32.屯所の大晦日
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部屋に戻ると斎藤はまた机の前に座っていた。
入り口から中の様子を窺うと斎藤の機嫌は直っているようだ。
中を汚さないよう、夢主は部屋の外に座って頭を下げた。
「あの……さっきはごめんなさい、ちょっとビックリしたのは本当ですが……斎藤さんは私にとってとても頼りになる存在なんです。……歳の事、変に気にしちゃって……ごめんなさい」
言い終えて更に深く頭を下げた。
斎藤がこちらに向かってくる気配が分かる。
「気にするな。土方さんと同じ位かと言われた事も何度かある。お前だけじゃないさ」
許すようにフッと笑みを溢して斎藤は縁側に座った。
「ま、男なら年上に見られるのは誇らしい事だ。ほら、待っててやるから着替えて来い。机の上は触るなよ」
「はいっ」
斎藤の表情に安心し、夢主は部屋に入って今度こそ着替えを始めた。
……お誕生日をお祝いするってしないのかな……斎藤さんのお誕生日、折角だから何かしてあげたいな……
……明日も元日だから一日忙しいかもしれないし明後日には大坂に経ってしまう……
夢主は自分に何が出来るのか一生懸命考えた。
そうこうしているうちに着替えが済み、斎藤を呼び戻した。
「ありがとうございました」
「あぁ」
夢主の着替えで一旦手を止めた斎藤だが、部屋に入ると再び机の前に座って腕を組んだ。
先程夢主が沖田の部屋から戻った時からずっと机で何やら取り組んでいる。
腕組みをして何かを眺めては、筆を取って迷っている。
何かの報告書でも書いているのかと夢主はそっとしておいた。
斎藤は会津の間者かも知れないと噂があったのを覚えていた。
そんな密書を頭をひねって書いているのかもしれない。
だが自分の前でそんな事をするなんて、余程信頼されてるのかな……夢主は一人密かに喜んだ。
夢主は皆の部屋を掃除して回った様子を話し始めた。
「藤堂さんと永倉さん、何か変だなぁと思ったら、春画を隠されてたみたいで……」
「ほぉ……」
くすりと笑いながら話す夢主に、斎藤は細かく筆を動かしながら相槌を打った。
「原田さんもなんですよ!いいだろ~って本当、原田さんも大人っぽいのに可愛らしいと言うか……子供っぽいと言うか……そんな部分もあるんですね、ふふっ」
ぐしゃ……
春画を持っていた原田の事を笑ったその時、斎藤が机の上にあった紙を丸めた。
「斎藤さんそれ……」
「書き損じた」
くしゅっと丸められた紙は屑籠ではなく斎藤の懐にしまわれた。
「すみません……」
「気にするな、お前のせいじゃない」
自分の下らない話のせいで斎藤が筆を誤ったのかと夢主は申し訳なく頭を下げた。
だが斎藤はそんな夢主の姿を見てフンと笑っている。
――ちっこい女と背がひょろ長い男が絡んでてお前ぇらみたいじゃねぇか!
斎藤が懐に隠したその紙は、原田が笑いながら土産で買ってきた春画だった。
その春画は間もなく斎藤の手によって、中庭で集められている塵屑と共に燃やされるのである。
女の日本髪が落書き足され、まるで誰かのような降ろし髪に書き直されているのは斎藤以外、誰にも知られず灰になるのであった。
「は、原田さんたら春画よりももっと凄いものを隠してるそうですよ……もう想像もつかないですっ」
「お前、それを聞いたのか」
「いいぇ……聞いたけど誤魔化されちゃいました……」
「ククッ、それでいい。お前そんな事を男に聞くな、そういう時はすっ飛んで帰って来い」
原田の秘密を知っているのか斎藤は口元を歪めて笑い、少しだけ厭らしい笑いを見せた。
ほんのり火照った顔で訊ねたら、振り絞った勇気に返ってきたのは厭らしさ。夢主はむくれた顔をした。
「もぅ斎藤さんまで……私もう知りませんっ」
「ハハッ、知らんでいい」
斎藤は拗ねる夢主をよそに、一人楽しそうに笑った。
実は似たようなものを斎藤も一つ持っている。
いつかその日が来たら教えてやろうと、斎藤は心の中で笑っていた。
入り口から中の様子を窺うと斎藤の機嫌は直っているようだ。
中を汚さないよう、夢主は部屋の外に座って頭を下げた。
「あの……さっきはごめんなさい、ちょっとビックリしたのは本当ですが……斎藤さんは私にとってとても頼りになる存在なんです。……歳の事、変に気にしちゃって……ごめんなさい」
言い終えて更に深く頭を下げた。
斎藤がこちらに向かってくる気配が分かる。
「気にするな。土方さんと同じ位かと言われた事も何度かある。お前だけじゃないさ」
許すようにフッと笑みを溢して斎藤は縁側に座った。
「ま、男なら年上に見られるのは誇らしい事だ。ほら、待っててやるから着替えて来い。机の上は触るなよ」
「はいっ」
斎藤の表情に安心し、夢主は部屋に入って今度こそ着替えを始めた。
……お誕生日をお祝いするってしないのかな……斎藤さんのお誕生日、折角だから何かしてあげたいな……
……明日も元日だから一日忙しいかもしれないし明後日には大坂に経ってしまう……
夢主は自分に何が出来るのか一生懸命考えた。
そうこうしているうちに着替えが済み、斎藤を呼び戻した。
「ありがとうございました」
「あぁ」
夢主の着替えで一旦手を止めた斎藤だが、部屋に入ると再び机の前に座って腕を組んだ。
先程夢主が沖田の部屋から戻った時からずっと机で何やら取り組んでいる。
腕組みをして何かを眺めては、筆を取って迷っている。
何かの報告書でも書いているのかと夢主はそっとしておいた。
斎藤は会津の間者かも知れないと噂があったのを覚えていた。
そんな密書を頭をひねって書いているのかもしれない。
だが自分の前でそんな事をするなんて、余程信頼されてるのかな……夢主は一人密かに喜んだ。
夢主は皆の部屋を掃除して回った様子を話し始めた。
「藤堂さんと永倉さん、何か変だなぁと思ったら、春画を隠されてたみたいで……」
「ほぉ……」
くすりと笑いながら話す夢主に、斎藤は細かく筆を動かしながら相槌を打った。
「原田さんもなんですよ!いいだろ~って本当、原田さんも大人っぽいのに可愛らしいと言うか……子供っぽいと言うか……そんな部分もあるんですね、ふふっ」
ぐしゃ……
春画を持っていた原田の事を笑ったその時、斎藤が机の上にあった紙を丸めた。
「斎藤さんそれ……」
「書き損じた」
くしゅっと丸められた紙は屑籠ではなく斎藤の懐にしまわれた。
「すみません……」
「気にするな、お前のせいじゃない」
自分の下らない話のせいで斎藤が筆を誤ったのかと夢主は申し訳なく頭を下げた。
だが斎藤はそんな夢主の姿を見てフンと笑っている。
――ちっこい女と背がひょろ長い男が絡んでてお前ぇらみたいじゃねぇか!
斎藤が懐に隠したその紙は、原田が笑いながら土産で買ってきた春画だった。
その春画は間もなく斎藤の手によって、中庭で集められている塵屑と共に燃やされるのである。
女の日本髪が落書き足され、まるで誰かのような降ろし髪に書き直されているのは斎藤以外、誰にも知られず灰になるのであった。
「は、原田さんたら春画よりももっと凄いものを隠してるそうですよ……もう想像もつかないですっ」
「お前、それを聞いたのか」
「いいぇ……聞いたけど誤魔化されちゃいました……」
「ククッ、それでいい。お前そんな事を男に聞くな、そういう時はすっ飛んで帰って来い」
原田の秘密を知っているのか斎藤は口元を歪めて笑い、少しだけ厭らしい笑いを見せた。
ほんのり火照った顔で訊ねたら、振り絞った勇気に返ってきたのは厭らしさ。夢主はむくれた顔をした。
「もぅ斎藤さんまで……私もう知りませんっ」
「ハハッ、知らんでいい」
斎藤は拗ねる夢主をよそに、一人楽しそうに笑った。
実は似たようなものを斎藤も一つ持っている。
いつかその日が来たら教えてやろうと、斎藤は心の中で笑っていた。