21.月見水
夢主名前設定
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斎藤はもう一度酒を注ぎ直すと顔の前で掲げるように持ち、猪口で月を指した。
「下を向いていては折角の月が見えんぞ」
「・・・そうですね」
今はただ月を楽しもう。
折角用意してくれた水の徳利。私の為にしてくれた、そう思うだけで嬉しいのに。怖いと感じるなんて、そんな日はきっと訪れない。斎藤さんも沖田さんも、怖くなんか・・・。
手の中で揺れる水はたまに月の色をきらりと映す。
・・・黄金色の月は、貴方のようです・・・
夢主は心の中で呟きながら水を口に含んだ。
時折吹く風がとても冷たく、藍色の半纏の暖かさがありがたい。
頬をくすぐる冷たさに、斎藤は本当に寒くないのかと横目で窺ってしまった。
夜風を少しも気にする素振りも無く、風の心地よさを味わっているようだ。
美しい瞳を月に向けて、たまに垂れた前髪がさらりと揺れていた。
静かに二人、ゆっくりと月を眺めた。
眠気が襲ってくるまで、ゆっくりと。
やがて、まどろんできた夢主は眠たげな目を斎藤に向けた。
「眠るか」
「・・・」
黙って頷き、夢主は無意識に斎藤に手を伸ばした。
酔ってもいないのに甘える夢主を斎藤は内心「こいつめ・・・」と笑った。
「やれやれだな」
斎藤の手も伸びてきて、夢主はしがみ付くように腕を回した。脇下と膝下に手が入り軽々担がれる。
夜風で冷えたのか、近付いた斎藤の体は少し冷たかった。
「毎度毎度、お前って奴は」
「ふふっ・・・いいじゃないですか・・・斎藤さんのお仕事ですっ」
ふざけて、斎藤が歩き出すと更にぎゅっとしがみ付いた。
部屋までは二、三歩しかない。
「斎藤さんの匂い・・・心地良いです・・・血の臭いが気にならないんです・・・」
すぐ傍に顔がある斎藤にだけ聞こえるような小さな声で呟いた。
斎藤は黙って部屋に進んだ。奥まで進み、夢主をそっと布団に下ろす。
それでも夢主はしがみ付いていた。
「おい」
「ふふっ・・・」
体を離すと何故か笑いがこみ上げてきた。
「ありがとうございます。今日は私のほうが良く眠れそうです」
「フッ、言うなこいつ」
昼間の斎藤の言葉をおちょくって返した。
「おやすみなさい」
「あぁ」
斎藤は盆を部屋に引き入れて自らも布団に身を滑らせた。
月の美しさと酒、良い時間を味わった。今宵もよく眠れそうだ。柄にも無くそんな事を考えていた。
夢主は半纏を畳んで枕元に、代わりに桃色の丹前を布団の上に広げた。
布団をかぶってもまだ斎藤の残り香を感じている。温もりは消えそうにない。今日はとても暖かい夜になった。
「下を向いていては折角の月が見えんぞ」
「・・・そうですね」
今はただ月を楽しもう。
折角用意してくれた水の徳利。私の為にしてくれた、そう思うだけで嬉しいのに。怖いと感じるなんて、そんな日はきっと訪れない。斎藤さんも沖田さんも、怖くなんか・・・。
手の中で揺れる水はたまに月の色をきらりと映す。
・・・黄金色の月は、貴方のようです・・・
夢主は心の中で呟きながら水を口に含んだ。
時折吹く風がとても冷たく、藍色の半纏の暖かさがありがたい。
頬をくすぐる冷たさに、斎藤は本当に寒くないのかと横目で窺ってしまった。
夜風を少しも気にする素振りも無く、風の心地よさを味わっているようだ。
美しい瞳を月に向けて、たまに垂れた前髪がさらりと揺れていた。
静かに二人、ゆっくりと月を眺めた。
眠気が襲ってくるまで、ゆっくりと。
やがて、まどろんできた夢主は眠たげな目を斎藤に向けた。
「眠るか」
「・・・」
黙って頷き、夢主は無意識に斎藤に手を伸ばした。
酔ってもいないのに甘える夢主を斎藤は内心「こいつめ・・・」と笑った。
「やれやれだな」
斎藤の手も伸びてきて、夢主はしがみ付くように腕を回した。脇下と膝下に手が入り軽々担がれる。
夜風で冷えたのか、近付いた斎藤の体は少し冷たかった。
「毎度毎度、お前って奴は」
「ふふっ・・・いいじゃないですか・・・斎藤さんのお仕事ですっ」
ふざけて、斎藤が歩き出すと更にぎゅっとしがみ付いた。
部屋までは二、三歩しかない。
「斎藤さんの匂い・・・心地良いです・・・血の臭いが気にならないんです・・・」
すぐ傍に顔がある斎藤にだけ聞こえるような小さな声で呟いた。
斎藤は黙って部屋に進んだ。奥まで進み、夢主をそっと布団に下ろす。
それでも夢主はしがみ付いていた。
「おい」
「ふふっ・・・」
体を離すと何故か笑いがこみ上げてきた。
「ありがとうございます。今日は私のほうが良く眠れそうです」
「フッ、言うなこいつ」
昼間の斎藤の言葉をおちょくって返した。
「おやすみなさい」
「あぁ」
斎藤は盆を部屋に引き入れて自らも布団に身を滑らせた。
月の美しさと酒、良い時間を味わった。今宵もよく眠れそうだ。柄にも無くそんな事を考えていた。
夢主は半纏を畳んで枕元に、代わりに桃色の丹前を布団の上に広げた。
布団をかぶってもまだ斎藤の残り香を感じている。温もりは消えそうにない。今日はとても暖かい夜になった。