【明】奇妙な残党~六連ねの鳥居の叢祠
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志々雄を倒した後、方治の策略により斎藤達は闘場『大灼熱の間』に閉じ込められていた。
男達の背丈の倍以上はあろうかという、鋼鉄の扉に行く手を阻まれている。
命を燃やして挑んだ志々雄真実との闘いを終え、死線をさまよっている緋村剣心。
緋村との約束の闘いよる消耗と手傷により、もはや攻撃力の残っていない四乃森蒼紫。
そして安慈との死闘で満身創痍の相楽左之助。
──時間が無い、か……
左之助に抱えられて意識を失っている緋村を一瞥すると、不意に神谷道場での戦いが思い出された。
あの時、緋村はすっかり鈍った体で牙突を受けて、吹っ飛んだ。座り込む奴をかばい、涙を溜めながらも勝気に自らの前に立ちふさがった女。
──神谷の娘、神谷薫……だったか……
脳裏をよぎった健気な姿が、自分を待つ夢主と重なる。
──待つ女がいるというのなら帰してやらねばなるまい、抜刀斎は仕事を成し遂げた。次は……後始末は、俺の仕事だ……
その場に取り残された男達の中で、一番余力を残しているのは自分。刀を手に、扉に向かい牙突の構えを見せた。
最後の力を振り絞り、放った一撃で分厚い鋼鉄の扉を打ち砕く。斎藤の手により活路は開かれた。
「フン」
刀を止めた途端、衝撃で開いた傷口から血が吹き出し、太腿を叩いて乱暴な止血をした。
道が開け安堵する一同だが、突然轟音と共に足もとが大きく揺れ、男達は咄嗟に身構えた。
次に爆音が響き渡り、闘場から巨大な炎が噴出する。
何が起きているかわからぬうちに揺れはより激しく変わり、爆発に次ぐ爆発が起こり、あっという間に辺りは炎と煙に包まれた。
頭上からは巨大な岩や瓦礫が降り始める。
急がなければ、速やかに退路を行くべし。そう考えた次の瞬間、斎藤は砕いたばかりの扉への道を断たれてしまった。
地の底から吹き上げた爆炎が、目の前の足場を崩し去ってしまったのだ。
ぽっかり穴が空いたように途切れた道。この戦いを共に乗り切った男達と隔てられ、斎藤は一人取り残された。
外への道は直ぐそこ、だが踏ん張る事もままならない両腿では、この空間を飛び越えることは不可能だ。
崩れ落ちた道は左之助を激しく動揺させた。
我が身の危機の様に愕然し青ざめている。
斎藤は気を落ち着かせる為、おもむろに燐寸に火をつけ煙草を呑んだ。
──フゥ……
地下では、男達を閉じ込めた方治が気狂いし、奇声を上げながら石油汲み上げ装置を破壊して回っている。
自らは別の道からの脱出を余儀なくされた斎藤は、狼狽する若い左之助に余裕を示す為、涼しげにニヤリと笑って見せた。
「お前等とはくぐった修羅場の数が違うんだよ」
左之助は斎藤がもう助からないと思い込み、泣き出しそうな勢いで喚いている。
──ククッ……自分の身を案じろよ……
自分の名を叫び続ける彼に、いつもの決まり文句と共に「阿呆が」と笑んで告げると、爆炎に向かって歩き出した。
「そうさ、お前等とはくぐった修羅場の数が違うんだよ」
大丈夫だ、蒼紫には地図が渡っている。それに奴はそれなりの経験がある。
戊辰戦争で戦いの場を得られなかったとはいえ、歴戦の御庭番衆御頭だ。必ずあのヒヨッコを外に導いてくれるだろう。ヒヨッコは抜刀斎を連れ出す。
そんな確信があった。奴等は無事に脱出する。
斎藤はみんなと別れ、闘場の内部へ向かった。
左之助の叫び声も、直ぐに爆発や爆風の音で聞こえなくなった。
あまりの轟音に耳も少しやられているか……斎藤は冷静に考えながら、頭の中に脱出の経路を描いていた。
両太腿の傷がじわりと痛むが、気にしてなどいられない。
手にしていた煙草を投げ捨てると、たちまち炎にのまれ、燃える音を立てる間もなく消え去った。
燃える闘場を出て地図を手に進む。アジトは迷路のようだが、道さえ分かれば何のことはない。
複雑な罠の殆どが、石油施設爆発の衝撃で勝手に発動したようだ。あちこちに仕掛けの残骸が落ちている。
志々雄専用の脱出路らしき道を行き、出口までもう僅かの所まで辿り着いていた。
「ここまで来れば地図も無用……」
呟いて、斎藤は上着の隠しに地図を入れた。
出口に近付くと、所々に人が倒れている。逃げ出そうとして爆発の衝撃で動けなくなった者、崩れた瓦礫の下で押しつぶされている者。
志々雄の配下達がうめき声を上げて、今にも命の火を消そうとしていた。
──どうする事も出来まい……
「これがお前達の運の尽きさ、運が良ければこの後の警官隊の捜索で捕縛されるだろう。死ぬのが嫌なら、粘るコトだな」
怪我のせいで踏ん張りもきかず、万一瓦礫を砕いたところで奴等に向かってこられてはいささか厄介。
斎藤は死にかけの残党達の間をすり抜けて先を急いだ。
男達の背丈の倍以上はあろうかという、鋼鉄の扉に行く手を阻まれている。
命を燃やして挑んだ志々雄真実との闘いを終え、死線をさまよっている緋村剣心。
緋村との約束の闘いよる消耗と手傷により、もはや攻撃力の残っていない四乃森蒼紫。
そして安慈との死闘で満身創痍の相楽左之助。
──時間が無い、か……
左之助に抱えられて意識を失っている緋村を一瞥すると、不意に神谷道場での戦いが思い出された。
あの時、緋村はすっかり鈍った体で牙突を受けて、吹っ飛んだ。座り込む奴をかばい、涙を溜めながらも勝気に自らの前に立ちふさがった女。
──神谷の娘、神谷薫……だったか……
脳裏をよぎった健気な姿が、自分を待つ夢主と重なる。
──待つ女がいるというのなら帰してやらねばなるまい、抜刀斎は仕事を成し遂げた。次は……後始末は、俺の仕事だ……
その場に取り残された男達の中で、一番余力を残しているのは自分。刀を手に、扉に向かい牙突の構えを見せた。
最後の力を振り絞り、放った一撃で分厚い鋼鉄の扉を打ち砕く。斎藤の手により活路は開かれた。
「フン」
刀を止めた途端、衝撃で開いた傷口から血が吹き出し、太腿を叩いて乱暴な止血をした。
道が開け安堵する一同だが、突然轟音と共に足もとが大きく揺れ、男達は咄嗟に身構えた。
次に爆音が響き渡り、闘場から巨大な炎が噴出する。
何が起きているかわからぬうちに揺れはより激しく変わり、爆発に次ぐ爆発が起こり、あっという間に辺りは炎と煙に包まれた。
頭上からは巨大な岩や瓦礫が降り始める。
急がなければ、速やかに退路を行くべし。そう考えた次の瞬間、斎藤は砕いたばかりの扉への道を断たれてしまった。
地の底から吹き上げた爆炎が、目の前の足場を崩し去ってしまったのだ。
ぽっかり穴が空いたように途切れた道。この戦いを共に乗り切った男達と隔てられ、斎藤は一人取り残された。
外への道は直ぐそこ、だが踏ん張る事もままならない両腿では、この空間を飛び越えることは不可能だ。
崩れ落ちた道は左之助を激しく動揺させた。
我が身の危機の様に愕然し青ざめている。
斎藤は気を落ち着かせる為、おもむろに燐寸に火をつけ煙草を呑んだ。
──フゥ……
地下では、男達を閉じ込めた方治が気狂いし、奇声を上げながら石油汲み上げ装置を破壊して回っている。
自らは別の道からの脱出を余儀なくされた斎藤は、狼狽する若い左之助に余裕を示す為、涼しげにニヤリと笑って見せた。
「お前等とはくぐった修羅場の数が違うんだよ」
左之助は斎藤がもう助からないと思い込み、泣き出しそうな勢いで喚いている。
──ククッ……自分の身を案じろよ……
自分の名を叫び続ける彼に、いつもの決まり文句と共に「阿呆が」と笑んで告げると、爆炎に向かって歩き出した。
「そうさ、お前等とはくぐった修羅場の数が違うんだよ」
大丈夫だ、蒼紫には地図が渡っている。それに奴はそれなりの経験がある。
戊辰戦争で戦いの場を得られなかったとはいえ、歴戦の御庭番衆御頭だ。必ずあのヒヨッコを外に導いてくれるだろう。ヒヨッコは抜刀斎を連れ出す。
そんな確信があった。奴等は無事に脱出する。
斎藤はみんなと別れ、闘場の内部へ向かった。
左之助の叫び声も、直ぐに爆発や爆風の音で聞こえなくなった。
あまりの轟音に耳も少しやられているか……斎藤は冷静に考えながら、頭の中に脱出の経路を描いていた。
両太腿の傷がじわりと痛むが、気にしてなどいられない。
手にしていた煙草を投げ捨てると、たちまち炎にのまれ、燃える音を立てる間もなく消え去った。
燃える闘場を出て地図を手に進む。アジトは迷路のようだが、道さえ分かれば何のことはない。
複雑な罠の殆どが、石油施設爆発の衝撃で勝手に発動したようだ。あちこちに仕掛けの残骸が落ちている。
志々雄専用の脱出路らしき道を行き、出口までもう僅かの所まで辿り着いていた。
「ここまで来れば地図も無用……」
呟いて、斎藤は上着の隠しに地図を入れた。
出口に近付くと、所々に人が倒れている。逃げ出そうとして爆発の衝撃で動けなくなった者、崩れた瓦礫の下で押しつぶされている者。
志々雄の配下達がうめき声を上げて、今にも命の火を消そうとしていた。
──どうする事も出来まい……
「これがお前達の運の尽きさ、運が良ければこの後の警官隊の捜索で捕縛されるだろう。死ぬのが嫌なら、粘るコトだな」
怪我のせいで踏ん張りもきかず、万一瓦礫を砕いたところで奴等に向かってこられてはいささか厄介。
斎藤は死にかけの残党達の間をすり抜けて先を急いだ。