30.君の行方、その想い
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「だって、斎藤さん少しおかしいから……いつもと、違うから……」
責める目を向けられた夢主は俯くように目を逸らした。
恥ずかしさと困惑で上気している。障子に掛かる手は強張っていた。
目を合わさぬよう障子の幅を狭め、顔を見ないで済むように後ろ手に閉じきろうと斎藤に背を向けた。
後ろめたい視線も誘う仕草もこれで見なくて済む。
ほっと一息吐いて全てを閉めようとしたその時、障子を奪われる感覚があり、手は空になった。
「え……」
驚いて振り返ろうとするが急に後ろから重みを感じ、振り返ることは出来なかった。
「斎藤……さんっ」
そう、後ろからきつく抱きしめられていた。
「何もせん……なにも……」
諭すように言う斎藤は目を閉じていた。目を閉じて白粉の匂いと、それに混じる夢主の香りを感じている。
少し屈んだ斎藤、温かい息が夢主の首筋に触れ、むずむずと擽ったかった。
「何もって……もう……してるじゃないですか……」
夢主は真っ赤な顔で小さく抵抗の言葉を吐いた。
するとフッと自嘲した斎藤の息が強くかかり、頭の先から背筋にかけて痺れが走る。
腰に斎藤の大きな手が回り、くるりと体の向きを変えられた。
触れられた腰にはぞくりと変な感触が起こる。
「ただの、見納めだ」
斎藤は悩ましげに目を細めて真っ直ぐ夢主を見つめた。熱を帯びているが、とても真剣な目をしている。
垂れた前髪が触れそうな程、顔が近かった。
離す様子が無い斎藤に夢主は戸惑った。
……このまま流されてしまったら、きっと斎藤さんが後悔してしまう……私だって……きっと……
僅かに力を入れて斎藤の胸を押し、顏を逸らした。肩をすぼめて、小さな体が更に小さく見える。
その姿で、そうはなりたくないのだな……斎藤も悟ることができた。
「沖田さんが……もう戻られますよ……」
力を解かれて離れると、もう少し距離を取ろうと俯いたまま斎藤の体を両手で押し離した。
「そうだな」
斎藤はやるせなさそうに応じ、そっと部屋から出ていった。障子を閉めてやり、空を見上げた。
大きく明るい月が、夜だというのに濃い陰影をつけている。
……いっそ何も見えなければ良いものを……
斎藤は明る過ぎる月明かりから逃れようと目を閉じた。
脳裏に残る姿を忘れようとするが、鮮やかに焼き付いて離れない。
……美しい月光も美し過ぎるものと重なれば……
ふぅ、と珍しく大きな溜息を吐いて部屋の前に座り込み、手酌で月見酒を味わった。
部屋の中では静かに夢主が着替えを始めた。
……斎藤さん……怒っちゃったかな……気にしてるかな、私が斎藤さんの事……嫌だって誤解されちゃったかな……
静かな斎藤の部屋の中と、外。
それぞれが苦しみと向き合う時間が過ぎる。
その時を終わらせたのは、二人の空気を無視した元気な足音。どたどた戻ってきた。
「あれ?斎藤さんどうしたんですか!もしかして、追い出されちゃったんですか、ふっ、あはははっ!!」
沖田は大きな声で斎藤を笑った。寒かったのか紺色の半纏を羽織っている。
「フンッ」
斎藤は答える気もなく鼻をならした。
冷たい板の上に座る着流しの斎藤は少し寒そうだ。
外が賑やかになり、中にいる夢主にも斎藤と沖田が酒を呑み始めたのが伝わった。
楽しそうな様子に安心し、奥の襖から出て化粧を落としに向かった。
責める目を向けられた夢主は俯くように目を逸らした。
恥ずかしさと困惑で上気している。障子に掛かる手は強張っていた。
目を合わさぬよう障子の幅を狭め、顔を見ないで済むように後ろ手に閉じきろうと斎藤に背を向けた。
後ろめたい視線も誘う仕草もこれで見なくて済む。
ほっと一息吐いて全てを閉めようとしたその時、障子を奪われる感覚があり、手は空になった。
「え……」
驚いて振り返ろうとするが急に後ろから重みを感じ、振り返ることは出来なかった。
「斎藤……さんっ」
そう、後ろからきつく抱きしめられていた。
「何もせん……なにも……」
諭すように言う斎藤は目を閉じていた。目を閉じて白粉の匂いと、それに混じる夢主の香りを感じている。
少し屈んだ斎藤、温かい息が夢主の首筋に触れ、むずむずと擽ったかった。
「何もって……もう……してるじゃないですか……」
夢主は真っ赤な顔で小さく抵抗の言葉を吐いた。
するとフッと自嘲した斎藤の息が強くかかり、頭の先から背筋にかけて痺れが走る。
腰に斎藤の大きな手が回り、くるりと体の向きを変えられた。
触れられた腰にはぞくりと変な感触が起こる。
「ただの、見納めだ」
斎藤は悩ましげに目を細めて真っ直ぐ夢主を見つめた。熱を帯びているが、とても真剣な目をしている。
垂れた前髪が触れそうな程、顔が近かった。
離す様子が無い斎藤に夢主は戸惑った。
……このまま流されてしまったら、きっと斎藤さんが後悔してしまう……私だって……きっと……
僅かに力を入れて斎藤の胸を押し、顏を逸らした。肩をすぼめて、小さな体が更に小さく見える。
その姿で、そうはなりたくないのだな……斎藤も悟ることができた。
「沖田さんが……もう戻られますよ……」
力を解かれて離れると、もう少し距離を取ろうと俯いたまま斎藤の体を両手で押し離した。
「そうだな」
斎藤はやるせなさそうに応じ、そっと部屋から出ていった。障子を閉めてやり、空を見上げた。
大きく明るい月が、夜だというのに濃い陰影をつけている。
……いっそ何も見えなければ良いものを……
斎藤は明る過ぎる月明かりから逃れようと目を閉じた。
脳裏に残る姿を忘れようとするが、鮮やかに焼き付いて離れない。
……美しい月光も美し過ぎるものと重なれば……
ふぅ、と珍しく大きな溜息を吐いて部屋の前に座り込み、手酌で月見酒を味わった。
部屋の中では静かに夢主が着替えを始めた。
……斎藤さん……怒っちゃったかな……気にしてるかな、私が斎藤さんの事……嫌だって誤解されちゃったかな……
静かな斎藤の部屋の中と、外。
それぞれが苦しみと向き合う時間が過ぎる。
その時を終わらせたのは、二人の空気を無視した元気な足音。どたどた戻ってきた。
「あれ?斎藤さんどうしたんですか!もしかして、追い出されちゃったんですか、ふっ、あはははっ!!」
沖田は大きな声で斎藤を笑った。寒かったのか紺色の半纏を羽織っている。
「フンッ」
斎藤は答える気もなく鼻をならした。
冷たい板の上に座る着流しの斎藤は少し寒そうだ。
外が賑やかになり、中にいる夢主にも斎藤と沖田が酒を呑み始めたのが伝わった。
楽しそうな様子に安心し、奥の襖から出て化粧を落としに向かった。