「斎藤さん……」

斎藤を見上げると、自分の胸が高鳴っていくのが分かる。
恥ずかしさと同時に、斎藤の反応が気になって仕方がない。顔を見ては逸らしてと、ちらちらと何度も顔を見る形になってしまう。
斎藤は箸を持ったままだった己に気付き、素早く降ろして猪口を手に取った。

「似合っている……そう言って、構わんだろう」

遠まわしな言い方になってしまったが、斎藤は思いのままを告げた。

「ありがとうございます」

夢主は素直に喜び、頭を下げた。
酒を注いで猪口を満たすと、斎藤は一気に呑み干してしまった。
緊張して喉が渇いていたのか。夢主はすぐに注ぎ足した。
すると今度は酒の入った猪口を持ったまま、しげしげと夢主を眺めている。

「見事だ……」

「ぇっ」

ぼそっと消えそうな呟きが聞こえた。周りの誰にも届かない呟きだ。

見事とはどういう意味か……夢主の顔は婀娜やかな着物に負けないほど赤くなってしまった。
斎藤はその様子をフッと笑った。

「おぉい、斎藤ぉ！夢主ちゃん独り占めすんなよなぁ！」

「そうだそうだ！俺たちにも酌、頼むぜ！」

周りからの催促に、夢主は皆の顔を見回し「すみません、只今っ」と頭を下げた。

「斎藤さん、ありがとうございます……」

褒められたのか分からないが、夢主は斎藤にそう告げて場所を移動した。
皆の席を回ることに必死で、最後まで注がれ続けたの斎藤の視線には気付かなかった。

「遅くなってすみません、藤堂さん」

「いやぁ～～すんげーー可愛いよ！ずっと呆けて見ちまったよ！」

「そんな……そんな事は……」

照れながら、そんな他愛も無いやり取りを繰り返していった。

「永倉さん、お待たせいたしました……」

「ぉ、おぉうっ！！きっ、きれぃ……だな……」

久しぶりに見る永倉がきょどきょどするさまを、夢主は笑ってしまった。
でも、そんな姿を見ると哀しい一夜を思い出してしまう。

「ありがとうございます。……今日は……というかもう今後一切、な、なんと言われようが……絶対に駄目です！……よっ！！」

「ぶはぁっ」

夢主は伏目がちに永倉へ仕返しの一言を残し、そそくさと席を離れた。
永倉は慌てて吹き溢した酒を拭った。

「はははっ、新八、自業自得だな！嬢ちゃんよく言ったぜ！！」

原田が助け舟を出して笑った。夢主は「えへへ……」と肩をすぼめ、苦笑いで酌を続けた。