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「土方さん……俺は大坂の町を巡察してきます」
そう言って持っていた刀を腰に差した。
「おい待て斎藤。永倉、」
土方はすぐにでも出発しようとする斎藤を制して永倉を呼んだ。
「永倉、お前の隊で朝の巡察を頼む」
「おうよっ、任せときなっ」
爽やかな永倉の声の陰で、斎藤は小さく舌打ちをした。
「今のお前の巡察してくる……は、人を斬ってくるにしか聞こえねぇよ」
確かに不貞な輩を二、三人も斬り捨てれば心が晴れると思った。
斎藤は目を逸らして不貞腐れた顔をした。
「幾ら斬り捨て御免の許しがあるとは言え、騒ぎは御免だ。大人しくしてろ、この馬鹿野郎」
昨日より沈んだ面持ちの斎藤を心配して土方は陣内にその身を留めた。
土方は大坂にいる間も隊士達に稽古をやめさせなかった。
稽古は気持ちを切り替えるのに調度良い。
土方は朝の食事が整うまで、斎藤と沖田に稽古指南の指示を出した。
木刀が無く真剣を使った素振りをさせると、嫌でも緊張感が生まれる。平隊士達はいつも以上に気を張って稽古に臨んでいた。
沖田はいつも通り、厳しくも生き生きと平隊士達を指導する。
斎藤も真面目に取り組むうちに、段々と心の重りが軽くなっていくのを感じた。
やはり体を動かすのが一番か、自身も隊士らと共に真剣を振って体を温めた。
気持ちが晴れてきた頃に稽古は終わり、人を斬りたい衝動はもう消えていた。
日が高く昇りきった頃、新選組の陣に夢主から文が届いた。
受け取った隊士が土方のもとへ届けると、自然と周りに男達が集まってくる。
「夢主ちゃんからだ!」
沖田はまるで自分宛に届いた恋文を開くような気持ちで覗いた。
視線の中心で土方がゆっくり文を開く。
「えぇと……『前略、お元気ですか。夢主は無事です。草々 夢主』……だってよ」
読み終えると土方は皆の顔を見回した。
無難な文面に斎藤は黙って頷いた。だが心なしか顔付きは柔らかくなっている。
「ま、無事で何より」
「夢主ちゃんの字……可愛いなぁ~」
無事で良かったと静かに頷く男達の中、沖田だけがニコニコと満面の笑みで文を眺めている。
「土方さん、この文捨てちゃうんですか?僕に下さいよ!」
沖田は役目を終えた文がどうなるのか気になった。折角の夢主の文をこのまま捨ててしまうのだろうか。
「構わなねぇが……いいか」
念のため土方は皆の顔を確認した。
「あっ?あぁ俺は構わないぜ」
「俺も別にいいぜ」
原田と永倉は賛成した。土方が斎藤を見ると、同じく「構いません」と一言賛成した。
「わぁーありがとうございます!嬉しいなぁ~~、大切にしよう……」
そう言うと沖田は文を畳んで懐に入れ、屈託の無い笑顔で自分の胸に手を当てた。
「ふふっ、あったかい気がします」
そんな沖田を見て斎藤もふっと笑った。
沖田の素直な態度を受け入れられた己に安堵していた。黒く燻っていた気持ちはすっかり落ち着いたらしい。
そう言って持っていた刀を腰に差した。
「おい待て斎藤。永倉、」
土方はすぐにでも出発しようとする斎藤を制して永倉を呼んだ。
「永倉、お前の隊で朝の巡察を頼む」
「おうよっ、任せときなっ」
爽やかな永倉の声の陰で、斎藤は小さく舌打ちをした。
「今のお前の巡察してくる……は、人を斬ってくるにしか聞こえねぇよ」
確かに不貞な輩を二、三人も斬り捨てれば心が晴れると思った。
斎藤は目を逸らして不貞腐れた顔をした。
「幾ら斬り捨て御免の許しがあるとは言え、騒ぎは御免だ。大人しくしてろ、この馬鹿野郎」
昨日より沈んだ面持ちの斎藤を心配して土方は陣内にその身を留めた。
土方は大坂にいる間も隊士達に稽古をやめさせなかった。
稽古は気持ちを切り替えるのに調度良い。
土方は朝の食事が整うまで、斎藤と沖田に稽古指南の指示を出した。
木刀が無く真剣を使った素振りをさせると、嫌でも緊張感が生まれる。平隊士達はいつも以上に気を張って稽古に臨んでいた。
沖田はいつも通り、厳しくも生き生きと平隊士達を指導する。
斎藤も真面目に取り組むうちに、段々と心の重りが軽くなっていくのを感じた。
やはり体を動かすのが一番か、自身も隊士らと共に真剣を振って体を温めた。
気持ちが晴れてきた頃に稽古は終わり、人を斬りたい衝動はもう消えていた。
日が高く昇りきった頃、新選組の陣に夢主から文が届いた。
受け取った隊士が土方のもとへ届けると、自然と周りに男達が集まってくる。
「夢主ちゃんからだ!」
沖田はまるで自分宛に届いた恋文を開くような気持ちで覗いた。
視線の中心で土方がゆっくり文を開く。
「えぇと……『前略、お元気ですか。夢主は無事です。草々 夢主』……だってよ」
読み終えると土方は皆の顔を見回した。
無難な文面に斎藤は黙って頷いた。だが心なしか顔付きは柔らかくなっている。
「ま、無事で何より」
「夢主ちゃんの字……可愛いなぁ~」
無事で良かったと静かに頷く男達の中、沖田だけがニコニコと満面の笑みで文を眺めている。
「土方さん、この文捨てちゃうんですか?僕に下さいよ!」
沖田は役目を終えた文がどうなるのか気になった。折角の夢主の文をこのまま捨ててしまうのだろうか。
「構わなねぇが……いいか」
念のため土方は皆の顔を確認した。
「あっ?あぁ俺は構わないぜ」
「俺も別にいいぜ」
原田と永倉は賛成した。土方が斎藤を見ると、同じく「構いません」と一言賛成した。
「わぁーありがとうございます!嬉しいなぁ~~、大切にしよう……」
そう言うと沖田は文を畳んで懐に入れ、屈託の無い笑顔で自分の胸に手を当てた。
「ふふっ、あったかい気がします」
そんな沖田を見て斎藤もふっと笑った。
沖田の素直な態度を受け入れられた己に安堵していた。黒く燻っていた気持ちはすっかり落ち着いたらしい。