13.果たせる未来 -sai-
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沖舂次が俺に不躾な視線を向けるのは珍しくない。じろじろと、しつこく見てくる。
全身を隈なく動く視線はまだいい。一か所に視線が留まる時、とりわけ口元から視線が動かない時は流石に煩わしい。煙草を吸う時、話す時。俺の口に何かついているか、聞いてやりたいほどだ。
咥えた煙草を動かしたり、紫煙を吐き出したり、動きの全てを見つめて目を離さない時、悪戯を仕掛けたい気に駆られる。しかしやり過ぎて奴がその気になっては本末転倒。遊んでやりたいが、単純にはいかない。
「訓練を兼ねて捩じ上げる程度が限界か」
男女問わず初心なのをいいことにおちょくるのは面白いが、沖舂次は例外だ。少しぐらい構わんかと揶揄って、涙が滲む目と目が合った時の居心地の悪さ。いや、嫌いではないが、沖田総司の顔が重なると背中がむず痒い。何て顔をすると、どつきたくて堪らない。
「沖田君が相手ならどつくまいが」
沖舂次だから厄介なのだ。沖田なら揶揄って何を言おうが、貴方に言われたくありませんと笑って終わりだ。事によっては気色悪いとさえ言われた。沖舂次はそうでは無い。威勢よく言い返してくる時はいいが、恥じらい顔で俯かれた時は扱いに困る。
沖田と同じ顔で女みたいに振る舞うな。言ってやりたいが言いがかりもいいところ。私情を挟んだ難癖、上司から部下へ掛ける言葉ではない。やめろと言えたらどれほど楽か。
「どう折り合いをつけるか」
分かっている。昨日も、その前もやり過ぎた。
沖舂次のことだ、頭の中で様々な感情がややこしく絡みあっているだろう。
「ちっ。一度連れ出すか」
詫び。柄にもないが、俺は沖舂次に"詫びの一杯"を奢ることにした。
一杯は一杯でも、かけそばだ。
「お蕎麦を奢ってやるって、いつもの事じゃありませんか。いつも奢って頂いているので文句は言いませんが」
「お前、いい度胸をしているな」
沖舂次をいつもの蕎麦屋に誘うと、遠慮もせずについて来た。俺は畳が敷かれた馴染みの席に座り、沖舂次は向かいに腰を下ろした。
「もしかしてお詫びのつもりですか」
いちいち癪に障る言葉選びだ。俺に対する不満のせいだろうが、無害な顔して棘のある言葉で話すところも沖田そっくりだ。
蕎麦が運ばれてきて食事が始まると、嬉しそうに戴きますと手を合わせる。日常に於ける素直な一面も、似ている。こんな風に毎度沖田と比べてみてしまう俺も問題だな。
考え事をしながら手袋を外すと、始まった。自らの食事の合間、沖舂次が俺を見ている。
手袋を外すさまがそんなに珍しいか。手で外さず口で咥えて外してやれば良かったか。如何わしい所作で恥じらいを植え付けてやれば、次は控えたかもしれない。
箸を持っても手元も見られている。何だ、俺の手で触れられたいか。そう言えば昔、厭らしい手だと言われたことがある。女好きな新撰組幹部連中の意見だ。連中、その手の意見は的を射ていた。ならば沖舂次から見てもそうなんだろう。ここはひとつ、箸の上に指を滑らせてやろうか。
馬鹿な悪戯を思いつくが行動には至らなかった。そんな阿呆なことをしてどうする。刺激する意味がない。
「食べる姿を何じろじろと見ている」
「いえ、斎藤さんって」
無難に窘めると、沖舂次は目を大きく瞬かせて俺の手をなお見つめた。
見るなと言っている。睨むが目が合わず、通じない。その呼び方もやめろと念を込めたが、沖舂次の中で斎藤さん呼びはすっかり定着してしまったようだ。
「斎藤さんの食べ方、綺麗だなって……お箸の使い方とか、綺麗ですよね」
「普通だろ」
「綺麗ですよ、手もお綺麗ですね」
さらっと言いやがったなコイツ。俺は無意識の恐ろしさを知った。沖田と同じ、意図せず人を振り回す性質。
俺は箸をへし折りたいのを我慢して、沖舂次を無視して蕎麦を啜り食事を続けた。
すると、沖舂次は一人喋り続けた。しかも今度は俺の口元に視線を固定しやがった。
「それに斎藤さん、普段は行儀悪いじゃありませんか、机にもたれて座ったり、書類も放り投げるし、邪魔なもの足蹴にして除けたり。行儀悪いのに、食事だけは綺麗なのが不思議ですよね」
人が蕎麦を啜る様子を見つめる方が行儀悪かろう。舌舐めずりでも見せつけてやろうか。
俺は手早くそばを食べ終えて口元を拭った。少しばかり行儀悪く、親指で拭うと厭らしくその指を舐めた。
沖舂次はそれを見てようやく我に返り、視線を外した。
全身を隈なく動く視線はまだいい。一か所に視線が留まる時、とりわけ口元から視線が動かない時は流石に煩わしい。煙草を吸う時、話す時。俺の口に何かついているか、聞いてやりたいほどだ。
咥えた煙草を動かしたり、紫煙を吐き出したり、動きの全てを見つめて目を離さない時、悪戯を仕掛けたい気に駆られる。しかしやり過ぎて奴がその気になっては本末転倒。遊んでやりたいが、単純にはいかない。
「訓練を兼ねて捩じ上げる程度が限界か」
男女問わず初心なのをいいことにおちょくるのは面白いが、沖舂次は例外だ。少しぐらい構わんかと揶揄って、涙が滲む目と目が合った時の居心地の悪さ。いや、嫌いではないが、沖田総司の顔が重なると背中がむず痒い。何て顔をすると、どつきたくて堪らない。
「沖田君が相手ならどつくまいが」
沖舂次だから厄介なのだ。沖田なら揶揄って何を言おうが、貴方に言われたくありませんと笑って終わりだ。事によっては気色悪いとさえ言われた。沖舂次はそうでは無い。威勢よく言い返してくる時はいいが、恥じらい顔で俯かれた時は扱いに困る。
沖田と同じ顔で女みたいに振る舞うな。言ってやりたいが言いがかりもいいところ。私情を挟んだ難癖、上司から部下へ掛ける言葉ではない。やめろと言えたらどれほど楽か。
「どう折り合いをつけるか」
分かっている。昨日も、その前もやり過ぎた。
沖舂次のことだ、頭の中で様々な感情がややこしく絡みあっているだろう。
「ちっ。一度連れ出すか」
詫び。柄にもないが、俺は沖舂次に"詫びの一杯"を奢ることにした。
一杯は一杯でも、かけそばだ。
「お蕎麦を奢ってやるって、いつもの事じゃありませんか。いつも奢って頂いているので文句は言いませんが」
「お前、いい度胸をしているな」
沖舂次をいつもの蕎麦屋に誘うと、遠慮もせずについて来た。俺は畳が敷かれた馴染みの席に座り、沖舂次は向かいに腰を下ろした。
「もしかしてお詫びのつもりですか」
いちいち癪に障る言葉選びだ。俺に対する不満のせいだろうが、無害な顔して棘のある言葉で話すところも沖田そっくりだ。
蕎麦が運ばれてきて食事が始まると、嬉しそうに戴きますと手を合わせる。日常に於ける素直な一面も、似ている。こんな風に毎度沖田と比べてみてしまう俺も問題だな。
考え事をしながら手袋を外すと、始まった。自らの食事の合間、沖舂次が俺を見ている。
手袋を外すさまがそんなに珍しいか。手で外さず口で咥えて外してやれば良かったか。如何わしい所作で恥じらいを植え付けてやれば、次は控えたかもしれない。
箸を持っても手元も見られている。何だ、俺の手で触れられたいか。そう言えば昔、厭らしい手だと言われたことがある。女好きな新撰組幹部連中の意見だ。連中、その手の意見は的を射ていた。ならば沖舂次から見てもそうなんだろう。ここはひとつ、箸の上に指を滑らせてやろうか。
馬鹿な悪戯を思いつくが行動には至らなかった。そんな阿呆なことをしてどうする。刺激する意味がない。
「食べる姿を何じろじろと見ている」
「いえ、斎藤さんって」
無難に窘めると、沖舂次は目を大きく瞬かせて俺の手をなお見つめた。
見るなと言っている。睨むが目が合わず、通じない。その呼び方もやめろと念を込めたが、沖舂次の中で斎藤さん呼びはすっかり定着してしまったようだ。
「斎藤さんの食べ方、綺麗だなって……お箸の使い方とか、綺麗ですよね」
「普通だろ」
「綺麗ですよ、手もお綺麗ですね」
さらっと言いやがったなコイツ。俺は無意識の恐ろしさを知った。沖田と同じ、意図せず人を振り回す性質。
俺は箸をへし折りたいのを我慢して、沖舂次を無視して蕎麦を啜り食事を続けた。
すると、沖舂次は一人喋り続けた。しかも今度は俺の口元に視線を固定しやがった。
「それに斎藤さん、普段は行儀悪いじゃありませんか、机にもたれて座ったり、書類も放り投げるし、邪魔なもの足蹴にして除けたり。行儀悪いのに、食事だけは綺麗なのが不思議ですよね」
人が蕎麦を啜る様子を見つめる方が行儀悪かろう。舌舐めずりでも見せつけてやろうか。
俺は手早くそばを食べ終えて口元を拭った。少しばかり行儀悪く、親指で拭うと厭らしくその指を舐めた。
沖舂次はそれを見てようやく我に返り、視線を外した。