27.墨の黒と、紅の赤
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「遅くなって済まなかったとの事だ」
斎藤は鏡を衝立の奥、夢主にとって使い勝手が良さそうな部屋の隅に置いた。
「いえ、そんな。お借りできるだけで嬉しいです、昼間にお聞きしました。斎藤さんに持ってきてもらっちゃって……ありがとうございます」
後で届けると言われたが、まさか斎藤が取りに行ってくれるとは思わなかった。
申し訳なさそうな夢主に斎藤は構わんといった素振りを見せた。
「斎藤さんの櫛、毎日使ってます。本当に大好きで……」
引き出しに櫛と紅を入れるが、閉めてしまうのが名残惜しい。
櫛が見えなくなる前、夢主はそっと一撫でした。
姿を覗き見ていた斎藤の口元が小さく緩む。
「あっ、く、櫛がですよ!」
大好きという言葉が向かう先を勘違いされたと思った夢主は急いで訂正した。
「あぁ分かっている」
斎藤は夢主が櫛を大切に扱うさまを常々見ていた。
言われるまでも無く知っていると、したり顔を見せた。買い与えただけで今は夢主の櫛。だが己から渡った物を大切に扱われるのは嬉しいものだ。
「こ、今度、紅を持って来いって言われて……」
昼間の話を斎藤に打ち明けた。恥ずかしいけれど突然化粧をして現れて驚かれるのも嫌だったからだ。
「そうか。きっと似合うぞ」
「えっ……」
斎藤は心なしか驚いたように見えた。だがすぐ何も気には留めない、そんな声色で夢主に告げた。
思いがけない言葉に夢主は頬が赤く染まる。
その様子を見て斎藤は口元を歪めた。
「フっ、もう寝ろ。俺は夜の巡察だ。また明日な」
最近の斎藤は、たまにだが挨拶とも取れる言葉を掛けてくれる。
何でもない日常の出来事だが夢主にとっては嬉しい大きな変化だった。
「はぃ……おやすみなさい。お気をつけて」
軽く頭を下げて斎藤を見送った。
静かになった部屋で借りた鏡を見る。鏡の中の自分に向かって微笑んでいた。
幸せそうな自分の顔に気付き、ひとり恥ずかしさを覚えて、隠れるように布団に身を入れた。
一人屯所の廊下を行く斎藤の顔も微かに綻んでいた。
斎藤は鏡を衝立の奥、夢主にとって使い勝手が良さそうな部屋の隅に置いた。
「いえ、そんな。お借りできるだけで嬉しいです、昼間にお聞きしました。斎藤さんに持ってきてもらっちゃって……ありがとうございます」
後で届けると言われたが、まさか斎藤が取りに行ってくれるとは思わなかった。
申し訳なさそうな夢主に斎藤は構わんといった素振りを見せた。
「斎藤さんの櫛、毎日使ってます。本当に大好きで……」
引き出しに櫛と紅を入れるが、閉めてしまうのが名残惜しい。
櫛が見えなくなる前、夢主はそっと一撫でした。
姿を覗き見ていた斎藤の口元が小さく緩む。
「あっ、く、櫛がですよ!」
大好きという言葉が向かう先を勘違いされたと思った夢主は急いで訂正した。
「あぁ分かっている」
斎藤は夢主が櫛を大切に扱うさまを常々見ていた。
言われるまでも無く知っていると、したり顔を見せた。買い与えただけで今は夢主の櫛。だが己から渡った物を大切に扱われるのは嬉しいものだ。
「こ、今度、紅を持って来いって言われて……」
昼間の話を斎藤に打ち明けた。恥ずかしいけれど突然化粧をして現れて驚かれるのも嫌だったからだ。
「そうか。きっと似合うぞ」
「えっ……」
斎藤は心なしか驚いたように見えた。だがすぐ何も気には留めない、そんな声色で夢主に告げた。
思いがけない言葉に夢主は頬が赤く染まる。
その様子を見て斎藤は口元を歪めた。
「フっ、もう寝ろ。俺は夜の巡察だ。また明日な」
最近の斎藤は、たまにだが挨拶とも取れる言葉を掛けてくれる。
何でもない日常の出来事だが夢主にとっては嬉しい大きな変化だった。
「はぃ……おやすみなさい。お気をつけて」
軽く頭を下げて斎藤を見送った。
静かになった部屋で借りた鏡を見る。鏡の中の自分に向かって微笑んでいた。
幸せそうな自分の顔に気付き、ひとり恥ずかしさを覚えて、隠れるように布団に身を入れた。
一人屯所の廊下を行く斎藤の顔も微かに綻んでいた。