6.祈りを訊いて
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城に戻って勤めを果たす時尾は、何度も空の様子を眺めていた。
時の進み具合を見るように、何度も日の位置を確かめていた。
あと一刻もしないうちにもう一度あの人に会える。
「父の話が聞ける。いぃえ、父の話よりも……」
自分を見下ろす斎藤の視線を体で思い出した時尾、空を見上げていた顔を下ろし、きゅっと手を握り締めた。
あの人に、会いたい。気持ちが浮つくがその先に待つ現実、戦と別れに浮かれた気持ちは沈んでいく。そんな気持ちの浮き沈みを何度も繰り返していた。
白河へ出陣すると言っていたあの人は、その先、どこを目指して進むのだろうか。戦はいつ終わるのか。あの人は戦を生き抜けるだろうか。戦が終わった時、あの人はどうするのだろうか。
答えの無い一人問答をして、時尾は何度も仕事の手を止めていた。
「山口二郎様、斎藤様、斎藤……一様……」
早く時が過ぎて欲しいけれど、時が止まって欲しいとも思う。
「私は我が儘なのです」
時間を持て余しているという言葉に甘えて、何日もの間、あの人を振り回していた。
致し方なしと自分に付き添ってくれたあの人、やれやれと何度も言われたけれど、どこか笑っている気もした。
「やはり、早くお会いしたい」
時尾は再び空を見上げて微笑んだ。
下城の時、時尾は周囲の目も気にせず、いそいそと帰り支度を済ませて城を飛び出した。
殿方との逢瀬を誰かに見られては恥ずかしい思いと、斎藤がここまで来ていたらどうしようと嬉しい戸惑いを振り払う為、きょろきょろと顔を振ってから小走りで門を離れた。
日の入りが早い季節、早くも山の向こうに日が隠れようとしている。時尾は先日斎藤と合流した場所を目指した。
地面の砂土を蹴る急ぎ足で暫く行くと、斎藤が袖に手を隠して腕を組み、立っていた。
時尾に気付いて腕を解く姿に、時尾の顔が綻ぶ。時尾はあっという間に斎藤に駆け寄った。
「ありがとうございます、斎藤様」
「気にするな」
斎藤の口元が二ッと動いた。気になる女が目の前でにこにこと嬉しそうにしている。悪い気はしない。斎藤の気持ちも俄かに浮ついた。
「斎藤様」
「その、様はいらん。俺は一介の浪人、高木家は格が違うだろ」
家の格、身分など気にする性質ではない斎藤だが、時尾とその周囲の人々の考えを汲んだ。しかし時尾も気にしませんと首を振った。
「関係ありません。それに、斎藤様は一隊の隊長です。しかも幕臣になられたとお聞きしました」
「断った。柄じゃないんでな」
新選組幹部を丸ごと幕臣に、幕府から提案があったが多くの者が拒んだ。斎藤もその一人だった。
「幕府を守る為に尽力してきたと思われがちだが真実は違う」
「そうなのですか」
「あぁ」
己の正義を貫いてきただけの斎藤に返したい恩義があるとすれば、会津公に対してだ。会津新選組隊長を引き受け、会津を守る為に出陣する理由もそこにある。
京で新選組を支えてくれた会津。今は、時尾が住まう会津。斎藤にとって、すっかり特別な地になっていた。
「でも、斎藤様としか呼べません。……もし、出陣されてお戻りになりましたら、少し譲っても……構いませんが」
「ほぅ、何故出陣後なんだ」
「それは……」
無事に戦を終えて欲しいから。その時は、自分のもとへ戻って来て欲しいから。
望みを伝えあぐねる時尾を見て、斎藤はすぐに承服した。
「いいだろう。面白い約束だな」
問い詰める気はない。質問攻めにした時のように新選組幹部の癖を出す前に、頷いたのだ。
時尾に苦笑いが浮かぶ。また我が儘を貫いてしまった申し訳なさと、ほっとした安堵が滲んでいる。
「さて、どこへ行く。いつもの社でいいのか」
「はい。あの社がいいです」
二人きりになれる場所。慣れ親しんだ場所。父との思い出がある場所へ共に行きたい。
時尾の心をどこまで汲んだのか、斎藤はフッと笑んで行くぞと袖を広げた。
揃って砂土を踏みしめた二人、進み始めて間もなく、背後に近付く足音に振り向いた。
「姉上っ!」
時の進み具合を見るように、何度も日の位置を確かめていた。
あと一刻もしないうちにもう一度あの人に会える。
「父の話が聞ける。いぃえ、父の話よりも……」
自分を見下ろす斎藤の視線を体で思い出した時尾、空を見上げていた顔を下ろし、きゅっと手を握り締めた。
あの人に、会いたい。気持ちが浮つくがその先に待つ現実、戦と別れに浮かれた気持ちは沈んでいく。そんな気持ちの浮き沈みを何度も繰り返していた。
白河へ出陣すると言っていたあの人は、その先、どこを目指して進むのだろうか。戦はいつ終わるのか。あの人は戦を生き抜けるだろうか。戦が終わった時、あの人はどうするのだろうか。
答えの無い一人問答をして、時尾は何度も仕事の手を止めていた。
「山口二郎様、斎藤様、斎藤……一様……」
早く時が過ぎて欲しいけれど、時が止まって欲しいとも思う。
「私は我が儘なのです」
時間を持て余しているという言葉に甘えて、何日もの間、あの人を振り回していた。
致し方なしと自分に付き添ってくれたあの人、やれやれと何度も言われたけれど、どこか笑っている気もした。
「やはり、早くお会いしたい」
時尾は再び空を見上げて微笑んだ。
下城の時、時尾は周囲の目も気にせず、いそいそと帰り支度を済ませて城を飛び出した。
殿方との逢瀬を誰かに見られては恥ずかしい思いと、斎藤がここまで来ていたらどうしようと嬉しい戸惑いを振り払う為、きょろきょろと顔を振ってから小走りで門を離れた。
日の入りが早い季節、早くも山の向こうに日が隠れようとしている。時尾は先日斎藤と合流した場所を目指した。
地面の砂土を蹴る急ぎ足で暫く行くと、斎藤が袖に手を隠して腕を組み、立っていた。
時尾に気付いて腕を解く姿に、時尾の顔が綻ぶ。時尾はあっという間に斎藤に駆け寄った。
「ありがとうございます、斎藤様」
「気にするな」
斎藤の口元が二ッと動いた。気になる女が目の前でにこにこと嬉しそうにしている。悪い気はしない。斎藤の気持ちも俄かに浮ついた。
「斎藤様」
「その、様はいらん。俺は一介の浪人、高木家は格が違うだろ」
家の格、身分など気にする性質ではない斎藤だが、時尾とその周囲の人々の考えを汲んだ。しかし時尾も気にしませんと首を振った。
「関係ありません。それに、斎藤様は一隊の隊長です。しかも幕臣になられたとお聞きしました」
「断った。柄じゃないんでな」
新選組幹部を丸ごと幕臣に、幕府から提案があったが多くの者が拒んだ。斎藤もその一人だった。
「幕府を守る為に尽力してきたと思われがちだが真実は違う」
「そうなのですか」
「あぁ」
己の正義を貫いてきただけの斎藤に返したい恩義があるとすれば、会津公に対してだ。会津新選組隊長を引き受け、会津を守る為に出陣する理由もそこにある。
京で新選組を支えてくれた会津。今は、時尾が住まう会津。斎藤にとって、すっかり特別な地になっていた。
「でも、斎藤様としか呼べません。……もし、出陣されてお戻りになりましたら、少し譲っても……構いませんが」
「ほぅ、何故出陣後なんだ」
「それは……」
無事に戦を終えて欲しいから。その時は、自分のもとへ戻って来て欲しいから。
望みを伝えあぐねる時尾を見て、斎藤はすぐに承服した。
「いいだろう。面白い約束だな」
問い詰める気はない。質問攻めにした時のように新選組幹部の癖を出す前に、頷いたのだ。
時尾に苦笑いが浮かぶ。また我が儘を貫いてしまった申し訳なさと、ほっとした安堵が滲んでいる。
「さて、どこへ行く。いつもの社でいいのか」
「はい。あの社がいいです」
二人きりになれる場所。慣れ親しんだ場所。父との思い出がある場所へ共に行きたい。
時尾の心をどこまで汲んだのか、斎藤はフッと笑んで行くぞと袖を広げた。
揃って砂土を踏みしめた二人、進み始めて間もなく、背後に近付く足音に振り向いた。
「姉上っ!」