24.冬の刺客
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「どうした」
土方は夢主の前に屈み込んだ。
「ぁの……人……」
「刃衛に何かされたのか」
夢主はぶんぶんと首を振った。濡れた毛束から幾つかの水滴が飛ぶ。
顔は未だ引き攣ったままだ。呆けた様に一点を見つめたまま喋り始めた。
「あの人……あの人怖いです……怖い人です……鵜堂……刃衛……」
知るはずのない鵜堂の名が出て、土方は驚いた。
「あいつを知っているのか」
そう言うと土方は首を左右に振って周りの気配を探った。辺りには誰もいない。
震えが治まらない夢主の体に手を回し支えてやった。
「話せるか」
頷く夢主は少しだけ体勢を整えた。そして何か言葉にしようと口を小さくぱくぱく動かしている。
余りの動揺ぶりを見て、土方は落ち着かせようと背中を擦った。
「立てるか。縁側にでも座れ」
土方は夢主の力ない体を支えながら立ち上がらせ、ゆっくり近くの縁側に腰掛けさせた。
隣に自らも座り、夢主の様子を窺う。
「あの人……恐ろしい人です……」
顔を上げて土方を見る夢主にはまだ青白さが残っている。
「あの人は、隊務を越えた殺戮を繰り返して……粛清の対象になるんです。でもあの人は普通の隊士のみなさんでは歯が立ちません……沢山の隊士の方を手に掛けて……そのまま逃げて……」
一度、ちらりと土方の顔を見た。最後まで伝えて構わないだろうか。
「その後、今度は勤皇の志士……って言うんでしょうか、仇敵の側に回って今度は人斬りになって……正義も理由も要らないんです。人が斬れればいい、そんな人で……凄く……怖い人……」
「そうか」
刃衛はまだ粛清に値するほど行き過ぎた行動には出ていない。
市中取締りが命の新選組に於いて、多少、斬り方や止めの刺し方が常識を逸脱しており、残忍だと咎められた事がある程度だった。
「気に掛けておこう。何もない今は様子を見るしかない。あれはあれで役立つ手練なんだ」
夢主は致し方無しと俯いた。
「目を……目を見ちゃ駄目です……あの人、暗示をかけるんです」
土方の眉間に皺が寄る。
「暗示……だと」
「はい……」
夢主は動くようになった体を確かめるよう、指を動かした。
曲げ伸ばし出来るが、小刻みに震えていた。
「経験の浅い隊士の皆さんはきっと掛かってしまうと思います……」
「まさかお前、さっき……されたのか」
土方は目を鋭くして訊いた。だが夢主は頷かなかった。
「いぇ……きっと……少し揶揄ってやろうと……そんな感じだったんだと思います。本気で暗示をかけられたら動けなくなって、呼吸も止まってしまうんです。今のあの人がそこまで出来るか分かりませんが……」
「そうか」
土方は厳しい目つきで腕組みをした。
土方は夢主の前に屈み込んだ。
「ぁの……人……」
「刃衛に何かされたのか」
夢主はぶんぶんと首を振った。濡れた毛束から幾つかの水滴が飛ぶ。
顔は未だ引き攣ったままだ。呆けた様に一点を見つめたまま喋り始めた。
「あの人……あの人怖いです……怖い人です……鵜堂……刃衛……」
知るはずのない鵜堂の名が出て、土方は驚いた。
「あいつを知っているのか」
そう言うと土方は首を左右に振って周りの気配を探った。辺りには誰もいない。
震えが治まらない夢主の体に手を回し支えてやった。
「話せるか」
頷く夢主は少しだけ体勢を整えた。そして何か言葉にしようと口を小さくぱくぱく動かしている。
余りの動揺ぶりを見て、土方は落ち着かせようと背中を擦った。
「立てるか。縁側にでも座れ」
土方は夢主の力ない体を支えながら立ち上がらせ、ゆっくり近くの縁側に腰掛けさせた。
隣に自らも座り、夢主の様子を窺う。
「あの人……恐ろしい人です……」
顔を上げて土方を見る夢主にはまだ青白さが残っている。
「あの人は、隊務を越えた殺戮を繰り返して……粛清の対象になるんです。でもあの人は普通の隊士のみなさんでは歯が立ちません……沢山の隊士の方を手に掛けて……そのまま逃げて……」
一度、ちらりと土方の顔を見た。最後まで伝えて構わないだろうか。
「その後、今度は勤皇の志士……って言うんでしょうか、仇敵の側に回って今度は人斬りになって……正義も理由も要らないんです。人が斬れればいい、そんな人で……凄く……怖い人……」
「そうか」
刃衛はまだ粛清に値するほど行き過ぎた行動には出ていない。
市中取締りが命の新選組に於いて、多少、斬り方や止めの刺し方が常識を逸脱しており、残忍だと咎められた事がある程度だった。
「気に掛けておこう。何もない今は様子を見るしかない。あれはあれで役立つ手練なんだ」
夢主は致し方無しと俯いた。
「目を……目を見ちゃ駄目です……あの人、暗示をかけるんです」
土方の眉間に皺が寄る。
「暗示……だと」
「はい……」
夢主は動くようになった体を確かめるよう、指を動かした。
曲げ伸ばし出来るが、小刻みに震えていた。
「経験の浅い隊士の皆さんはきっと掛かってしまうと思います……」
「まさかお前、さっき……されたのか」
土方は目を鋭くして訊いた。だが夢主は頷かなかった。
「いぇ……きっと……少し揶揄ってやろうと……そんな感じだったんだと思います。本気で暗示をかけられたら動けなくなって、呼吸も止まってしまうんです。今のあの人がそこまで出来るか分かりませんが……」
「そうか」
土方は厳しい目つきで腕組みをした。