「前に僕が言った事、覚えてるかな……まずは二十七歳を越えてみせるって」

切ない気持ちで沖田の顔を見てしまう。
夢主はゆっくり頷いた。

「そうしたら、僕は夢主ちゃんと同じになれるんですよ」

「ぇ……同じ……」

夢主は沖田の真面目な話の意図が掴めず、困った顔で首を傾げた。

「その場に、居てはならない……歴史に名のない者……です」

言った沖田はにこりと笑った。
夢主は目を見開いた。時折思う自分の存在。皆と深く関わる程に歯痒さが湧いてくる。
たとえ存命しても沖田はその辛さを味わう事になるのだ。そして命尽きる事を知らなければそんなもの、知らずに済んだのだ。

「ごめんなさい……私本当に余計な事を……」

顔を手で覆い、項垂れた。

「いいえ、謝らないで。僕は嬉しいって言ったでしょ？あのね、もしその齢を越えられたら……夢主ちゃんにお願いがあるんです」

「お願……い」

どういう事でしょうと言わんばかりに、泣きそうな顔を沖田に向けた。

「僕と一緒に生きてくれませんか……」

「一緒に……」

「そうです。同じ存在として一緒に生きる。例えば、僕のお嫁さんに……なってくれませんか」

…………え……

驚きの余り声が出てこない。耳を疑った。

「……ぉ、沖田……さん？」

「本気ですよ僕は。もちろん……夢主ちゃんが嫌なら無理強いはしません。誰か想う人がいるなら、その人と幸せになってくれれば……僕はそれで嬉しいです。夢主ちゃんに幸せでいて欲しいんです」

沖田は静かに語り、夢主の手に自らの手を重ねた。

「でも……夢主ちゃんに貰った命、貴女の為に生きたいんです。出来るなら……僕の手で幸せにしてあげたい」

何と答えて良いか分からなかった。
ただ真剣な沖田の優しい眼差しに、涙が溢れてきた。

「ごめんなさぃ……私……私っ……」

夢主は涙を溢して沖田から顔を背けた。そして幾度も首を横に振った。
沖田にもその答えは分かっていた。自分を見ていないと気付かないわけが無い。

「それでもいいんです。どうか……そばにいさせて下さい。この動乱の時代……貴女を守って見せます」

夢主は濡れた顔をそっと上げ、黙って沖田を見つめた。

「ごめんね急に！夢主ちゃんの話を聞こうと思ってたのに！なんか突然こんな話っ、あははっ」

少し気まずそうに言うと手を離し、明るくおどけて見せた。自分でも予想外の行動に出てしまったのだ。
しかし幸せに笑っていて欲しい、笑えたらその笑顔を守り抜きたい、それは心からの願い。

「でも力になりたいんだ。どんな話でもいいから聞かせて……斎藤さんと何かあったの。覚悟は出来てるよ、どんな事でも力になるから……話して欲しいんだ」

涙を拭きながら、夢主は沖田の優しさに微笑んだ。
どうしても話して下さいと、力強い瞳で沖田は迫っている。

「ふふっ……そんなお話……聞いた後で話し……難いですっ……」

ぐすっ……、鼻をすすりながら誤魔化すように微笑んでいる。