34.出立の時
夢主名前設定
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「そうか……」
斎藤は夢主の哀しそうな笑顔に困った顔を見せた。
「だが万一を考えてこの金は置いておく。必要なら取り出せ。いいな、安全策だと思ってくれ。俺の気が済むんだ、許せよ」
斎藤は己の我が儘でもいいと、包みを葛篭に入れた。
「これでお前の気も楽だろう。俺の葛篭にあれば気にせずに済む」
夢主は小さく頭を縦に動かした。その反動で再び涙が頬を伝った。
「すまなかったな、もう泣くな。泣かすつもりは無かったんだぜ……ほら」
体を寄せると斎藤は指で涙を拭ってやった。
骨ばった指が頬で優しく動き、夢主はビクリとして斎藤を見上げた。
「初めて見た時、守ってやらねば、とな……思ったんだよ。女だからな」
「斎藤……さん……ふふ……ぅふっ」
不意に泣き顔の夢主から笑みが零れた。
斎藤が驚いてそっと顔を覗くと夢主は続けた。
「斎藤さんてば……責任感が強すぎますっ……ふふふっ」
「おいおい、笑ってくれるなよ」
「だって、そんな事で……」
たったそれだけで、こんなに優しくしてくれるなんて。また涙が溢れてきた。
夢主は自分で涙を拭った。
「ごめんなさぃ……涙が……」
「おい……そんな顔をしてくれるな……」
申し訳なさそうに涙を拭いながら懸命に微笑み返す顔は耳まで赤く染まり、必死に笑みを作る口元は微かに震えていた。
斎藤は吸い込まれるように夢主の頬に手を伸ばした。
「夢主……」
刹那、部屋の中の時が止まったように感じられた。
静まり返った部屋で、灯りがゆらゆらと二人の影を映している。
斎藤の伸びた手が夢主の頬から首筋へと静かに動いていった。
「夢主……」
「ぁ……あの……」
斎藤の瞳に捉われて動けない夢主が絞り出すように声を発した時、廊下をこちらへやって来る足音が聞こえた。
「おい、明日に備えてもう寝ろ」
「…………分かりました」
土方の声が障子の向こうから聞こえ、斎藤は顔を上げて返事をした。
土方は各部屋を回り部屋に控えているか確認し、起きている者には声を掛けていた。
斎藤は土方が去るのを確認すると、夢主に向き直った。
「もう寝るぞ」
「は……はぃ」
斎藤は何事も無かったように告げ、夢主に自分の布団へ行くよう促した。
部屋の灯りを消し、自らも布団に滑り込む。
沸き起こった衝動を抑えるように、斎藤は布団の中で己の手を見つめ、力強く握った。
小さな息を吐くと拳を下ろし、静かに目を閉じた。
斎藤は夢主の哀しそうな笑顔に困った顔を見せた。
「だが万一を考えてこの金は置いておく。必要なら取り出せ。いいな、安全策だと思ってくれ。俺の気が済むんだ、許せよ」
斎藤は己の我が儘でもいいと、包みを葛篭に入れた。
「これでお前の気も楽だろう。俺の葛篭にあれば気にせずに済む」
夢主は小さく頭を縦に動かした。その反動で再び涙が頬を伝った。
「すまなかったな、もう泣くな。泣かすつもりは無かったんだぜ……ほら」
体を寄せると斎藤は指で涙を拭ってやった。
骨ばった指が頬で優しく動き、夢主はビクリとして斎藤を見上げた。
「初めて見た時、守ってやらねば、とな……思ったんだよ。女だからな」
「斎藤……さん……ふふ……ぅふっ」
不意に泣き顔の夢主から笑みが零れた。
斎藤が驚いてそっと顔を覗くと夢主は続けた。
「斎藤さんてば……責任感が強すぎますっ……ふふふっ」
「おいおい、笑ってくれるなよ」
「だって、そんな事で……」
たったそれだけで、こんなに優しくしてくれるなんて。また涙が溢れてきた。
夢主は自分で涙を拭った。
「ごめんなさぃ……涙が……」
「おい……そんな顔をしてくれるな……」
申し訳なさそうに涙を拭いながら懸命に微笑み返す顔は耳まで赤く染まり、必死に笑みを作る口元は微かに震えていた。
斎藤は吸い込まれるように夢主の頬に手を伸ばした。
「夢主……」
刹那、部屋の中の時が止まったように感じられた。
静まり返った部屋で、灯りがゆらゆらと二人の影を映している。
斎藤の伸びた手が夢主の頬から首筋へと静かに動いていった。
「夢主……」
「ぁ……あの……」
斎藤の瞳に捉われて動けない夢主が絞り出すように声を発した時、廊下をこちらへやって来る足音が聞こえた。
「おい、明日に備えてもう寝ろ」
「…………分かりました」
土方の声が障子の向こうから聞こえ、斎藤は顔を上げて返事をした。
土方は各部屋を回り部屋に控えているか確認し、起きている者には声を掛けていた。
斎藤は土方が去るのを確認すると、夢主に向き直った。
「もう寝るぞ」
「は……はぃ」
斎藤は何事も無かったように告げ、夢主に自分の布団へ行くよう促した。
部屋の灯りを消し、自らも布団に滑り込む。
沸き起こった衝動を抑えるように、斎藤は布団の中で己の手を見つめ、力強く握った。
小さな息を吐くと拳を下ろし、静かに目を閉じた。