9.雪代縁・夜は明けて
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乱れた姿で寝ついた夢主だが、知らぬ間に分厚い掻巻が重ねられており、目覚めた時、寒さに晒されていたのは布団から出た顔だけだった。
冷たい空気を感じた頬は、隣で眠る縁を見た途端、色づいて緩んでいく。
あどけない顔で眠っている。綺麗な白い髪が目を半分隠しているのが、何だか縁らしい。心を隠して生きてきたから、ううん、ただの恥ずかしがり屋か、怖がりなのかもしれない。愛おしく思い見つめていると、夢主の視線に応じるように縁は目を覚ました。
恥じらって微笑む夢主と目が合い、縁は夕べの二人の時間を思い出して、咄嗟に顔を隠してしまった。
うつ伏せになって枕に顔をうずめている。枕を抱える腕は逞しいが、いじける子供みたいな仕草だ。
「俺のコト、嫌いになったか」
「えっ」
突然の問いに、夢主は首を傾げた。
「どうしたの、縁」
「……お前を」
縁は自分の衝動と行為に嫌悪を抱いていた。夢主と繋がった初めての快楽に自分は身も心も満たされたが、夢主はどうなのか。苦しくなかった、無理をして傷付いてはいまいか。姉以外の誰かをこんなに案じるのは初めてだ。不安で仕方がない。同時に、嫌いにならないでくれと願っていた。
「縁、大好きだよ」
縁の不安はたった一言で払拭された。霞がかった心が一瞬で晴れ渡る。縁は顔を覗かせた。夢主の本音を確かめる縁の顔は、少しだけ怯えているようにも見える。
「俺だってスキだ」
「……嬉しい」
夢主が微笑むと、縁は腕を伸ばした。
大きな体で夢主を大事に抱きしめる。壊してしまわないようにそっと、けれども力一杯抱きしめたい。
縁の気遣いを感じた夢主は、力強く縁を抱き返した。その力を目安に、縁の力が強まる。
「縁の胸ってあったかいね、熱いくらいだよ……」
上半身何も纏わぬ縁、肌に頬を当てた夢主は直に熱を感じた。
縁は小さく頷くだけで、何も答えない。間近で感じる呼吸が乱れ、夢主はもぞもぞと顔を上げた。
「泣いてるの……縁……」
「泣いてなんかナイ、泣いてなンか」
「ふふっ、縁、可愛い」
「馬鹿言うナ」
縁は強がったが、涙は隠さなかった。
優しい目から零れる涙。沢山傷付いてきた縁が、優しく微笑んで泣いている。頬を伝った涙が夢主に落ちた。
夢主は縁が自分にしてくれたように、涙を拭った。
柔らかい感触に身を任せた縁、慈しみを感じると、折角拭ってもらった目尻にまた涙が浮かぶ。
これでは涙が止まらない。
はにかんだ縁は夢主の細い手を掴んで除け、ありがとうの代わりに指先に口づけをした。すぐに離すのが惜しく、縁は夢主の細い指の間に自らの太い指を滑り込ませた。
照れくさいねと微笑み合った後、縁は手を離して、ようやく自ら涙を拭った。
「今日、白梅香つけてもいいかな」
少し甘えた声で、夢主は涙を拭った縁が見せた気まずさを打ち消した。さりげない優しさに、縁の声色も柔らかくなる。
「お前の白梅香だ、好きにしたらいいヨ。俺がまたつけてやろうカ」
「うん、あの感覚……凄く好き。恥ずかしかったけど……」
「そうか」
机の上、白梅香のそばには簪が置かれている。巴が大切な人から贈られた簪。オイボレが暫く預かり、やがて縁の手に渡った。今は夢主のもとで、夢主の髪が伸びるのを待っている。
ベッドから降りた縁、掻巻が暑かったのか上半身は肌を晒したままだが、下はいつもの大陸服を身に付けている。美しく鍛えられた背中に、夢主は頬を染めた。服を着ている時より背中が大きく見えるのは、肌が露わになり、はっきり見える隆々とした筋肉のせいだろうか。夢主は縁の背中から目が離せず、見つめていた。
「簪も、白梅香も、お前のものになっていく」
「え」
淋しそうな縁の声に、夢主は体を起こした。
縁が簪に視線を落として触れている。愛おしそうに、でも淋しさとは違う眼差しで見つめている。
「姉さんの思い出とは別だから、淋しくはないヨ。ただ、不思議な気分だ」
「縁……」
「白梅香が香るお前は凄く好い、何も纏わないお前の香りも好きだが、白梅香が共に香ると、堪らなく好い」
縁が瓶の蓋を外すと、夢主にも薄っすら香りが届いた。
机上に瓶を戻す硬い音に夢主の胸が高鳴る。ちらと横目でベッドを見る縁と目が合い、夢主の体がピクリと反応した。
「今日は診察ないのカ、いいのか白梅香」
「あっ」
「もう遅いけどナ」
現実を思い出した夢主が真顔に戻る。
しかし縁は問答無用で、自らの手で運んだ白梅香の雫を夢主の首筋に移した。間髪入れず、縁は夢主に口づける。
「んっ……」
唇を重ねながら、香りを塗り込んでいく。
今しがた見せた不安が嘘のように、縁は堂々と夢主を艶めいた気持ちへ導いていった。
「……ぁっ」
濡れた音が鳴るまで深い口づけを受けた夢主が、切ない声を漏らして顔を離した時、扉を叩く音が部屋に響いた。二人は驚いた顔で扉を見た。
木の扉を叩く強い音が続く。小国だ。
夢主は思わず乱れた身頃を合わせるが、上半身裸の縁と同じベッドの上にいる状況では何の言い訳にもならない。
顔を火照らせて、どうしようと困惑して縁を見ると、扉の外から小国の声が聞こえた。
「今朝の回診は儂に任せなさい。だが一つだけ、もう少し控えめにするんじゃぞ!!」
筒抜けじゃ!と窘められた二人は、赤い顔を見合わせた。
気が抜けて、ベッドの上にへたり込む。二人の気持ちなど百も承知じゃと小国の声が続いて聞こえる気がした。
「……ふふっ、怒られちゃった」
「フッ、怖いジイさんだ」
「ふふふっ」
二人は暫くの間、ベッドの上でくすくすと笑っていた。
この日、同じ白梅香の香りを纏う二人を、診療所の皆は微笑ましく見守った。
外は初雪が町をほんのり白く染めている。そんな景色を見て微笑む二人の様子は、皆の心を和ませた。
冷たい空気を感じた頬は、隣で眠る縁を見た途端、色づいて緩んでいく。
あどけない顔で眠っている。綺麗な白い髪が目を半分隠しているのが、何だか縁らしい。心を隠して生きてきたから、ううん、ただの恥ずかしがり屋か、怖がりなのかもしれない。愛おしく思い見つめていると、夢主の視線に応じるように縁は目を覚ました。
恥じらって微笑む夢主と目が合い、縁は夕べの二人の時間を思い出して、咄嗟に顔を隠してしまった。
うつ伏せになって枕に顔をうずめている。枕を抱える腕は逞しいが、いじける子供みたいな仕草だ。
「俺のコト、嫌いになったか」
「えっ」
突然の問いに、夢主は首を傾げた。
「どうしたの、縁」
「……お前を」
縁は自分の衝動と行為に嫌悪を抱いていた。夢主と繋がった初めての快楽に自分は身も心も満たされたが、夢主はどうなのか。苦しくなかった、無理をして傷付いてはいまいか。姉以外の誰かをこんなに案じるのは初めてだ。不安で仕方がない。同時に、嫌いにならないでくれと願っていた。
「縁、大好きだよ」
縁の不安はたった一言で払拭された。霞がかった心が一瞬で晴れ渡る。縁は顔を覗かせた。夢主の本音を確かめる縁の顔は、少しだけ怯えているようにも見える。
「俺だってスキだ」
「……嬉しい」
夢主が微笑むと、縁は腕を伸ばした。
大きな体で夢主を大事に抱きしめる。壊してしまわないようにそっと、けれども力一杯抱きしめたい。
縁の気遣いを感じた夢主は、力強く縁を抱き返した。その力を目安に、縁の力が強まる。
「縁の胸ってあったかいね、熱いくらいだよ……」
上半身何も纏わぬ縁、肌に頬を当てた夢主は直に熱を感じた。
縁は小さく頷くだけで、何も答えない。間近で感じる呼吸が乱れ、夢主はもぞもぞと顔を上げた。
「泣いてるの……縁……」
「泣いてなんかナイ、泣いてなンか」
「ふふっ、縁、可愛い」
「馬鹿言うナ」
縁は強がったが、涙は隠さなかった。
優しい目から零れる涙。沢山傷付いてきた縁が、優しく微笑んで泣いている。頬を伝った涙が夢主に落ちた。
夢主は縁が自分にしてくれたように、涙を拭った。
柔らかい感触に身を任せた縁、慈しみを感じると、折角拭ってもらった目尻にまた涙が浮かぶ。
これでは涙が止まらない。
はにかんだ縁は夢主の細い手を掴んで除け、ありがとうの代わりに指先に口づけをした。すぐに離すのが惜しく、縁は夢主の細い指の間に自らの太い指を滑り込ませた。
照れくさいねと微笑み合った後、縁は手を離して、ようやく自ら涙を拭った。
「今日、白梅香つけてもいいかな」
少し甘えた声で、夢主は涙を拭った縁が見せた気まずさを打ち消した。さりげない優しさに、縁の声色も柔らかくなる。
「お前の白梅香だ、好きにしたらいいヨ。俺がまたつけてやろうカ」
「うん、あの感覚……凄く好き。恥ずかしかったけど……」
「そうか」
机の上、白梅香のそばには簪が置かれている。巴が大切な人から贈られた簪。オイボレが暫く預かり、やがて縁の手に渡った。今は夢主のもとで、夢主の髪が伸びるのを待っている。
ベッドから降りた縁、掻巻が暑かったのか上半身は肌を晒したままだが、下はいつもの大陸服を身に付けている。美しく鍛えられた背中に、夢主は頬を染めた。服を着ている時より背中が大きく見えるのは、肌が露わになり、はっきり見える隆々とした筋肉のせいだろうか。夢主は縁の背中から目が離せず、見つめていた。
「簪も、白梅香も、お前のものになっていく」
「え」
淋しそうな縁の声に、夢主は体を起こした。
縁が簪に視線を落として触れている。愛おしそうに、でも淋しさとは違う眼差しで見つめている。
「姉さんの思い出とは別だから、淋しくはないヨ。ただ、不思議な気分だ」
「縁……」
「白梅香が香るお前は凄く好い、何も纏わないお前の香りも好きだが、白梅香が共に香ると、堪らなく好い」
縁が瓶の蓋を外すと、夢主にも薄っすら香りが届いた。
机上に瓶を戻す硬い音に夢主の胸が高鳴る。ちらと横目でベッドを見る縁と目が合い、夢主の体がピクリと反応した。
「今日は診察ないのカ、いいのか白梅香」
「あっ」
「もう遅いけどナ」
現実を思い出した夢主が真顔に戻る。
しかし縁は問答無用で、自らの手で運んだ白梅香の雫を夢主の首筋に移した。間髪入れず、縁は夢主に口づける。
「んっ……」
唇を重ねながら、香りを塗り込んでいく。
今しがた見せた不安が嘘のように、縁は堂々と夢主を艶めいた気持ちへ導いていった。
「……ぁっ」
濡れた音が鳴るまで深い口づけを受けた夢主が、切ない声を漏らして顔を離した時、扉を叩く音が部屋に響いた。二人は驚いた顔で扉を見た。
木の扉を叩く強い音が続く。小国だ。
夢主は思わず乱れた身頃を合わせるが、上半身裸の縁と同じベッドの上にいる状況では何の言い訳にもならない。
顔を火照らせて、どうしようと困惑して縁を見ると、扉の外から小国の声が聞こえた。
「今朝の回診は儂に任せなさい。だが一つだけ、もう少し控えめにするんじゃぞ!!」
筒抜けじゃ!と窘められた二人は、赤い顔を見合わせた。
気が抜けて、ベッドの上にへたり込む。二人の気持ちなど百も承知じゃと小国の声が続いて聞こえる気がした。
「……ふふっ、怒られちゃった」
「フッ、怖いジイさんだ」
「ふふふっ」
二人は暫くの間、ベッドの上でくすくすと笑っていた。
この日、同じ白梅香の香りを纏う二人を、診療所の皆は微笑ましく見守った。
外は初雪が町をほんのり白く染めている。そんな景色を見て微笑む二人の様子は、皆の心を和ませた。
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