27.墨の黒と、紅の赤
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あと幾日で斎藤達が屯所を発つのか詳しく知らされていないが、夢主は世話になる家の人達に改めて挨拶をしようと考えた。
確か大坂に発つのは新年早々だったはず。
お正月のお祝いとかしないのかな……食事の片付けを手伝いながらそんな事も考えていた。
「あの……」
「あら夢主はん、今日もおおきに」
「いぇっ、こちらこそいつもお世話になりまして……」
つい硬い挨拶になってしまう。
しかし奉公人達とは距離を置いていたが、前川家女房とはそれなりに打ち解けている。
「なんや揃いで大坂いかはるなんて偉ぅなったもんどすなぁ」
「みなさん頑張っていらして凄いです。あの、みなさんが大坂に行ってる間に文を……」
「聞いとります聞いとります、毎日て随分えらいこと言わはるな。さすがにしんどいどっしゃろ」
「ふふっ、確かにそうなんですけど……私を案じて下さっての事なので、お手間ですけども宜しくお願いします」
「さよか、ほんならえぇけども……」
「あ、あの、もう一つお聞きしても宜しいでしょうか……」
正月について聞いてみた。
古くからの郷士が集まるこの一帯では、新年の挨拶回り、地域や家の行事が多く、その集まりに居候の隊士達は呼べないとの事。
同席を願うとしても局長の近藤、副長の土方の二人だけ。
浮かれて隊士達の為に何かをする暇は無さそうだ。
ただ、年末に餅つきをするので、力自慢の隊士達に手伝ってもらうかもしれないとの話だった。
「そうそう、随分前やけども斎藤はんに鏡が欲しぃ言われましてなぁ。どこいったもんかと探しましたらようやっと出てきはったんよ。なんや、夢主はんが使いなさるんかいな」
「は、はぃ……あの、大分前なんですけど沖田さんが紅を下さって」
以前、沖田から紅を貰った事を打ち明けた。
斎藤に貰った櫛は毎日使っているが、紅は眺める時はあっても一度も使っていない。
それでも沖田は一切咎めず催促もしてこない。
綺麗な紅入れを見る度、そんな好意に甘えて紅を付けて見せる約束を先延ばしにしている事を申し訳なく感じた。
「そらぁあ!付けて見せてあげなあきまへんえ!まだ一度もしてへんのやないの」
「それが良く分からなくて……紅だけつけてもいいんでしょうか、浮いちゃわないかと……白粉は抵抗がありまして……」
「聞いたわ、嫌なんどすなぁ。なぁ一度くらいやったら構へんやないの。手伝ぅたけるから今度持ってきなはれ」
「……はぃ……」
世話になっており無下に断る事もできない。
口に入らないように気をつけて、すぐに落とせば問題ないだろうか……夢主は自分を説き伏せるように考えた。
鏡はその日のうちに斎藤が持ってきてくれた。
小さな引き出しも一緒になった作りだ。鏡の下に細々した物が入るようになっている。
確か大坂に発つのは新年早々だったはず。
お正月のお祝いとかしないのかな……食事の片付けを手伝いながらそんな事も考えていた。
「あの……」
「あら夢主はん、今日もおおきに」
「いぇっ、こちらこそいつもお世話になりまして……」
つい硬い挨拶になってしまう。
しかし奉公人達とは距離を置いていたが、前川家女房とはそれなりに打ち解けている。
「なんや揃いで大坂いかはるなんて偉ぅなったもんどすなぁ」
「みなさん頑張っていらして凄いです。あの、みなさんが大坂に行ってる間に文を……」
「聞いとります聞いとります、毎日て随分えらいこと言わはるな。さすがにしんどいどっしゃろ」
「ふふっ、確かにそうなんですけど……私を案じて下さっての事なので、お手間ですけども宜しくお願いします」
「さよか、ほんならえぇけども……」
「あ、あの、もう一つお聞きしても宜しいでしょうか……」
正月について聞いてみた。
古くからの郷士が集まるこの一帯では、新年の挨拶回り、地域や家の行事が多く、その集まりに居候の隊士達は呼べないとの事。
同席を願うとしても局長の近藤、副長の土方の二人だけ。
浮かれて隊士達の為に何かをする暇は無さそうだ。
ただ、年末に餅つきをするので、力自慢の隊士達に手伝ってもらうかもしれないとの話だった。
「そうそう、随分前やけども斎藤はんに鏡が欲しぃ言われましてなぁ。どこいったもんかと探しましたらようやっと出てきはったんよ。なんや、夢主はんが使いなさるんかいな」
「は、はぃ……あの、大分前なんですけど沖田さんが紅を下さって」
以前、沖田から紅を貰った事を打ち明けた。
斎藤に貰った櫛は毎日使っているが、紅は眺める時はあっても一度も使っていない。
それでも沖田は一切咎めず催促もしてこない。
綺麗な紅入れを見る度、そんな好意に甘えて紅を付けて見せる約束を先延ばしにしている事を申し訳なく感じた。
「そらぁあ!付けて見せてあげなあきまへんえ!まだ一度もしてへんのやないの」
「それが良く分からなくて……紅だけつけてもいいんでしょうか、浮いちゃわないかと……白粉は抵抗がありまして……」
「聞いたわ、嫌なんどすなぁ。なぁ一度くらいやったら構へんやないの。手伝ぅたけるから今度持ってきなはれ」
「……はぃ……」
世話になっており無下に断る事もできない。
口に入らないように気をつけて、すぐに落とせば問題ないだろうか……夢主は自分を説き伏せるように考えた。
鏡はその日のうちに斎藤が持ってきてくれた。
小さな引き出しも一緒になった作りだ。鏡の下に細々した物が入るようになっている。