながらも使用人は笑顔を崩さない。
「えぇ、それは昨日……一昨日の暮れでしたかねぇ、背の高い……名前は分かりまへんわ、でも何度か見た隊士の方がいらはりましたよ」
「何っ、それは本当ですか!どんな、どんな男でしたか!何しに来たのですか?!」
山崎はやや興奮気味に質問を重ねた。
すると使用人は思い出そうと首を傾げた。
「背の高い……斎藤先生くらいの背ぇでっしゃろなぁ。体格もよろしくて……少し怖いお方でしたな。うふふ、うふふと、男の方やのに変わった笑い方でしたわ」
「っ!!」
特徴的な笑い声、ある男が思い当たった。
土方に動きを注視するよう申し付けられていた鵜堂刃衛だった。
驚いて言葉を失った山崎に使用人は続けた。
「それで用ってのは、新選組の皆様が伏見に入られるので、お嬢はんの文はもう受け取らなくて良いと仰いましてな、それですぐにも京に戻らはるんで、休息所で先生方にお会いするし食事は用意せんでえぇおっしゃってましたわ」
「しまった……」
山崎は衝撃を受けた。
見事にしてやられた。
新選組が伏見に入ると、先だって家の者に連絡したのは事実。現に今は既に伏見で警護に当たっている。
上手くこちらの事情を利用し、まんまと夢主を連れ出したのだ。
山崎は使用人に礼を述べると急いで屯所を後にした。
夢主が連れ出される前、不審な気配と空耳、緊迫した事態の中、いつも綺麗に戻す木刀を少し歪んだ状態で直していた。他に手掛かりは無いか、落ちている物や傷など変化が無いか見て回ったが、道場ではそれ以上何も見つからなかった。
次に山崎は勝手元に向かった。家の者に話を聞く為だ。
「すみません、宜しいですか」
珍しく顔を出した山崎に家の使用人も驚いた。
「おや、確か……山崎はん、でっしゃろか」
名前を確認する使用人に山崎は頭を下げた。
「えぇ、山崎です。少しお聞きしたいのですが……」
「何や珍しいお客さんが続きますなぁ」
夢主の所在を訊ねる言葉を遮った使用人の呟きに、山崎はぴくりと眉を動かした。
「珍しいとは」
「いいえぇ、山崎はんがここに来はるなんて滅多にあらへんやろぉ」
使用人は手を動かしながらもニコニコと答えた。
「そうですね……それで、珍しい客が続くというのは」
山崎は使用人に不安を与えないように、さり気無く訊ねた。
忙しく動きながらも使用人は笑顔を崩さない。
「えぇ、それは昨日……一昨日の暮れでしたかねぇ、背の高い……名前は分かりまへんわ、でも何度か見た隊士の方がいらはりましたよ」
「何っ、それは本当ですか!どんな、どんな男でしたか!何しに来たのですか?!」
山崎はやや興奮気味に質問を重ねた。
すると使用人は思い出そうと首を傾げた。
「背の高い……斎藤先生くらいの背ぇでっしゃろなぁ。体格もよろしくて……少し怖いお方でしたな。うふふ、うふふと、男の方やのに変わった笑い方でしたわ」
「っ!!」
特徴的な笑い声、ある男が思い当たった。
土方に動きを注視するよう申し付けられていた鵜堂刃衛だった。
驚いて言葉を失った山崎に使用人は続けた。
「それで用ってのは、新選組の皆様が伏見に入られるので、お嬢はんの文はもう受け取らなくて良いと仰いましてな、それですぐにも京に戻らはるんで、休息所で先生方にお会いするし食事は用意せんでえぇおっしゃってましたわ」
「しまった……」
山崎は衝撃を受けた。
見事にしてやられた。
新選組が伏見に入ると、先だって家の者に連絡したのは事実。現に今は既に伏見で警護に当たっている。
上手くこちらの事情を利用し、まんまと夢主を連れ出したのだ。
山崎は使用人に礼を述べると急いで屯所を後にした。